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今と八回目

 三月の初め。まだまだ桜は咲く気配がなく、もしかしたら雪でも降るのではないかと思う季節の朝に、僕は佐藤と第八回目の会話を開始した。

「眼鏡変えたんだな」

 僕は一つ机を挟んだ後ろの席にいる佐藤を見て言った。こんなに近い席になるのは初めてだった。

「うん」

 彼女はそのとき「荒野のおおかみ」という本を読んでいた。こだわったような装飾のない簡素な表紙が僕に伝えてくれたのは、これは古い話だ、ということだった(もちろん、それが本当かどうか知らない)。

「青色にしたのか」僕は眼鏡のフレームを見ながら言った。青色は夏の空よりも深かった。

 眼鏡は縁なしだったものから、今は縁ありの眼鏡に変わっていた。といっても、レンズの下半分は保護されていない。

「そう」

「前より……」

「……」

「前より眼鏡っ子っぽいな」

「そう?」

 彼女は頁をめくった。

「……。佐藤は徒歩通学か」

「そうだけど」

「そうか……」

「……森村くんは?」

「電車通学だよ」

「そう」


 お腹が空いた。このところ、清潔な料理を食べていないような気がする。カップラーメンだったり、コンビニ弁当だったり、そういう栄養が偏った食事ばかりだ。

 料理ができないというわけではない。僕の得意料理はシチューとハンバーグだし、時間があれば保存用のトマトソースだって作る。でも、作る気がしないのだ。そのせいか体重が二キログラムほど増えた。

 水が張られていない田園の間を抜けて、遠くにある高速道路を見ながら、各駅停車の電車は南へと進んでいく。雨はすでにあがっていて、橙色が僅かに光のなかに混ざっていた。太陽はだいぶ下がってきているようだった。


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