白
真っ白な髪。
紅の瞳。タクツさんとそっくりの顔。
「おっ…、前、いつの間に」
身構えた俺を無視して、その男はタクツさんに近づいた。俺は唖然として、二人を見つめる。まるで、色を映し間違えた鏡を見ている気分だ。
白い人が言った。
「お前さぁ、こんなんじゃ丸一日かかるぞ。分かってんのか?」
タクツさんは、顔をしかめて言い訳する。
「今から言うつもりだった。白が邪魔したんだ」
「うっセ!さっさとやれ!」
「白こそ黙ってろよ!邪魔しないでくれる?」
「俺はグダグダ話してるお前にだな…」
「余計混乱させてどうする?!」
ー…。喧嘩を始めた。
「いっつもいっつも白はー…」
「お前こそ何時間もー…」
俺は、そっと部屋を抜け出して、台所に行った。母親に、自分で麦茶を持って行くと言って、それを受け取る。二つしかないため、もう一つ入れる。
俺が上に行くと、餓鬼のように喧嘩する二人がいた。俺はひとまず声をかけて、麦茶を提供する。
「あ、ありがと」
「どうも、ユーマ」
それぞれ一気に飲んで落ち着いたのか、喧嘩は止まったらしかった。
改めて白い人が俺を見る。
「よう。俺はツクタ。まあ…、こいつとは双子だと思ってくれればいい。深く考えんな」
そう言われても…、と心の中で突っ込んで、俺は返事をした。変な人だと思う。
「って事で、お前を拉致る。準備しろ」
「はぁっ!?」
慌ててタクツさんを見ると、彼は黙ったまま首をくすめた。反対しない所を見ると、彼も同じような事を言いに来たのだろう。
「詳しいことは、追々話してく。今は準備しろ。部活の合宿でも行くって親に言っとけ。いいな」
俺は、訳が分からないまま頷く。
それから何秒か考えて、
「ってどこ行くんですか!?どうして俺?」
と叫ぶ。
白い人…ツクタさんが、耳を塞いで俺を見た。その顔にはハッキリと、うるさいと書いてある。
「バレると困るから、なるべくの情報は隠すことになっている。大丈夫だ、あと、えっと…」
「三人」
タクツさんがそう言った。白い方が、そう。三人。と肯定する。
「君と同年代の子が三人いる。短い間だけど、いい子ばかりだよ。仲良くしてやってね」
そう付け足して、タクツさんは笑った。
「明日また来る。せいぜいママと、さよならのハグでもしてな」
「こらっ、白!言い方が…」
タワツさんが、またツクタを睨んだ。
また喧嘩になりそうだったため、俺は勝手にうなずく。
「準備しとけば良いんですね?」
二人が驚いたように此方を見た。
何秒かの沈黙が流れる。
何かまずったか?
と一瞬俺は冷や冷やしたが、ツクタの方がうなずいた。まるで、訝しむように俺を見たまま。
それからまた、何秒かの沈黙が流れる。
その沈黙に耐えかねたらしいタクツさんが、
「じゃあ…、今日はこれで。また明日」
と言って立ち上がった。ツクタも彼に続いて立ち上がる。ずっと、俺を見たままだったから、少し気味が悪かった。
* * * *
タクツは、携帯をいじりながら歩いていた。隣りには、当然のようにツクタがいる。二人して黙ったまま歩いていたが、唐突にタクツが話しかけた。
「どう思う?彼」
ツクタは、チラリと彼を見る。興味なさそうな、つまらなそうな顔だった。今だに携帯をいじっているタクツを見て、小さくため息をつく。
「怪しい、と言えば怪しいな」
やっぱり?とタクツが言う。携帯を閉じて、ポケットにしまった。
「あんなに簡単に落とせるなんて、まずおかしいだろ。他の三人は、もっと食ってかかってきた」
「だよね」
タクツが、空を見上げて返事をする。少し雲のある、真っ青な空。自分まで吸い込まれていきそうなほど、その色は濃い。
「で、今誰にメールしてたんだ?」
「キエラ。両親は元気だって。生きてるって言わないのかって愚痴付きで」
ツクタがケラケラと笑う。
あの幼なじみちゃんか~、と呟いた。
それっきり、会話はなかった。
遅い。って自分に突っ込んでます。