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数え切れない星の中に  作者: ニャア
夏休み
2/8

 ちょっと間違えて出してしまいまして、一回。

読んじゃった方もいるかと・・。

少し表現を変えたり、会話を変えたりしたので

多分大丈夫かな~・・と心配なニャアです。


OKな方はどぞ。

 私は、目の前で石を持って飛びかかってくる青年を見つめる。


そう。それでいい。


私を恨み、妬み、憎み、軽蔑し、殺せばいい。


そして殺してから気付くだろう。自分がどれほど愚かな行為をしたか。どんなに自己正当化しようとも、『人を殺した』というその一点が変わる事はないのだから。


そしてそれに気付いた時。


自分を恨み、軽蔑することだろう。

その心の重さは、貴方だからこそなのだから。


恨め!憎め!妬め!お前のその心こそ、私達が求める物なのだから。


そして私は、それを目的に動く。


* * * *

俺はただどこまでも冷静に、どこまでも激怒しながら石を振り下した。


目の前に、歪んだ女の顔が迫る。

殺セ、殺セ、殺セ、


ひよっとすると、俺は今笑っているのかもしれない。こいつを殺せると。


そう思った次の瞬間、目の前にあいつが現れた。


「落ち着け!殺すつもりか!?」


そう叫んで、俺を地面に押し付ける。

上に乗られて、俺は身動きが出来なくなった。


「くそっ!どけよ馬鹿野郎!どけって!」


俺はジタバタと暴れる。白髪の横腹や背中を無我夢中で殴った。女は、唖然とする。それから小さく舌打ちした。


「そーいうこと。やけに上手く進まないと思ったらアンタが…」


悔しそうに、考え込むようにつぶやく。

だが、またニヤリと笑った。


「まぁでも…。上手くいけば…」


そうつぶやいて、銃をしまう。

女が見下すように俺達を見た。


「まっ、これだけでも収穫か。見た感じそろそろだしね」


俺は、ただ白髪の下で暴れる。

余裕綽々な女が憎かった。言っている事も訳が分からない。ただこいつを殺したかった。


「今日はこれで失礼するわ。計画は失敗だし」


ヒラリと手を振って、森の中へ入っていく。

俺はあわてた。


「おいっ!どけよクソ!行っちまうじゃねぇか!この野郎!」


さっきよりも、派手に暴れる。しかし、白髪がどいてくれる気配はなかった。


月明りの下で、女の姿が段々と朧気になっていく。

そして、草をかきわける音のみになり、その音も聞こえなくなる。静寂が、あたりを包んだ。


その中で、キエラの荒い呼吸だけが響く。


俺はそれで正気を取り戻した。

白髪が俺の上からどく。急に軽くなって、呼吸が楽になった。俺はあわててキエラに近づく。


「お前は、ご両親にこのことを知らせろ。あと、救急車も呼んでこい」


白髪の、怒りのこもった声がした。

でも俺はキエラの様子を見たくて反発しようとする。


「でもっ…」


「分からないのか?その間に頭冷やせって言ってんだ。何度忠告すれば分かる?早く行け」


ハッとして見上げると、真剣な目でこちらを睨んでいる白髪と目が合った。赤い瞳が、真っ直ぐに俺を非難している。今の俺には、それに反抗するだけの勇気も理由もなかった。


負け犬のように、一歩後ろに下がってから一目散に走り出す。


なんだかとても惨めな気持ちだった。


* * * *

その後、楽しいはずのバーベキュー計画は、散々な形で終りを告げた。半狂乱のキエラの両親を、俺の親が落ち着くようになだめていた。


キエラは、運良く脊髄に弾が当っていなかったため、一命を取り留めた。まさしく、不幸中の幸いだろう。ただ、その時のショックなのか彼女は今だに昏睡状態だった。


その日から、もう三日がたつ。

俺の夏休み後半の事だ。この日も、部活の帰りで白髪とニ人でトボトボと道を歩いている時だった。


白髪の動きが急に止まった。


何事か、と前を向くとそこには…。


あの、三日前森で歪な笑みを作っていた女がいた。

彼女は白っぽい私服を着て、やっぱり驚いていた。それから小さくため息をつく。


「あ~、今はスタンガンしかないのよ。無駄な争いはしたくないのだけど…」


そう言っているわりに、目は輝いている。元々好戦的な人間なのだろう。


白髪が、黙ったまま右手で制してきた。

それは無言で、落ち着けと言っている。

でも、俺はそれどころではなかった。


「んっ?どうしたの?怖くなっちゃったとか?まあ素手とコレじゃあねえ」


そう言って女は笑う。

まるで三日前の事などなかったような、自然な振るまいだった。


どう、してっ。

どうしてそんな振るまいが出来るんだよ。


一歩前に進もうとするが、白髪の右手が邪魔で動けない。女は今だに笑っている。


俺はもう、半分逆ギレ状態で前に進もうとした。


キエラは今も苦しんでるのに。お前なんかがなんでキエラをっ…。


殺シテヤル。殺シテヤルッ!


