女
ちょっと間違えて出してしまいまして、一回。
読んじゃった方もいるかと・・。
少し表現を変えたり、会話を変えたりしたので
多分大丈夫かな~・・と心配なニャアです。
OKな方はどぞ。
私は、目の前で石を持って飛びかかってくる青年を見つめる。
そう。それでいい。
私を恨み、妬み、憎み、軽蔑し、殺せばいい。
そして殺してから気付くだろう。自分がどれほど愚かな行為をしたか。どんなに自己正当化しようとも、『人を殺した』というその一点が変わる事はないのだから。
そしてそれに気付いた時。
自分を恨み、軽蔑することだろう。
その心の重さは、貴方だからこそなのだから。
恨め!憎め!妬め!お前のその心こそ、私達が求める物なのだから。
そして私は、それを目的に動く。
* * * *
俺はただどこまでも冷静に、どこまでも激怒しながら石を振り下した。
目の前に、歪んだ女の顔が迫る。
殺セ、殺セ、殺セ、
ひよっとすると、俺は今笑っているのかもしれない。こいつを殺せると。
そう思った次の瞬間、目の前にあいつが現れた。
「落ち着け!殺すつもりか!?」
そう叫んで、俺を地面に押し付ける。
上に乗られて、俺は身動きが出来なくなった。
「くそっ!どけよ馬鹿野郎!どけって!」
俺はジタバタと暴れる。白髪の横腹や背中を無我夢中で殴った。女は、唖然とする。それから小さく舌打ちした。
「そーいうこと。やけに上手く進まないと思ったらアンタが…」
悔しそうに、考え込むようにつぶやく。
だが、またニヤリと笑った。
「まぁでも…。上手くいけば…」
そうつぶやいて、銃をしまう。
女が見下すように俺達を見た。
「まっ、これだけでも収穫か。見た感じそろそろだしね」
俺は、ただ白髪の下で暴れる。
余裕綽々な女が憎かった。言っている事も訳が分からない。ただこいつを殺したかった。
「今日はこれで失礼するわ。計画は失敗だし」
ヒラリと手を振って、森の中へ入っていく。
俺はあわてた。
「おいっ!どけよクソ!行っちまうじゃねぇか!この野郎!」
さっきよりも、派手に暴れる。しかし、白髪がどいてくれる気配はなかった。
月明りの下で、女の姿が段々と朧気になっていく。
そして、草をかきわける音のみになり、その音も聞こえなくなる。静寂が、あたりを包んだ。
その中で、キエラの荒い呼吸だけが響く。
俺はそれで正気を取り戻した。
白髪が俺の上からどく。急に軽くなって、呼吸が楽になった。俺はあわててキエラに近づく。
「お前は、ご両親にこのことを知らせろ。あと、救急車も呼んでこい」
白髪の、怒りのこもった声がした。
でも俺はキエラの様子を見たくて反発しようとする。
「でもっ…」
「分からないのか?その間に頭冷やせって言ってんだ。何度忠告すれば分かる?早く行け」
ハッとして見上げると、真剣な目でこちらを睨んでいる白髪と目が合った。赤い瞳が、真っ直ぐに俺を非難している。今の俺には、それに反抗するだけの勇気も理由もなかった。
負け犬のように、一歩後ろに下がってから一目散に走り出す。
なんだかとても惨めな気持ちだった。
* * * *
その後、楽しいはずのバーベキュー計画は、散々な形で終りを告げた。半狂乱のキエラの両親を、俺の親が落ち着くようになだめていた。
キエラは、運良く脊髄に弾が当っていなかったため、一命を取り留めた。まさしく、不幸中の幸いだろう。ただ、その時のショックなのか彼女は今だに昏睡状態だった。
その日から、もう三日がたつ。
俺の夏休み後半の事だ。この日も、部活の帰りで白髪とニ人でトボトボと道を歩いている時だった。
白髪の動きが急に止まった。
何事か、と前を向くとそこには…。
あの、三日前森で歪な笑みを作っていた女がいた。
彼女は白っぽい私服を着て、やっぱり驚いていた。それから小さくため息をつく。
「あ~、今はスタンガンしかないのよ。無駄な争いはしたくないのだけど…」
そう言っているわりに、目は輝いている。元々好戦的な人間なのだろう。
白髪が、黙ったまま右手で制してきた。
それは無言で、落ち着けと言っている。
でも、俺はそれどころではなかった。
「んっ?どうしたの?怖くなっちゃったとか?まあ素手とコレじゃあねえ」
そう言って女は笑う。
まるで三日前の事などなかったような、自然な振るまいだった。
どう、してっ。
どうしてそんな振るまいが出来るんだよ。
一歩前に進もうとするが、白髪の右手が邪魔で動けない。女は今だに笑っている。
俺はもう、半分逆ギレ状態で前に進もうとした。
キエラは今も苦しんでるのに。お前なんかがなんでキエラをっ…。
殺シテヤル。殺シテヤルッ!
