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ストーリ一上の第二部です。
カタカタカタ…。
パソコンのキーボードを打す音が、日の光りの差し込んだ部屋に響く。
カタカタカタ…。
「悠真。学校の先輩方よ」
母親だろうか、ユーマと呼ばれた青年の手が止まった。途端に、部屋は静寂に包まれる。
「先輩?…、ふぅーん、こっち呼んで」
扉を隔てて、青年は母に言った。
母は少しの間迷っていたが、すぐに階段を降りる音に変わった。
青年はため息をついて、パソコンの電源を切る。
「先輩って…、仲のいい人いねぇし」
呆れたように、そう呟いた。
* * * *
俺は、神汀 悠真。
高校一年生、一応運動部。彼女募集中。
友達はパソコン。趣味はゲーム。
という一般的な高校生だ。
まぁ、一般的なダメ男とも言う。かもしれない。
「本当、ごめんなさいね。我が儘な子で…」
「いえ、お構いなく」
母が必死に謝る声と、男の声が近付く。
「えぇ、この部屋です。隣り?気にしないで下さい」
「ありがとうございます。本当、お構いなく」
そう言った後、すぐに扉をノックする音になった。俺は適当に座れる場所を作り、返事をする。
「どーぞ」
「お邪魔します」
そう言って入ってきた男はー…。
「えっと…、あんた誰?」
俺の知らない男だった。
「初めまして。田辺 拓付、タクツと言います」
俺よりも少し年上だろうか。
まだ青年を抜けきれていない顔は、しかしどこか余裕のある表情だった。
「嘘、付いたんですか?」
「まぁね。一番手っ取り早い方法だし」
警戒心剥き出しの俺に苦笑して、ベットの上に座る。せっかく下を綺麗にしたのに。
「何のために?」
「君は、ユーマ君だったよね」
俺の質問を無視して、タクツは笑った。いつの間にか名前もバレてる。母さんが言う訳ないから、なら俺の事でも調べたのだろうか。
「部屋のプレートに」
…、違った。
「で、タクツさん。嘘付いてまで俺に何の用ですか?理解出来ません」
噛み付くように尋ねた。タクツは、それも笑って誤魔化す。その時、胸のペンダントが光った。
少し歪んで、赤黒い。
「銃弾、の…?」
やけに生々しく、背筋が冷たくなった。
「最近流行りだよ。知らない?」
「えっ、あ、そうでしたか…」
ジッとそれを見つめる。タクツは、それを持ち上げて見やすくしてくれた。
最近の小物は、やけにリアルだ。
「ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
そう言って笑う姿は、あくまで悪い人には見えない。だからこそ余計に、嘘を付いてまで会いき来た理由を知りたかった。この人はどうして、何のために、俺なんかと会うのだろう。
「えっ、と。本題に入りたいんだけど…、ユーマ君はいいかな?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
どことなく背筋をのばす。
タクツさんは笑ったままだったが、真剣な瞳になった。
そして、ゆっくりとロを開く。
「ぼ「僕と駆け落ちして下さい」
「「はぁ!?」」
そう言ってから、タクツさんまで叫んだ。
慌てたようにペンダントを握る。
俺は唖然と彼を見ていた。
こんな事、ありかよ…。
「何言ってんだ、バカ!勘違いされたらどうする!?ったく、本当に、あぁ~もう!」
誰に言ってるのだろうか。
そう言ってタクツさんは、ペンダントを投げる。
あまりにも荒っぽい動作に、俺は再びポカンと彼を見た。それに気付いたタクツさんが、オロオロと俺を見る。
「あー、これはね、えっと…。僕が言ったんじゃなくて…ね。うん」
そんな事言われても、今ここには俺と彼しかいない。俺が違うなら、タクツさんだろう。声もタクツさんのものだったし…。
困惑している俺に向かって、タクツさんは苦笑した。そして急に、顔が固まる。
俺の、後ろ?
彼の目線を追った先には…─。
いつの間にか、もう一人の男がいた。