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あなたの隣に  作者: ミサ
9/23

昔の様に

 全ての取材が終わった後に反省会があり、それも終わった頃には夜も更けていた。

 私は朝倉君が送ってくれるというので、彼が車を取りに行っている間、会社の入口で吉澤さんや雪村さんと一緒に話をしていた。

 すると突然、雪村さんが私に向かって真剣な表情で訊ねた。

「ねぇ、メイちゃん。朝倉君のことどう思う?」

「は、はいっ?雪村さん、な、何ですか?突然---そ、そういう、雪村さんこそ……」

 いきなりの質問に私は焦ってしまった。何で?私の気持ちに気づいたの?

「私?私はねぇ、可愛い弟って感じ?---それより、何か2人いい感じかなぁと思って…朝倉君はお奨めよ。ねぇ、吉澤君?」

 雪村さんはニコニコと笑いながら、吉澤さんに同意を求めている。

 ---弟って……朝倉君、気の毒かも---

 同意を求められた吉澤さんを見ると、考え込む様に黙り込んでいる。

 まさか、吉澤さんも私の気持ちに気づいているとか?もし、そうなら朝倉君も?

 私は恥ずかしくて、思わず俯いてしまった。

 その時クラクションが鳴り、振り向くと朝倉君が戻って来たところだった。

「主任、雪村さん、何なら送って行きますけど?」

「いや、大丈夫だ。終電まではまだ時間あるからな」

「そうそう、それにお邪魔でしょう?」

 雪村さん!止めて下さい。

 私は、心の中で彼女に懇願したが、雪村さんは意味深な笑みを浮かべている。

「へ?」

 朝倉君は、雪村さんの言葉の意味が解らず首を傾げている。

「な、何、言ってんですか?変なこと言わないでください!朝倉さんにも迷惑ですよ」

 焦った私は雪村さんに向かってつい、口調を強めてしまった。

 すると、吉澤さんが朝倉君の方へ近づいて行き、小声で何かを告げている。彼はその言葉に真っ赤になりながら言い返していたが、吉澤さんはそんな彼を見て笑っていた。

 それから二人は、私達には聞こえない位の小さな声で何かを話していたけど、私が助手席に回った時には話を終えた。何だろう?すごく気になるんだけど……

「それじゃ、お疲れ様です。気を付けて帰って下さいね」

 私は車に乗り込むと、吉澤さんと雪村さんに挨拶をした。2人が笑顔で手を振ってくる。朝倉君はそんな2人に向かって軽くクラクションを鳴らすと、車をゆっくりと発進させた。




 車の中はすごく気まずい雰囲気だった。

 どうしよう?朝倉君、さっきの2人の言葉に気を悪くしたのかな?---思わず中学の時の事が蘇った。

 今度また、あんな風に気まずくなったら、もう二度と立ち直れないかも……そう思ったら、目頭が熱くなってきた。

 私は顔を見られたくなくて、外の景色を見つめていた。

「そう言えばお前、腹減ってないか?」

 突然、朝倉君が話し掛けてきた。

「うん、空いているけど……」

「何か、食って行くか?」

 私はてっきり真っ直ぐ送って行くだろうと思っていたので、その言葉に驚いて彼の方を見た。

「食べたいけど……こんな時間からだと居酒屋とかでしょ?料理がちょっとね……食事は気を使うように社長に言われているから」

 私がそう答えると、朝倉君は納得したようだった。そして、思いついた様に問いかけてきた。

「おい、ちょっと遅くなっても大丈夫か?」

「?---明日はオフだから平気だけど」

 すると彼は車の進行方向を変えた。



 知らないマンションの前に着いた時、私はそっと彼に訊ねた。

「…ここって?」

「ん?俺んちだけど」

 朝倉君はさらっと答えてから気づいた様で、慌てて私に説明した。

「待て、誤解するな!あの2人の話は忘れてくれ。俺にその気はないから、安心しろ!」

 ---その気はないって……安心させる為かもしれないけど、そんなに魅力ないのかな?少し…いや、かなり傷つく---

「…俺は、お前に飯を食わそうと思って連れて来たんだよ」

 きまり悪そうに彼が言う。

「え?」

 意外な言葉に驚いた。

「朝倉さん、料理できるの?」

「お前……俺が誰の息子か忘れてないか?」

「あ---おばさん!」

 私は彼の母親の顔を思い出し、懐かしさで思わず笑顔になった。

「そっ、大学進学で一人暮らし始めてから外食が多くなると、母さんの飯がどんだけ有難かったか判って、休みに入る度に家に帰って習ってた。意外に素質あったらしくて、結構美味いぜ」

