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数え切れない星の中に  作者: ニャア
夏休み
3/8

 須く不思議な世界


 数え切れない夢の欠片


 茜色の混沌


 迷うのは、誰?


* * * *

夜が俺から消えて、代わりのように薬品の香りがした。暫く体を持ち運ばれる感覚がする。


フワフワと、まるで現実味がない。


それからまた、薬品の香りも消える。

ん…?と思ったら叩きつけられた。


多分床に。

イッテー、と思うものの声は出ない。

隣からも何かが落ちる音がする。

ー…、白髪?生きてたのか!


喜んでいられる状態ではない。もしかしたら既に干物の状態かもしれないのだ。ご臨終です、的な。


「起こしちゃっていいよ。いつまで寝てるのさ」


上から、青年の声音が聞こえた。俺と同じくらい、といった所だろうか。


「水でしたっけ?」

銃を向けた女の声。

一応は敬語だが、敬っている感じは少しもない。

「何でもいいよ、起こせばいいんだし」

もう慣れてるかのような声。


そして。


ビッジャーン


と盛大な音と一緒に、水がぶっかけられた。

容赦なさすぎ。


「っはあ!いきなりやめろよな!」


でも、それからすぐ体が動くようになった。

ビシャビシャの服で立ち上がる。

白髪の方を見ると、まだ起きていなかった。

水で急に起こされたのは俺だけー…。


そう思ったのは一瞬だった。

二回目のバケツに水を入れて、女が思っ切り白髪にも水をかける。俺の時よりも幾分か叩きつけるような感じだった。


「つっめてーよバカ!」


「うっさい。なんかお前はムカつくんだよ」


「何だよソレ!前はカワイソーとか言ってただろ」


何の事でしょーか、と女はしらを切った。

研究員のような服に、くわえタバコ。

なんか似合っている。


「おーい、小林。変な事言ってないだろーなー?」


それを、あきれながら見ているー…。


えっと、女の人でしたか?


「いーえ。上司様」

小林…さんは皮肉っぽく言う。

上司、と言われたその人は小さなため息をついた。


改めて見回すと、周りは白ばかりだ。

清潔感がありすぎて、逆に寒気すら感じる。

何か大きな機械が少し高い所にあって、その前で上司は呆れた顔をしていた。


「今日は、いやえっと今晩は。僕は高峰薫。カオルンって呼んでね」


「「「却下」」」


三人の声が綺麗に重なった。

ついでに、男の人だと分かった。

と言っても年催に差はなさそうだ。


「えーっ、なんで?よくない、カオルン。…、まぁいっかな別に」


つまらなそうに呟いてから、大きく深呼吸する。


ー…、空気が変わった。


背筋がゾワリとする。

さっきまでの和やかさは、嘘のように消えていた。


カオルが、そっと目を開く。

それはまるで一つの儀式のようだった。


「実験番号一番。君は非常に興味深いよ。自己防衛のために、彼を無意識的に作り上げただけでない。全ての、君が不要だと感じる醜いものも彼にあけ渡している」


小林さんが、ニ本目のタバコに火を付ける。彼女だけが冷静な顔で話しを聞いていた。


俺は、すでに困惑気味である。自分が、えっと何だっけ?


「白君。君もそう感じているだろう?今も、本当は怖くて仕方ないはずだ」


いっそやさしいとも言える顔で白髪を見る。彼は、ただカオルを睨んだままだった。


「んー…。証拠がないって顔だね。僕も特にと言った理由はないいれど…」


そう言って、小さくため息をつきポケットに手を入れた。大げさな動きで首をくすめる。


「一つ上げるとすれば、例えば…。君の性格、とか。普通の存在である君が、目の前で人が殺されかけて恐怖を持つ前に怒りを感じた…。普通腰を抜かしてブルブル震えるだろ?いくら現代っ子でもさ」


カオルが一時言葉を切る。観察するような目で、ジッとこちらを見てきた。


「それでこの結論に達した。君は、君自身の恥ずかしいとか怖いといった感情を、彼に押し付けているのではないかとね。それによって君は、より暴力的になる。のくせに成果が出なくなるんだ。まず銃対素手で戦おうとしないよ」


最後の方には、呆れたような口調になっていた。

今考えても、あの時はどうかしてたと思う。

白髪に、感謝と言った所だろうか。


「と言う事は」


そう言ってカオルはポケットから手を出した。

その手には、もう半分見慣れた銃が握られている。


「白君は君以上に恐がりって事だよねぇ?彼まで敵にまわすと面倒だから」


そこで言葉は切れた。


音高らかに銃が発砲される。


夥しい量の血が、白い部屋に容赦なく飛び散った。

俺は目を見開いてそのシーンを見つめる。

あの夜は暗くて夢心地だったが、今は鮮明な色をつけて俺の目に飛び込んできた。


ー…、小林さん…?