白髪の右手の力が強くなる。

だけど俺は、これを無理に突き進もうとした。

グッと前方に体重を傾けた時。


目の前で、何かが倒れた。


急に体が自由になり、前方へつんのめる。

ニ・三歩ヨロヨロと歩いてから、ビックリして振り返った。そこに、白髪が倒れている。


「白髪!?」


俺はあわてて彼に近づいた。

一瞬、脳裏にキエラが過ぎる。

あの女がまた何かっ、と思った。


頭を持ち上げると、自髪の額には大粒の汗がある。

それはまるで、発熱の症状だ。

呼吸も荒い。


「言っとくけど、私は何もしてないからね!見ての通りスタンガンのみだよ」


女が、尋ねてもいないのに答えてきた。

それにイライラしながらも、白髪の頬を叩いてみる。


ー‥、反応は、ない。


「アンタもそろそろ気付きなよ?鈍感君。もう戻れないだろうから種明かしするけどさ」


女は片手のスタンガンをクルクル回しながらそう言ってきた。


「アンタは私達の研究対象なんだよ。人には負の感情ってもんが付き物だ。相手がうらやましい、妬ましい、憎らしい、まっそういうの。そしてそれはね、一般的人間が特に持ってる」


クルクルと回したそれを、ある時すっと鞄にしまう。そして、タバコを取り出した。


「アンタは特によかったんだよ。普通の家族、平凡な毎日、目立たない幸せ。だからこそ、他人を非難したがるってもんだろ?」


ライターも取り出して、火をつける。

それを奥歯で噛んでニヤリと笑う姿は、よく似合っていた。


「ソイツはアンタの精神安定剤的な物だね。アンタが知らない間に、自己防衛として生み出したんだろ。でもそろそろ限界だよ、それ?」


クスクスと笑う。

どうしてそんな事を言うのか。

俺は訳が分からずに、ただボーッと聞いていた。

膝の上の白髪が、苦しそうに呻く。


「ソイツがアンタの負の感情を吸収してくれてる。でも、やりすぎたらどうなるか。アンタだって分かるだろう?」


膨らみすぎた風船みたいパーン。

アンタはそれを受け取ってドッカーン!


役者のような大げさで芝居がかった動きだった。

女は、今だにニヤニヤと笑っている。


その時だった。


ピロリロ、ポペチット、ポリぺプチド、


という変な音が鳴った。

俺は、キョロキョロと周りを見る。

女が、あわてて携帯を取り出した。


アデニン、デオキシリボ、チミン、ウラシル、


その携帯から、確かに音が出ている。

でも、なんで細胞の名前なの!?

俺の心のつっこみは、スルーされた。


「あ~?ナニ?はい、はい。分かったって。うん、はーい」


何秒か話してすぐに切る。

とても面倒くさそうな顔だった。


「悪いけど上司に呼び出しくらったから。またね」


そう言って、クルリと反対を向く。

ポカーンとしている俺を見捨てて、女はまた角を曲がっていった。


一数分後。


クラゲのように脱力している白髪をおぶって家に帰る。その間俺は、ずっと一つのことを考えていた。


俺は今まで普通の人間で、去年の大会で負けて今年こそはと思ったら補欠で。成績は中の上で。彼女もいないような、そんな普通の高校生だった。


でも…、でも本当にそれは普通だったのだろうか。


他の人から見れば、すっごい幸せだったり、つまらないと思われたりして。人によって普通って違うし。


じゃあ、普通って何だ?


俺って本当に普通なのか?


もしこれが普通だったら、俺のアイツを殺したいって気持ちもフツウになるのか?


そんな、いつまで考えても答えが出ないような事ばかり考えながら、家へ帰った。


* * * *

白髪の熱は次の日には下がった。

昨日は結構高熱だと思ったのだが…。


もしかして俺が、迷惑かけてる?


白髪が使ったコップや皿を洗いながら、グチグチと考えていた時だった。まだ少し気だるそうな顔で、白髪が目をこすりながら入ってきた。


「おはよ」

「もう昼だし。体の方、大丈夫か?」


白髪は、俺がさっき洗ったコップに水を入れる。

顔色もずいぶん良くなった。


「う~ん…。汗かいた」

「風呂入ればいいだろ。そんなの」


分かってるし、と憎まれロを叩いて一気に水を飲む。また洗うのか…と思っていたら、自分で勝手にやってくれていた。


「今日は幼なじみちゃんの所に行くぞ。恐らく、アイツラは彼女をねらう」


俺はチラリと白髪を見た。真剣な顔で、ただ真っ直ぐに前を見ている。キエラの所には、この四日間一度も行っていなかった。行くのが、怖かったというのも一つの理由だと思う。


「まあ見舞いと言うより見張りになるけどな」


昼の夏特有の日差しの中、彼の目は血のように赤黒く、鈍く輝いていた。内心俺はその目が怖い。でも、ばれないように平常通りに接した。


* * * *

キエラの所へは、面会時間ギリギリに行くことになった。それまでの間に、俺はシャワーを浴びる。


ふ、と曇りかけた鏡を見ると、目の前に赤黒く毒々しい瞳があった。

体には、絵の具でぶちまけたような形の青あざが大量にある。

バーベキューの時に、殴られて出来たものだ。

今が見ごろと鮮やかな色を惜しみなく出していた。


ー‥、クソッ。


イライラしながら鏡を叩く。

ただ、落ち着けとしか言えないじゃないか。

俺は、アイツに何もしてやれないっ…。


時間がないんだ。あのままだと衝動的殺戮意欲のままに、いつか人を殺す。アイツ一人ならまだいい。

だが、例えばその研究対象が多数いたら…?


