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あなたの隣に  作者: ミサ
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回想~淡い想い-2-

「ごめんね、私が始めたことなのに…」

 久しぶりに花壇へ行くと、ホースで水を撒いている朝倉君がいて、私は申し訳ない思いで謝った。

 元々は私がしていた事なのに、生徒会の仕事が忙しくて花壇の世話が疎かになっていた。それを彼が引き受けてくれていたのだ。

「別に、どうせ俺は帰宅部だから…気にしないでいいよ」

「朝倉君、部活は入らないの?」

 私は今更だと思いながら聞いてみた。

 すると彼は笑いながら、自分の身体を見下ろした。

「俺?この通り太っているから運動はニガテだし、入りたい部がここにはないから」

「入りたい部って?」

 朝倉君の入りたい部って何だろう?

 私は気になって更に聞いてみた。

「…天文部」

 彼の返事に私は目を丸くした。

「朝倉君って星観るの好きなの?」

 何か意外な気がした。

「うん、天体望遠鏡も持ってるし、田舎のじいちゃん家に行く時は持っていって一晩中観察してる」

「そうなんだ。私は星空を観ても、星座とかがよく判らない。凄いよ!」

 私は彼の意外な趣味に驚いた。

「…そういえば、今日はうちに夕飯食べに来るのか?」

 彼は私の言葉に照れた様に話を逸らした。

「うん、迷惑でなければ。お願いしたいな」

「迷惑じゃないさ、むしろ母さんは大歓迎だと思うよ」

 私はすっかり朝倉君のお母さんや妹の美樹ちゃんと仲良くなっていて、週に何度か夕食に招かれるようになっていた。

 両親も朝倉君のお母さんからの招待に最初は遠慮していたのだが、娘が1人でご飯を食べる事にどこか罪悪感があったらしく、今はお礼を兼ねて手土産を持ち時々私を迎えに来る。

「じゃ、あとでお家に行くね」

「うん、あとでな」

 私は朝倉君に手を振ると生徒会の仕事に戻った。



 冬休みに入ったある日。

 私は朝倉君を誘って、プラネタリウムへ行った。

 いきなりの誘いだったにも関わらず、彼は嫌な顔もせずに付き合ってくれた。

 満天の星空を見ながら、私は昨日聞いた両親からの話を思い出していた。



「そんな……何で?」

 私は半泣きになりながら、両親に問いただした。

 2人は申し訳なさそうに、私の顔を見ながら事情を話し始めた。

 父は大手商社の営業だが、田舎に住んでいる両親(私の祖父母)が老齢の為に農業を辞めると聞き、今の仕事を辞めて農業を継ぐ事にしたそうだ。

 しかし、母は公務員で今の仕事が生きがいという人なので、父と一緒に田舎で農業など到底無理だと言った。

 春頃から話し合いをしていたらしいけど、結局年明けには離婚するという事で話は済んだらしい。後は私の事だけだと言われた。2人は私の気持ちを尊重するからじっくり考えなさいと言った。

 私は祖父母が大好きだったし、出来れば父と一緒に田舎で暮らしたいと思っていた。

 だけどそうなれば、母は1人になってしまう。

 その事実が私に答えを出す事を躊躇させていた。



「何かあったのか?」

 上映が終わって外に出た時、朝倉君が私に尋ねてきた。

「…ううん、何もないよ。綺麗だったね」

 私はそれだけ言うのが精一杯だった。

 ……もしお父さんと一緒に田舎へ行けば、朝倉君とは会えなくなるんだ。

 そう思ったら泣きたくなった。

 私はその時、彼の事が好きなんだと気が付いた。

 だけど、その思いを彼に伝える事は、結局出来なかった。



 冬休みが終わって初めての登校日。

「おはよう!」

 私はいつものように、教室に入った。

 だけど教室の雰囲気が何か違う---みんなが私の方を見ている。

 私は訳が判らず、近くにいた朝倉君の方を見ると、彼の表情も何故か強張っている様に見えた。

「何…どうしたの、みんな」

「よっ、ご両人!」

 突然クラスメートの橋本君が大きな声でそう言うと、みんながどっと笑った。

「…麻生、あれ」

 朝倉君が指差す方向を見て、私は唖然とした。

 黒板いっぱいに相合傘が描かれていて、その中に私と朝倉君の名前が書かれていた。

「何よ、これ」

 私は怒りと恥ずかしさで、黒板を消しはじめた。

「照れるなって、いいじゃん。クラス初のカップル?凸凹コンビでお似合いだぜ。2人で休みの時にプラネタリウム行ったんだろ?他のクラスの奴が見たってよ!」

 橋本君の言葉で納得した。

---ああ、見られてたんだ---

 私は黒板を消していた手を止め、クラスの皆の方を見て笑った。

「ああ丁度その日、偶然に朝倉君と会ったのよ。ねぇ、びっくりしたよね」

 朝倉君の方を見てそう言うと、彼も話を合わせて頷いてくれた。

「うん、まさかあんな所で会うとは思わなかった」

 朝倉君の言葉にみんなは『なーんだ』という感じで、その話はそれで終わった。

「そうだよねー、五月と朝倉君だなんて身長的にも釣り合わないって」

 麻美ちゃんが笑って私にそう言った。その言葉に私の胸がチクリと痛んだ。










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