「へぇ、そうなんだ。おばさんの料理懐かしいな……うん、ご馳走になろうかな。すごくお腹空いてるし」

 久しぶりに手料理を食べたいという誘惑に思わず負けてしまった。

「じゃ、決定ということで」

 彼は車を駐車場へ停めた。




 朝倉君の家は2LDKで、男の人の一人暮らしにしてはとても綺麗に整頓されていた。

「あの……何か手伝う?」

 私はリビングにいたけど、何か落ち着かない。

「いや、必要ない。って言うか邪魔?」

 彼はキッチンで料理をしながらそう言うと、私の方を見て笑った。

 ……邪魔って…私は思わず、頬を膨らませた。

「邪魔って、ひどくない?」

「俺、自分のペースで作るから、人が入って来たら調子狂う」

 鍋の中を覗きながらそう言う彼は、料理に集中している。

「わかった、テレビ見てる」

 確かに私が手伝うよりも、彼が1人で作る方がはかどりそうなので、テレビを見る為にソファへ座った。



「わぁ、美味しそう!」

 テーブルに並んだご飯に私は感動した。さすが、おばさんの息子だなと思った。

 ご飯、鮭の塩焼き、キンピラ、だし巻卵、豆腐とわかめの味噌汁と和食のメニューで、自分ではあれだけの短い時間でこんな風には到底作れない。

「別に、作り置きとありあわせだぞ」

 朝倉君は当たり前の様に言うけど、私からしたらすごい事だと思う。

「ううん、短時間でこんだけ作れるって偉いと思う。ましてや男の人だし」

「…とりあえず、食べようぜ。冷めちまう」

 2人向かいあって座ると、遅い晩ご飯を頂いた。

「美味しい!良かったーご馳走になって。下手したら家でラーメンだったかも」

「お前、食生活、気を付けるんじゃないのか?」

 朝倉君は咎めるように私を見て言った。

「だって、こんなに料理上手くないし…1人で食べるの美味しくないし…」

「もし良かったら、時々飯食いにくるか?俺も誰かに作る方が作り甲斐があるし」

「え、いいの?わーなんか、中学の時思い出すね」

 彼の思いがけない申し出に、昔の事を思い出して懐かしくなった。思わず笑みが零れる。

「そういえばこの前から言いたかったんだけど、仕事の時は『朝倉さん』で良いけど、今みたいに仕事が終わったら昔の呼び方にしないか?俺も『麻生』って呼ぶから」

 唐突な彼の言葉に、私は思わず彼の顔を見つめた。

「いいの?」

「俺はその方がいいけど、お前は?」

「私もそれが良い」

 昔の様に仲良く出来るのかなと、少し嬉しくなる。

「じゃ決まり。麻生さっそくだけど、食器片付けはお前がやって」

 彼が面白そうに私を見ている。思わず上目使いで呟いた。

「朝倉君、昔に比べて意地悪くなってない?」

「俺が?飯も食わせたのに、意地悪?」

「---分かった、ご飯食べたら洗います」

 確かにご飯作ってくれたんだから、その位は当たり前よね---私はそう言うと、黙々とご飯を食べ始めた。



 私が食器を洗い終わったのを見ると、朝倉君はソファから立ち上がった。

「さて、じゃ麻生んちまで送るよ」

「いいって、ここからタクシーで帰る。朝倉君も疲れてるでしょう。ご飯もご馳走になったし何か悪い」

 慌てて首を振ると、彼は当然とばかりに出かける為にジャケットを羽織る。

「別に、平気だって。それに俺も明日休みだし」

 でも、疲れているはずなのに……私が躊躇ってると、彼が訝しげにこちらを見た。

「何だよ。俺が送ったら何か問題でも?家に彼氏が来てるとか」

 思いがけない言葉に私は驚いて彼を見た。

「まさか、彼氏いたらここには来ないでしょう。っていうか、朝倉君は大丈夫なの?私がここに来ても」

「俺も、別に今彼女いないし」

 何とはなしにお互いの視線が合う。

「あ、じゃ、送ってもらってもいい?」

 私は恥ずかしくなって彼から視線を外すと、明るく彼に問いかけた。

 彼はホッとした様に私に笑いかけると、鍵を取りに寝室へ向った。



 私のマンションの前に朝倉君は車を停めてくれた。 

「じゃ、今日はありがとう」

 車から降りて窓を覗き込みながら彼にお礼を言った。

 だけど、朝倉君は返事もせず何か考え込んでいる。

「朝倉君?」

 私は首を傾げながら、声を掛けた。すると彼は何かを決心した様に私の方を見た。

 何?どうかした?

 顔がいつになく真剣だったので、私は思わず目で問いかけていた。

「なぁ麻生、お前明日暇か?」

「え?まぁ予定はこれといって無いけど…」

「もし良かったら明日、出かけないか?」

 朝倉君の思いがけない誘いに、私は戸惑った。

「連れて行きたい所があるんだ。駄目か」

 私は思わず頷いていた。

「うん、わかった。じゃ明日ね」

「10時に迎えに来るから」

 連れて行きたい所ってどこなんだろう?……そんな事を考えながら別れのあいさつをすると、私は自分のマンションへと入った。 

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