そこまでウジウジと考えていた時、外から声がした。


「おーい、まだ出ないのかよー」


アイツだ。


「俺も入りたいからさぁ、急げってば」


随分呑気そうだった。こっちの気も知らないで…ため息が自然に出てくる。


「分かった。もう出るよ」


だが、返事はなかった。

ん…?と思い始めた時、ためらうような声がする。


「あの、さ。白髪」

「何だよ」


また沈黙があった。

さっきとは打って変わって、慎重に尋ねてくる。


「お前、また倒れたりしないよな?俺もなるべく気を付けるから…。だから、大丈夫だよな?」


いつの間にか、コイツに心配をかけていたらしい。

俺もやっぱりまだまだか、な。

そう思いながらも、なるべく明るい声で返事する。


「大丈夫だよ。お前に心配されるほどじゃない」


「でもっ…」


反発するように発っせられた声は、最後まで続けられなかった。もう何回目かの沈黙が降りる。


「お前がゆでダコみたいにカッカッしないりゃいいんだ。せいぜい頑張れよ」


明るく、冗談混じりで、心配かけないように。

俺は苦笑しながら言う。


「タコって何だよ、タコって!」


ちょうどいい感じに引っかかってくれ感謝だ。

そのまま、アイツはプリプリ怒りながら帰ってしまった。風呂入るんじゃなかったのか?と思いながら髪の水気を切る。


どうやらアイツも色々考えてたみたいだ。

ー…、その理性が、いつまで持つか…。


考えても仕方ない。

俺は風呂から出た。


* * * *

キエラの所には、予定通り面会時間ギリギリに行く。もう空は全てを包みそうなオレンジ色だった。そっと彼女の病室に入る。


そこに、一人寂しく寝ているキエラの姿があった。


点滴を刺され、胸元からは包帯が覗いている。心拍数をはかる機械音と呼吸以外、彼女が生きている証拠を表すものはない。


それが、無性に淋しかった。


頃合いを見て、白髪が話しかけてくる。

「おい、そろそろ隠れられそうな場所を探すぞ」

俺は握っていた彼女の手を離してうなずいた。

でも、今日女がくるという確証はない。


ある意味一つの賭けだった。


看護師さん達には悪いが、ここにいさせてもらう。

ゴソゴソとそこに入って、じっと息を殺していた。


ー、何分か過ぎる。

女はこない。一度、定期検診の看護師が来ただけ。


ー、また何分か過ぎる。

もう来ないんじゃないか、と白髪に小声で言った。

黙ったままアッパーを食らった。力加減してあっても、目がカチカチした。


ー、もう何分かすぎた。

女の、声がした。確かにその声は昨日の女だ。一人で話している所から、電話でもしているのだろう。

不愉快そうな声が響く。


「はーい、じゃあこの女を拉致ればいいって事ね。分かってるわよ、じゃあね」


ピロパッパ、という変な音が鳴る。どうやらそれを切ったらしい。あ~面倒~、という一人言を言う。


ただボーッと聞いていたら、白髪に叩かれた。


「バカッ、出るんだよっ」


それで、転げるようにして女の前へ出る。

案の定、俺達を見た瞬間女は目を見開いた。


しかし。


それからすぐに目を細めて、嬉しそうに笑う。

「あ~ら、坊や達いたの?」

そう言いながら、右手がスルリとポケットの中へ動いた。スッ、と取り出したそれはー…。


「よかった。手間が省けたわ。今日は遊ばずに、問答無用なんでゴメ~ン」


銃を片手に、女は笑う。

音は、しなかった。


何か撃たれた、と思った次の瞬間。

世界がグラリと揺れて、真っ暗になる。

俺は、ドサリとその場に倒れた。


* * * *


体がゆれる。

何かの音がする。

匂い…、これはタバコ…?

白髪はどうしたんだ?

キエラは、彼女は無事だろうか。

あの女は…、俺を殺さなかった?


なぜ?


体は鉛のように重く、言う事を聞いてくれない。瞼一つ開けるのだって無理だ。ただ、使命のよに息だけをしている。そんな状態。


のくせに…、意識はハッキリしてやがる。


しばらくすると、揺れが止まった。

この音は、エンジン音だ。ということは車で運ばれたのだろう。


ー、でも、一体どこに?


誰かに体を引きずられる。

ふ、と風が頬をかすめた。


濃厚な夜の香り。べた付くような夏の湿気。生温かい風。木か何かが内緒話でもしているかのようにサワサワと揺れている。


ああ、ここは幻想的だ。


そう思った矢先、すべての音が消えた。





 あはは、もう長編確定ですね、これ。

どうしよう大丈夫かなあ。

まあ気長によろしということで・・。

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