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数え切れない星の中に  作者: ニャア
夏休み
4/8

 ねぇ、知ってる?


 星の中には、可哀想な王子様が住んでるの。


 そして、自分が王だと言ってるの。


 確かにその世界では彼は王子様よね。


 でも、一歩外へ出たら…。



 自分が愚かな蛙だったって気付くのよ。

 人に使われるに過ぎない、ちっぽけな存在って。


 ねえ、どう思う?


 彼は知らない方がよかったのかしら。

 それとも、気付いただけ成長出来たのかしら?


* * * *

探し回ったあげくに、やっと一つの電話を見つけた。全てが嘘みたいに白い世界の中で、浮き上がるような黒色の電話。少し震える手でそれを握り、ダイヤルを回す。黒電話という物だ。


機械音が静かな世界に響く。

何回目かのコール音のあと、女性の不機嫌そうな声が出てきた。


しまった。時間を考えてなかった。


『どちら様?』


「あ、はいえっと…」


何を話せばいいのかさえ考えてなかった事を思い出す。電話の前でペコペコと頭を下げた。


「あ、すみませんこんな時間に。あの、でもその。あっそうだ。小林さんってご存知ですか彼女から電話番号を教わったのですが…」


しどろもどろに答える。

電話の向こうで_、何やらシャワーの音が聞こえた。

こんな時間に、大変な人だ。


『小林涼子。私の友人よ、どうかしたの?』


ー…、友人。


「あ…、の…」


『死んだのかしら?次に会う時は死体でって、彼女と約束したのよね』


あっさりと、何の感情もなく。

つまらなそうに、彼女は言った。

赤の他人が死んだように。


「っ…、殺されました!小林さんの上司の、高峰薫に殺されたんです!彼女から、あなたに助けを求めろと言われました。俺は何も出来ない一個人の人間です。ー…、助けて、下さい」


心の中のドロドロとしたものは、最後の方には萎んでしまった。俺は、ただただ頭を深く下げる。


『高峰…カオ、ル?』


彼女はしかし、上司の名前に反応した。

それから舌打ちの音が聞こえる。


『…分かったわ。そっちに向かってあげる。待ってなさい、場所は分かるから』


え?なんでこの人…?


もう一度何かを尋ねようとロを開らいた所で、一方的に電話が切れた。


焦ってもう一度ダイヤルを回したが、電源を切られたのか彼女が出る事はなかった。


* * * *


その後、施設内を彷徨いて出入囗を見つけた。

日はもうサンサンと照っていて、夜の気配は微塵も感じさせなかった。


『暑くないか、今日?』

『昨日も言ってたぞ、それ。お前の髪同様体も老化したんじゃないか?』

『うっわっ!冷てーなお前』

『俺の髪は生憎黒でね。どちらかって言うと暑いんですよ~』

『白くしてやろうか?身も心も』

『ピュアになれるって事か?』

『まさか。言葉の通り真っ白って事だよ。冷凍庫にでも入れといてやる』


つい先日までの懐かしい会話。

白髪の、日焼けしない肌と髪。

そして、悪戯に歯を見せて笑う顔。


全てが夢の中の出来事のようで。

でも、あのどうしようもない暑さは覚えている。


会ってー・ニ週間の彼に、俺はすっかり心を開いていた。その位気が合っていたのだ。


外は山奥なのか、木の複雑な緑が一面に広がっていた。木陰で体を丸めて座っている。


何分そうしていたのだろう。


車の音がする、と気付いた。ジッと道らしき所を睨んでいたら、猛スピードで車が来た。


青い軽だ。周りの草や石を弾き飛ばして、減速する様子もなく突っ込んでくる。俺はもちろん、逃げ出すことも出来ずボーッと見つめていた。


ギャギャギャギャギャギャーッ


物凄い音をたてて、目の前。ほんの数十センチ前でピタリと止まる。石が顔にぶつかって、少しヒリヒリとした。


「遅くなったわね。一号さん」


中から、女性が出てくる。二十代後半だろうか。大人の色気がある人だった。セミロングの髪を風になびかせて、薄い口紅を付けた彼女。まるで一人だけ、夏の暑さを感じていなさそうだ。


