表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの隣に  作者: ミサ
5/23

回想~淡い想い-3-

 あれから私と朝倉君は、あまり話をする機会が無くなった。

 朝倉君の家にお邪魔するのも気が引けて、夕食に招待されても理由をつけて何回か断っていた。

 もしまた誰かに見られてからかわれたら、今度は泣いてしまうかもしれない。あの時の彼の強張った顔を思い出すと悲しかった。

 やっぱり男の子は自分よりも背が低くて可愛い子がいいに決まってる。私なんて背が高くて痩せてて、日に焼けて色も黒く可愛いには程遠い。

 そんな事考えたことも無かったのに、今は出来る事なら可愛い、彼に似合う様な女の子になりたいと思う。不可能なことだとは解っているけど……



 3学期も終わりに近づいた頃。

 私は、久しぶりに朝倉家を訪れた。

「久しぶりだね、こうして夕飯に呼ばれるの」

 嬉しくて、私はおばさんや美樹ちゃんと、他愛もない話をして笑っていた。

 朝倉君は、何も言わずに黙って私たちの話を聞いていた。

「ご馳走様でした。おばさんの料理美味しいから、つい沢山食べちゃいます」

 おばさんは嬉しそうに目を細めて、私の方を見た。 

「五月ちゃん、褒めるの上手ねーおばさん、調子に乗っちゃいそうよ」

 すると、朝倉君がそんな私たちに迷惑そうな顔をした。

「…麻生、母さん調子に乗せないでくれ。俺達が迷惑だ」

「何でよ?」

 おばさんが拗ねたように朝倉君を見た。

「エンゲル係数と俺達の体重が増える」

 朝倉君の言葉を聞いて、2人の会話があまりに可笑しく私は思わず笑ってしまった。

「あはは…仲がいいですね!」

「どこが!」

 2人ハモったのが、更に可笑しく私はお腹を抱えて笑うはめになった。



「今日は、楽しかった。ありがとうね」

 朝倉君に途中まで送ってもらい、私はその別れ際にそう言った。

「?---何だ、いきなり」

 彼はびっくりした様に聞いてきた。

「ん、ただ何となく言いたかっただけ」

 私は、彼に手を振って帰った。



 翌日---

 私が教室へ入ったら、男子達が冷やかしてきた。

「おい、麻生!昨日、朝倉と一緒に歩いてただろう?俺、見たんだよなー仲良さそうだったじゃん。やっぱりお前ら付き合ってるんだろう?」

 周りの男子が口笛で囃し立ててくる。

 私は顔が赤くなるのが解った。---嫌だ!こんな風にからかわれたくない!それに、朝倉君にも迷惑になる---

「私、太った人は嫌いよ!」

 咄嗟にそんな言葉を口にしていた。本心ではなかった。どうにかこの状況から逃げたい一心でついた嘘だった……

 その時、教室の外から声が聞こえた。

「おい、朝倉!早く中に入れよ」

 その声に振り向くと、そこには朝倉君が立っていた。

(聞かれた!)

 私はどうしていいか解らず、彼の視線を避けるように目を反らしてしまった。怖くて彼の顔が見れなかった。

 彼は何もなかった様にクラスメートに挨拶すると、そのまま席についた。

 私はその日1日、泣きたい気持ちを抑えるのに必死だった。



「朝倉君…」

 私はその日の帰り道、朝倉君を呼び止めた。とにかく謝りたかった。

「何?」

 彼の声にいつもの優しさはなく、すごく冷たかった。

(…ああ、すごく怒ってる。もうダメかもしれない……)

 私は今にも泣きそうになるのを、グッと我慢した。

「今朝はごめんなさい。クラスのみんなが昨日、私たちが一緒に歩いていたのを見たって、しつこくからかってきたからカッとしてしまってつい…」

「いいよ…別に、俺も『女で背が高い奴』は好きじゃないし」

 その言葉に私は胸が痛んだ。やっぱり、そうだよね---

「……ごめんね」

 泣き出しそうになるのを我慢して、私は出来るだけ彼の傍から離れようと走って逃げた。



 終業式の日

 式が終わり教室へ戻ると、先生が私を教壇に呼んだ。

 私は覚悟を決め、先生の隣に立つ。

「麻生は今日でこの学校を去る。お父さんの仕事の都合でS県へ引っ越すことになった。本人の希望で今日まで内緒にしていた」

 先生の話にクラスみんながざわめいた。

「みんな、内緒にしててごめんね。父と母が離婚したから、私は父と一緒に父の故郷へ引っ越す事になったの。離れるけど、みんなの事は忘れないから」

 私はそう言うと、クラスメート全員に向かって深くお辞儀をした。

 その後、クラスメートとそれぞれ別れの挨拶をしたけれど、いつの間にか朝倉君は何も言わずに帰っていた。



 その日の夜、私は朝倉家に挨拶に行った。

 引っ越す事を伝えると、おばさんは驚いていた。

「もっと、早く言ってくれればお別れパーティしたのに……大樹!五月ちゃん来てるのよ、下りて来なさい」

 おばさんは朝倉君を呼んだが、彼は下りて来なかった。無理もないなと私は諦めていた。

「ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに、あの子ってば」

 申し訳なさそうに言うおばさんに首を振ると、無理して笑顔を作る。

「それじゃ」

「もし、戻って来る時は家に遊びに来てね」

 おばさんは優しく言ってくれた。私は頷くのがやっとだった。

 帰り道、私は泣いた。

 出来ればこんな別れ方はしたくなかったのに。ちゃんと『好きでした』って最後に言いたかったのに。

 そして私の初恋は、何も伝えられないまま終わった。





 



中学時代は終了です。

次回から本編へ戻ります。

お付き合いいただけたら光栄です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