「ひっ…」


撃たれたのは俺でも白髪でもなかった。

長い髪が、柔らかな弧を絵描いて床に落ちる。


「小林さん!」


何故彼女なのか。俺はあわてて彼女に近づいた。半生きの状態だが、このままでは大量出血で死んでしまうだろう。


俺は、突然の出来事で彼女に気を取られていた。

それで、すっかり忘れていた。


カオルの目的が、小林ではなく白髪なのを。


そう言えば。


白髪は初めて射殺場面を見る。

この白すぎる部屋の中で…。


「はーい、そこ動かないでね。動くと撃つ、言葉を発っしても撃つ」


俺がその声に気付いてカオルを見ると、銃口はこちらを向いていた。どこまでも楽しそうで、そしてどこまでも冷静な瞳が真っ直ぐ俺を見ている。


その視線が気持ち悪くて、俺は目をそらした。


そこで、白髪が代わりのように目に飛び込んでくる。彼は、目を疑うぐらいに震えていた。過剰とも言える反応のしかただ。


まるで、俺の分の恐怖と自分の分の恐怖をプラスしたような感じ。と言ってもほとんど俺だと思うが。


「白君。君自身に提案だ」


しっかりと俺に狙いを定めながら、白髪に声をかける。彼の肩がビクリと震えた。


「僕と来たら、二人とも生かしてあげる。あれ?なんか脅迫まがいだけど…まぁいっか」


俺は驚てて白髪に話しかけようとする。今の、あの不安定な状況でこれはキツいというものだ。


「‥はっ…」


白髪!


そう叫ぼうとして、銃のガチャリという音がなった。それに気付いて動きを止めた。キッとカオルを睨んだが、彼は涼しい顔でそれを受け止める。


「さあ、どうする?白君」


畳みかけるように尋ねた。


白髪はただ体を震わせている。荒い呼吸を繰り返して、何も話さなかった。目は途方に暮れているようにさまよっている。それは、迷子の子供のようだ。


カオルは、楽しそうに目を細めていた。


白髪の選択を無言で、しかし威圧的に待っている。


「白君?」

「…っあ…」


意味のない言葉が発せられる。まるで酸欠の魚のように、口をパクパクと動かしていた。その姿は、いっそ痛々しささえ感じる。


ー…、もういいよ。行っちまえって面倒臭ぇ。


内心そう思ってしまう自分を、俺はその時ハッキリ見つけた。そんな事ないと思いながらも、そうなった方が楽な気がした。


それに、銃口を向けられていても恐怖は感じていなかった。目の前で撃たれて、撃ったそれを向けられているのに、だ。


白髪の目が、一瞬正常な物になった。

今にも血を流しそうなほどに赤い瞳。

それが、淋しそうにこちらを向く。


さっき思った事を、感じ取ったのか。

それとも、自身の中で決心がついたのか。


どちらとも取れなかったが、ただそれが彼との別れになるのだけは感じ取れた。


そして次の瞬間。


再び俺は銃に撃たれる。


* * * *


むせかえる様な血の香りで、彼は目を覚ました。当然、白髪はいない。どうやら俺に撃ったのは、小林さんのとは別種類だったらしい。


しかし、この鉄錆のような香りはどこからー…。


「っと、おき、たっ…」


横に、女の顔があった。苦しそうに顔を歪ませて俺を見ている。カオルと白髪の姿は見えなかった。でもそれよりも。


「小…林さん?生きて…」


「時間がっ、ない…」


それは白髪の事なのか。

それとも彼女の事なのか。


あるいは、その両方か。


「…っ…」


腕で体を引きずってここまで来たらしい。彼女の後ろには血の道が出来ていた。


あまりにも非現実的すぎて、信じられない。

でも、体の痛みがそれを否定している。


「ここっに、電…話。助け…」


彼女が崩れた。


俺はあわてて立ち上がり、彼女に近づく。

目がうつろに俺を見ていた。


ー…、もう何も見えてはいないだろう。


悪い事をしたな、と冷静に考える。

もっと早く楽にしてあげれたらー…。


ふと地面を見ると、彼女の言った通り電話番号が書いてあった。メモもなかったのだろう。掠れているが、血で書いてある。


「助けを…呼べってか?」


俺は一人でつぶやいた。

それから、まだ温かい彼女の鮮血に手を浸す。

水よりも、いく分かドロリとしていた。


半乾きのシャツの上に、容赦なく電話番号を書き写す。少しにじんだが、可能範囲内だ。


もちろん、携帯など持っていない。


一旦チラリと彼女を見て、静かに手を合わせる。


それから俺は、電話を探しに館内を走り出した。


行っちまえと思ったが、本当に行くなんて。

なぁ白髪。お前、本当の所どうしたかったんだ?


真っ白な世界で生きているのは俺一人。

靴音のみが響く、冷たい所。


申し訳ない程度に小さい窓から、光りが差し込んできているのに気付いた。


そうか…。


もう、朝だったのか…。

 なんかアヤフヤになってますね。

それは、作者の脳内が危険な証拠です。

ニャア的に好きでしたよ、小林さん。


   あっさりでしたがw


楽しんでいただけたら、ニャアはもう死んでもよいと思うてござりまする。脳の一部が。

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