「一号って…」

「一号、でしょ?よろしくね。私は恵子。ケイコさんでいいわよ」


ハキハキと言う姿は、少し厳しくても嫌みがなかった。お姉さんのようなタイプだ。


「は…はぁ…」

「それと、高校に行いなくなるかも知れない…。それだけ大きな物と、あなたは戦うつもりってことを覚悟して」


真剣な瞳で俺を見つめてきた。


「あなたの『助けて』という言葉には、それだけ大きな意味があるのよ」


怯みそうになる。目をそらしそうになる。

何か巨大な物がのし掛かってくる。


でも。


白髪を助けなきゃならない。

キエラの、小林さんの仇を取らなきゃいけない。

そして、番号が付いているという事は。


俺以外にも被害者はいるという事だ。


彼らを助けられるなら、助けてあげたい。


「俺は、白髪に世話になったんだ。出来る事はやる。もう一度頼みます、ケイコさん。ー…、俺を助けてくれますか?」


ケイコさんは、柔らかな笑みをうかべた。

呆れたように、感心したように俺を見つめる。


それから短く、勿論よと答えてくれた。


* * * *


彼女の車の中で仮眠を取って、紛いなりにも昼食を取った。ケイコさんは、ずっと車を運転しているか、どこか買物へ行ったりしていた。


両親は心配しているだろう。

キエラは目覚めただろうか。

白髪は、大丈夫だと信じよう。


何日か彼女と行動を共にした。

その内、夏休みは終わった。

俺の、行方不明のニュースがちんまりと町内新聞に乗ったのを見た。両親の叫びが、その小さな文の中に詰められていた。苦しかった。


「帰りたいかしら?」


それを見つめていると、ケイコさんがそう話しかけてきた。俺はあわてて記事を隠す。


「い、え。そんな事は…」

「帰りたいでしょ?私もそうよ。幸せだったあの時に帰りたいもの」


そう言って遠くを見る顔は、とても美しかった。何か大きな物を抱えているようだった。俺は目線を追ってみたが、何もなかった。


「そう言えば何も話してなかったわね、一号には」


苦笑してこちらを向く。

車は、どこかへと向かっていた。

いつも俺には、行き先を教えてくれない。


「私にはね、大切な弟がいたわ。弟と、従兄がいたの。とてもいい子だった…。まるで、二人の弟を見ている気分だったもの」


その時の彼女の顔は、幸せそうで懐かしそうだった。俺はただ黙って彼女の話しを聞く。一人言のように、ポツリポツリと彼女は話し出した。


「でもね、一つだけ違った事があったの。従兄の父親は、社長。私達はその元で働いている課長」


ね、もう次元が違ったのよ。私はそれを理解した上で彼と付き合っていた。でも、弟は知らなかった。嫉妬していたわ。


「弟さん、今はどうしてるんですか?」


俺はただ関心もなく尋ねる。

ケイコさんは大げさに肩をくすめた。


「狂っちゃったみたい。人間として、失格よ。あんなものは、いっその事…」


いっその事、どうするつもりなのか。

その後に言葉は続かなかった。

もしかしたら、彼女自身考えていなかったのではないか。そう思った。


「さ、着いたわよ。家なんて四日ぶりでしょ?私の家だから、緊張しなくていいわよ」


簡素な家が、森の中にポツンと立っていた。

街から随分離れた所だろう。

微かに塩の香りがした。ひょっとすると、海が近いのかもしれない。


中はガランとしていて、一人暮らしなのだろう。何か薬品のような香りもした。


「お風呂入りなさい。もう何日も入ってないでしょう?情報収集をするわ」


言われた通り、シャワーを浴びる。

ゴシゴシと体を洗いながら、フッとあの時の事を思い出していた。


銃が相手では、どうしても勝てない時がある。あの時も、もう少し俺に力があればー…。


そっと右手を見る。

人を殺そうとした手だ。

何度も、何度も。


でもきっとそれでも。


俺はまた殺そうとするだろう。

次は、白髪を助けるために。


ー…、なら。


俺はシャワーを止めて、キッと前をにらんだ。

覚悟が必要だ。怯えなんて要らない。戸惑いなんてもう必要がない。そんなものは。


ステテシマエ。


大丈夫。この感情は。

憎しみじゃない。


これは。



ー…、決意だ。


* * * *


シャワーから出て、頭にタオルをかけたままリビングへ行くと、ケイコさんがいた。


「出たわね?残念だけど何の情報も出てないの。少し的を絞りすぎたかしら…」


パソコンを前に、頭をひねっている。

その横には、いつの間にか銃が置いてあった。

当たり前の様に、自然に置いてある。


黙ったままの俺に疑問を持ったのか、ケイコさんが尋ねてきた。


「どうしたの?真剣な顔しちゃって」

「あの、ケイコさん」

「何かしら?お腹減った?」

「いえ、違います」


真っ直ぐに彼女の顔を見つめる。

ケイコさんは、微笑したまま俺の言葉を待ってくれた。


「俺に、銃の撃ち方を教えてくれませんか?この前は、それで不甲斐ない思いをしたので」