白髪の右手の力が強くなる。
だけど俺は、これを無理に突き進もうとした。
グッと前方に体重を傾けた時。
目の前で、何かが倒れた。
急に体が自由になり、前方へつんのめる。
ニ・三歩ヨロヨロと歩いてから、ビックリして振り返った。そこに、白髪が倒れている。
「白髪!?」
俺はあわてて彼に近づいた。
一瞬、脳裏にキエラが過ぎる。
あの女がまた何かっ、と思った。
頭を持ち上げると、自髪の額には大粒の汗がある。
それはまるで、発熱の症状だ。
呼吸も荒い。
「言っとくけど、私は何もしてないからね!見ての通りスタンガンのみだよ」
女が、尋ねてもいないのに答えてきた。
それにイライラしながらも、白髪の頬を叩いてみる。
ー‥、反応は、ない。
「アンタもそろそろ気付きなよ?鈍感君。もう戻れないだろうから種明かしするけどさ」
女は片手のスタンガンをクルクル回しながらそう言ってきた。
「アンタは私達の研究対象なんだよ。人には負の感情ってもんが付き物だ。相手がうらやましい、妬ましい、憎らしい、まっそういうの。そしてそれはね、一般的人間が特に持ってる」
クルクルと回したそれを、ある時すっと鞄にしまう。そして、タバコを取り出した。
「アンタは特によかったんだよ。普通の家族、平凡な毎日、目立たない幸せ。だからこそ、他人を非難したがるってもんだろ?」
ライターも取り出して、火をつける。
それを奥歯で噛んでニヤリと笑う姿は、よく似合っていた。
「ソイツはアンタの精神安定剤的な物だね。アンタが知らない間に、自己防衛として生み出したんだろ。でもそろそろ限界だよ、それ?」
クスクスと笑う。
どうしてそんな事を言うのか。
俺は訳が分からずに、ただボーッと聞いていた。
膝の上の白髪が、苦しそうに呻く。
「ソイツがアンタの負の感情を吸収してくれてる。でも、やりすぎたらどうなるか。アンタだって分かるだろう?」
膨らみすぎた風船みたいパーン。
アンタはそれを受け取ってドッカーン!
役者のような大げさで芝居がかった動きだった。
女は、今だにニヤニヤと笑っている。
その時だった。
ピロリロ、ポペチット、ポリぺプチド、
という変な音が鳴った。
俺は、キョロキョロと周りを見る。
女が、あわてて携帯を取り出した。
アデニン、デオキシリボ、チミン、ウラシル、
その携帯から、確かに音が出ている。
でも、なんで細胞の名前なの!?
俺の心のつっこみは、スルーされた。
「あ~?ナニ?はい、はい。分かったって。うん、はーい」
何秒か話してすぐに切る。
とても面倒くさそうな顔だった。
「悪いけど上司に呼び出しくらったから。またね」
そう言って、クルリと反対を向く。
ポカーンとしている俺を見捨てて、女はまた角を曲がっていった。
一数分後。
クラゲのように脱力している白髪をおぶって家に帰る。その間俺は、ずっと一つのことを考えていた。
俺は今まで普通の人間で、去年の大会で負けて今年こそはと思ったら補欠で。成績は中の上で。彼女もいないような、そんな普通の高校生だった。
でも…、でも本当にそれは普通だったのだろうか。
他の人から見れば、すっごい幸せだったり、つまらないと思われたりして。人によって普通って違うし。
じゃあ、普通って何だ?
俺って本当に普通なのか?
もしこれが普通だったら、俺のアイツを殺したいって気持ちもフツウになるのか?
そんな、いつまで考えても答えが出ないような事ばかり考えながら、家へ帰った。
* * * *
白髪の熱は次の日には下がった。
昨日は結構高熱だと思ったのだが…。
もしかして俺が、迷惑かけてる?
白髪が使ったコップや皿を洗いながら、グチグチと考えていた時だった。まだ少し気だるそうな顔で、白髪が目をこすりながら入ってきた。
「おはよ」
「もう昼だし。体の方、大丈夫か?」
白髪は、俺がさっき洗ったコップに水を入れる。
顔色もずいぶん良くなった。
「う~ん…。汗かいた」
「風呂入ればいいだろ。そんなの」
分かってるし、と憎まれロを叩いて一気に水を飲む。また洗うのか…と思っていたら、自分で勝手にやってくれていた。
「今日は幼なじみちゃんの所に行くぞ。恐らく、アイツラは彼女をねらう」
俺はチラリと白髪を見た。真剣な顔で、ただ真っ直ぐに前を見ている。キエラの所には、この四日間一度も行っていなかった。行くのが、怖かったというのも一つの理由だと思う。
「まあ見舞いと言うより見張りになるけどな」
昼の夏特有の日差しの中、彼の目は血のように赤黒く、鈍く輝いていた。内心俺はその目が怖い。でも、ばれないように平常通りに接した。
* * * *
キエラの所へは、面会時間ギリギリに行くことになった。それまでの間に、俺はシャワーを浴びる。
ふ、と曇りかけた鏡を見ると、目の前に赤黒く毒々しい瞳があった。
体には、絵の具でぶちまけたような形の青あざが大量にある。
バーベキューの時に、殴られて出来たものだ。
今が見ごろと鮮やかな色を惜しみなく出していた。
ー‥、クソッ。
イライラしながら鏡を叩く。
ただ、落ち着けとしか言えないじゃないか。
俺は、アイツに何もしてやれないっ…。
時間がないんだ。あのままだと衝動的殺戮意欲のままに、いつか人を殺す。アイツ一人ならまだいい。
だが、例えばその研究対象が多数いたら…?
