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数え切れない星の中に  作者: ニャア
夏休み
5/8

 俺達はその後、すぐに車に乗って港へ向かった。初めて来た時から感じていた潮の香りは、やはり正しかった。五分もしない内に監視カメラで見た所に到着する。


人の気配はない。

古さびた港。

周りには巨大な箱が、ただ静かに積み重なっている。不気味なほど静かだ。


魚の生臭い香りがする。

血の香りも、漂っている。


ケイコさんが、俺に銃を投げ渡した。いざという時は、コレで身を守れということだろう。俺はグリップを力強く握った。


大丈夫。撃てる。


「この近辺にいるはずよ。油断しないで」

ケイコさんが小声で言ってきた。

俺は静かに頷く。


ソロソロと箱を伝って歩く。

今頼りになるのは、電柱の灯りのみだ。


ゆっくりと、前に進む。

少しして広い場所に出た。


俺は驚いて辺りを見回す。

「バカッ!逃げて!」


ケイコさんに押された。

パンッ!


と軽い音が、響く。

それは、最近俺が毎日聞いている音だった。


地面に転がってから慌てて音の方を見る。

ケイコさんはすでに立ち上がって、前方に銃口を向けていた。俺ももがくようにして立ち上がる。


少し高い所。ここから二十メートルほど前。

電柱に照らされて、まるで安い劇でも見ているかのように、ライトアップされている所に。


人が、二人。


「お久しぶり。カオルンだよ」

「白髪!」


ヒラリと手を振った美青年の後ろに、白髪がいた。

アタッシュケースを持って、虚ろに地面を見ている姿は、まともではない。


「えぇ~。無視ですか、冷たいなぁ」

「カオル!どうするつもりなの!?」


ケイコさんが叫んだ。カオルが薄く微笑む。二人は、お互いに銃を向け合っていた。



まるで、映画のワンシーンの様に。



「国外逃亡だよ。姉さん。船が来る予定なんだ」

「そんな事が出来ると思ってるの?」


俺はケイコさんをみた。

さっき、カオルはなんと言ったか。


「あぁ。出来るよ。金があればね」

「金って…。アンタ、まさか…」


「つい先日、完成したんだ。実験も成功してるし、完璧だ!」


ケイコさんの顔が歪んだ。銃を持つ手が震える。しかし、すぐにそれは消えた。


「まだ、追いかけてるの?あの子とアナタは、次元が違ったのよ」


言い聞かせるように、悲しむように。

ケイコさんは言う。


カオルの顔が歪んだ。


「なんの、話?」


その瞳は、怒りに燃えている。

ケイコさんは続けた。


「あなたは社長にはなれない。わかっ」

「黙れ!もう予約者もいる!次こそ僕がっ、僕が」


カオルはそう叫んで、銃を撃った。しかし、それは検討違いの所へ当たった。ケイコさんは怯えることもなく、銃を前へ向けている。


「堕ちたわね、カオル。地位にしがみつくなんて」

「姉さんに言われなくないな。男と寝る事しか出来ないくせに」


緊迫した空気が流れる。

二人は兄弟だったのか…。俺はただぼんやりと納得した。白髪は、ただ虚ろに立っている。まるでロボットだ。


「実験材料は?誰を使ったの?」

「僕の後ろに。いい材料だった」


抵抗したお蔭で、時間がかかったけどね。成果は充分だ。


『実験材料』


俺はその言葉に反応して、白髪を見る。彼の目は虚ろなままだ。何も見ていない。


「持続時間は不明だ。一生かもしれない。まだ中和剤を作ってないからね。僕を殺せば、彼はずっとこのままさ。どう?それでも撃てるかい?」


カオルは不敵に笑った。ケイコさんの手が下がりかかる。その顔には、絶望の色が濃く写っていた。


俺は、静かに銃のグリップを握る。


その時だった。


「成果を見せてあげようか?姉さん」

「止めなさい!何しようとし」