「だめよ」


ケイコさんはハッキリと、そして一瞬で返事をした。じっと俺を見る。


「だめ。これはあなたの人生を歪めるわ」

「もう歪んでますよ」

「それでもだめ。人を殺す物よ、コレは」


窘めるようにケイコさんは言った。

頑として認めるつもりはなさそうだ。

それでも俺は、彼女に食い下がった。


「でも、そうしなければ俺は何も守れない!そういう世界に連れ込んだのはあなた達でしょう?死ねって言ってるんですか?」


「違うわ!私が守ると言ってるの。なるべく普通の暮らしに戻れるように、私が。だからダメよ」


ケイコさんは、真剣な目で俺を見つめた。

でも。

俺は、気付いていた。


「あなたは、俺を通して誰を見てるんですか?」


ケイコさんがピクリと震えるのを見る。

彼女は明らかに動揺した。

自分の考えが正しい事に、少し淋しさを覚える。


「…。弟も…。私は弟も守れなかった。でも、だからこそ今は!今は、守れると信じたいのよ」


「それはあなたの考えと、誓いでしょう?俺のではありません。それに、いつも持ってる訳ではなくて、いざという時の準備ですよ」


撃とうなんて思ってないです。


そう言うと、ケイコさんは少し迷ったようだった。

俺と、愛機を何度も見比べる。

もう一押しか?と思った所で、彼女はため息をついた。


「…分かったわ。基礎だけ教えましょう。あなたが…、この扱いが上手くならないことを願うわ」


俺は、心の奥でガッツポーズをする。

ケイコさんは椅子から立って、金庫へと行った。

指紋照合の、分厚い金庫だ。


中から二つ取り出して、一つを俺に渡す。

ズッシリと重いそれは、覚悟があるのか?と無言で語っているようだった。


覚悟?あるに決まってる。

そのための『助けて』だ。


「早速練習よ。まず銃の持ち方から。種類によって異なるんだけど、私達が今回使用するのは比較的一般のものだから気にしないで。まず、このグリップの部分を柔らかく握る。強すぎると手の揺れや反動を直接受けることになるから気を…」


ケイコさんの、弾丸指導が始まった。


* * * *


彼女の家で生活するようになって、二週間。

白髪の情報は、何も聞いていなかった。


ただ毎日銃の発砲練習をくり返し、くり返し、繰り返す。

「腕は痛くならないの?」


と、ケイコさんに聞かれた事があった。

俺は、特に思い当たる節がなっかたため、素直にはい、と答えた。

するとケイコさんは、唐突に利き腕を叩いた。


「何するんですか!?」

俺はビックリして、ケイコさんを見つめた。

彼女は、怪しむようように俺を見つめ、ため息をついた。


「痛くないようね。痛かったら、そんな反応はしないわ」


それで、彼女がした意味が分かった。

痛かったら、練習をやめろ、というつもりだったのだ。

ケイコさんは、呆れたように俺を見つめて、呟く。


「やっぱ男の子だからかしら。筋肉がついてるのね。羨ましいわ」


そう言って、自宅に戻ってしまった。

俺は、それを黙ったまま見つめ。



また発砲練習にとりかかった。



そんなこんなで、二週間。


なんとか打ち方も様になってきたときだった。

いつものように七時半の夕食の時間になって、ケイコさんの家に帰った時、様子がおかしい事に気が付いた。心なしか、彼女の顔が青ざめている。俺は不穏な空気に焦りを感じていた。なんだ。何が起ころうとしている?そっと彼女に尋ねてみる。


「ケイコさん、どうかしたんですか?」


ケイコさんは、最初なにも答えなかった。俺は黙って待った。それから少しして、徐に彼女は話し出した。呟くような、小さな声だった。それはもしかして、俺に話したのではなく、自分に言い聞かせた物かもしれない。


彼女はこう言っていた。


「カオルが見つかったわ。監視カメラに、映ってた。でも、でも、何で」


パソコンの画面を凝視しながら、彼女は呟く。不安そうに、苦しそうに。


「なんで、港なんかに・・」


俺はそっと、パソコンの画面をのぞき見る。いつもは怒られるのだが、今日は素直に見せてくれた。


7時13分

時間の下に、小さくでもはっきりとカオルの姿が映っている。あまり繁盛していなさそうな、漁業ようの港だった。そして。


俺はもう一つの人影をハッキリとみる。


夜に、明かりに照らされて輝く。


白、というよりも薄いオレンジ色に見える。


唯一の青年。


喜びと疑問が同時にせりあがる。俺は混乱したまま叫んだ。


「白髪!?」



人生って色々ありますよね。



・・・、と重く始まりましたが、意味ないです。ホントに。

連載物って、終わるときどうしようって思います。上手く終われないんです。

ジャジャン、バーン!タラリラ!的なかんじに。

あああああああ。どうしよう・・・。


悶えるニャア。

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