そこまでウジウジと考えていた時、外から声がした。
「おーい、まだ出ないのかよー」
アイツだ。
「俺も入りたいからさぁ、急げってば」
随分呑気そうだった。こっちの気も知らないで…ため息が自然に出てくる。
「分かった。もう出るよ」
だが、返事はなかった。
ん…?と思い始めた時、ためらうような声がする。
「あの、さ。白髪」
「何だよ」
また沈黙があった。
さっきとは打って変わって、慎重に尋ねてくる。
「お前、また倒れたりしないよな?俺もなるべく気を付けるから…。だから、大丈夫だよな?」
いつの間にか、コイツに心配をかけていたらしい。
俺もやっぱりまだまだか、な。
そう思いながらも、なるべく明るい声で返事する。
「大丈夫だよ。お前に心配されるほどじゃない」
「でもっ…」
反発するように発っせられた声は、最後まで続けられなかった。もう何回目かの沈黙が降りる。
「お前がゆでダコみたいにカッカッしないりゃいいんだ。せいぜい頑張れよ」
明るく、冗談混じりで、心配かけないように。
俺は苦笑しながら言う。
「タコって何だよ、タコって!」
ちょうどいい感じに引っかかってくれ感謝だ。
そのまま、アイツはプリプリ怒りながら帰ってしまった。風呂入るんじゃなかったのか?と思いながら髪の水気を切る。
どうやらアイツも色々考えてたみたいだ。
ー…、その理性が、いつまで持つか…。
考えても仕方ない。
俺は風呂から出た。
* * * *
キエラの所には、予定通り面会時間ギリギリに行く。もう空は全てを包みそうなオレンジ色だった。そっと彼女の病室に入る。
そこに、一人寂しく寝ているキエラの姿があった。
点滴を刺され、胸元からは包帯が覗いている。心拍数をはかる機械音と呼吸以外、彼女が生きている証拠を表すものはない。
それが、無性に淋しかった。
頃合いを見て、白髪が話しかけてくる。
「おい、そろそろ隠れられそうな場所を探すぞ」
俺は握っていた彼女の手を離してうなずいた。
でも、今日女がくるという確証はない。
ある意味一つの賭けだった。
看護師さん達には悪いが、ここにいさせてもらう。
ゴソゴソとそこに入って、じっと息を殺していた。
ー、何分か過ぎる。
女はこない。一度、定期検診の看護師が来ただけ。
ー、また何分か過ぎる。
もう来ないんじゃないか、と白髪に小声で言った。
黙ったままアッパーを食らった。力加減してあっても、目がカチカチした。
ー、もう何分かすぎた。
女の、声がした。確かにその声は昨日の女だ。一人で話している所から、電話でもしているのだろう。
不愉快そうな声が響く。
「はーい、じゃあこの女を拉致ればいいって事ね。分かってるわよ、じゃあね」
ピロパッパ、という変な音が鳴る。どうやらそれを切ったらしい。あ~面倒~、という一人言を言う。
ただボーッと聞いていたら、白髪に叩かれた。
「バカッ、出るんだよっ」
それで、転げるようにして女の前へ出る。
案の定、俺達を見た瞬間女は目を見開いた。
しかし。
それからすぐに目を細めて、嬉しそうに笑う。
「あ~ら、坊や達いたの?」
そう言いながら、右手がスルリとポケットの中へ動いた。スッ、と取り出したそれはー…。
「よかった。手間が省けたわ。今日は遊ばずに、問答無用なんでゴメ~ン」
銃を片手に、女は笑う。
音は、しなかった。
何か撃たれた、と思った次の瞬間。
世界がグラリと揺れて、真っ暗になる。
俺は、ドサリとその場に倒れた。
* * * *
体がゆれる。
何かの音がする。
匂い…、これはタバコ…?
白髪はどうしたんだ?
キエラは、彼女は無事だろうか。
あの女は…、俺を殺さなかった?
なぜ?
体は鉛のように重く、言う事を聞いてくれない。瞼一つ開けるのだって無理だ。ただ、使命のよに息だけをしている。そんな状態。
のくせに…、意識はハッキリしてやがる。
しばらくすると、揺れが止まった。
この音は、エンジン音だ。ということは車で運ばれたのだろう。
ー、でも、一体どこに?
誰かに体を引きずられる。
ふ、と風が頬をかすめた。
濃厚な夜の香り。べた付くような夏の湿気。生温かい風。木か何かが内緒話でもしているかのようにサワサワと揺れている。
ああ、ここは幻想的だ。
そう思った矢先、すべての音が消えた。
あはは、もう長編確定ですね、これ。
どうしよう大丈夫かなあ。
まあ気長によろしということで・・。