「白君」


ケイコさんの声は、最後までカオルに届かなかった。新しい銃を、カオルが懐から取り出す。そしてそれを、白髪に手渡した。


白髪は、黙ったままそれを受け取る。

アタッシュケースを、ゆっくりと下に置いた。


そして。


「アイツを撃て」


そう言って俺を指差した。


「一号っ!逃げなさ」

「姉さん?」


ケイコさんは、慌てて前を見た。俺に気を取られたせいで銃を下ろしてしまった。カオルが狙いを定める。


「動くな。喋るな。銃を捨てろ。いいね?」


ケイコさんは、舌打ちをしてから銃を捨てた。

それはカラカラと転がって、あっちの方へ行ってしまった。


「ケイコ、さ…」

俺は彼女に手を伸ばしかけて、ハッと白髪を見た。


悪戯に輝いていた瞳は、暗い。

まるで眠ったまま体だけ起こされたようだ。


「白、は…」


パンッ。

一つ目の弾は、俺の左側を掠めた。

ケイコさんは一瞬目を瞑る。


「これ…は…?一体…」

「SU薬。相手の精神を支配しちゃえ!これ一本で二つの効果。命令できる、動いてくれる。スゴーイ」


お茶目な紹介と裏腹に、危険な薬だ。

おいおい、予約者って誰だよ。

最低だな、おいっ。


俺はどこか、壊れたかもしれない。


ケイコさんはただ黙って、悔しそうに俺を見ていた。それしかない、と言いたげに。


白髪が二発目を撃てるように、狙いを定める。

俺はただ、呆然と立っていた。


誰だ、アイツ?


ズンッ、と体に衝撃が走った。

ハッとして腕を見る。


穴が開いていた。

血が、呼吸をするたびにドクドクと流れる。


でもそれだけ。それだけだ。


唖然としているカオルとケイコさん。

カオルが先に正気に戻り、憎々しげに呟いた。


「君…。痛みまで白君に…」

「え?」


恐る恐る白髪を見ると、彼は無言で、しかし俺が撃たれた所を押さえて、悶絶していた。


誰だ、アイツ?


『いらない、と思った感情を白髪に押し付ける』


前に、誰かが言っていた。

朧気に白衣が見える。


「一号…、アナタ痛みをいらない、と思ったことがあった?」


「練習中に、腕が痛くなるのが、ウザイな、とは」



正直に答えた。ケイコさんが溜め息をつく。でも確かにその後、俺は痛いとは思わなくなった。感じなくなった。でも、それでは。それでも、俺は普通と言えるのだろうか。こんな俺が?銃を持って、人を殺そうとして、物理的痛みも感じない俺は。



ふ、つう、だろうか?



「うわぁ…。ヤバく人間離れしてるね」

カオルはケラケラと笑った。


あ、やベ。俺少し混乱してるかも。


頭の中で、誰かがそう呟いた。


白髪は痛みで銃が握れないのか、地面に落としたままだ。拾おうとしいるものの、手は空を切るばかりである。


その姿は、自分と同じ顔という事も加わって、ひどく獣じみていた。人間ではない、『何か別の物質』のように見えた。


なら。


頭の中で、警戒ブザーが鳴り響く。

危険だ、危険だ、と。

でも何が、誰が危険なのか、俺には分からなかった。


毎日行っていた行動は、無意識的だ。

今まさに、何とか銃を取ろうとしている男に向かって、その無防備な頭に向かって。



たった一発、引き金を引く。



ー…、パンッ。



白痛い髪が揺れる。ライトに照らされて、オレンジ色にも見えた、鮮血。


カオルが唖然としている。

ケイコさんは新しい銃を取り出し、カオルのそれを撃って海へ落とした。


グシャッと体が倒れる。

変な固体状のものが、艶やかな光りを帯びていた。



見ていれば一瞬で、考えれば永遠にも近い時間。



自分の銃口から、引きずるように煙りが出ていた。

俺はそれを、ただ見つめる。

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