同窓会の知らせ
1か月程たった頃
【ディア】の撮影に向かう車の中で、朝倉君から同窓会の話を聞かされた。
そしてその話の中で、私の小中学校の時の友達である麻美ちゃんが、同級生だった林原君と結婚する事も教えられた。
「え? 麻美ちゃんと林原君が結婚?」
「あぁ、それで発表も兼ねてのクラス会をするから、俺達にも来てほしいってさ」
「行くっ! いつ?」
「来月の第2週の土曜日」
すごい! 麻美ちゃんと林原君が結婚! あの頃には想像も出来なかった。転校以来みんなとは会ってないから10年振り位よね……すごく楽しみ!
「朝倉君も行くわよね? 林原君と仲良かったでしょ?」
興奮気味の私の言葉に、朝倉君は何も答えなかった。
「…朝倉君……行かないの?」
私は朝倉君の方を見て尋ねた。
「お前が行くなら、俺は今回は遠慮した方がいいと思う」
彼が躊躇いがちに、そう呟いた。
「何で?」
「母さんが林原に俺達が付き合ってるって言ったらしい。それでクラスのみんな喜んでて、会いたがってるから2人で来てくれって」
「クラスのみんなが喜んでる?」
思いもしなかった意外な話に私は首を傾げた。
「林原が言うには、中学の時に俺達の事をからかって、気まずくしたのをみんな気にしてたらしい」
「そうなの?」
「橋本なんか付き合っているって聞いて大喜びしてたらしいぜ−−−それに後藤がお前に会いたがってる。お前−−−転校以来、みんなに会った事ないだろ? 行って来いよ−−−俺は急な仕事が入ったとでも言うから」
朝倉君の話を聞いていた私は、何となく面白くなくて怒った口調で答えた。
「……行かない…」
返事が意外だったらしく、珍しく彼が驚いた様な表情をした。
「はっ?」
「朝倉君が行かないなら−−−私も行かない」
「何で? 楽しみにしてるんじゃないのか」
車を路肩に止めると、私の方を見た。
「だって……2人で行かなきゃみんなガッカリする。それなら2人共忙しくて行けないって言う方がいいと思う」
「お前---解ってるか? 2人で行けば、あれこれ聞かれるぞ。それにまた母さんが会いにこいって言うに決まっている」
彼は呆れたよう言った。
「私は構わないよ−−−おばさんには会いたいから−−−結局、朝倉君は私と一緒に行くのが嫌……ううん、付き合っているって思われるのが嫌なんだよね?」
話しているうちにだんだん腹が立ってきて、つい朝倉君を睨む。
そんな私に彼もムッとして、怒った様に言い返した。
「確かに……付き合ってるって嘘つくのは面白くない。ましてやリョウさんにも悪いだろうが」
リョウさん……しまった! 忘れてた。
私は動揺してしまった為に一瞬、朝倉君から顔を背けたけれども、自分に言い聞かせる様に再び視線を合わせながら答えた。
「…リョウさんは大丈夫。クラス会に行くから向こうに2,3日泊ってくるって言うから。それに宿泊はホテルに予約入れるし、朝倉君には迷惑かけない。嘘つくのが嫌なら、むしろクラス会に行ってはっきりと本当の事言った方がお互いの為じゃない? もちろん、おばさんにも」
私の言葉に朝倉君は何も言わずに、ただ黙っていた。
「……とりあえず、私は行くから。朝倉君は好きにしていいよ」
そんなに私と一緒に行くのが嫌なの?
心の中で問いかけながら、思わず溜息が漏れる。
「わかった…」
朝倉君はそれだけ言うと、再び車を発進させた。
そして同窓会の当日
私は朝から、2~3日滞在する為に必要な服や化粧品等の荷造りをしていた。
あの日撮影が終わって帰る時、私は林原君の連絡先を聞くとすぐに連絡し、同窓会に行く事を告げた。
林原君は『麻美も喜ぶよ。朝倉と一緒に来いよ』と言ってくれたけれど、私は『彼は仕事で無理かも』と話をはぐらかして電話を切った。
時計を見るとお昼を少し過ぎたところだった。
電車を乗り継がないといけないから、今から出かけないと遅くなるよね---
私がそんな事を考えていると、携帯が鳴った。
ディスプレイには朝倉君の名前が表示されている。
「はい、麻生です」
「あ…麻生? 朝倉だけど……」
電話の向こうから朝倉君の声が聞こえてきた。
私は携帯を握りしめた。
「朝倉君? どうしたの?」
「うん…あのさ、お前今日、どうやって帰るつもりだ?」
彼が躊躇いがちに訊ねてきた。
「電車を乗り継いで行くつもりだけど? もうそろそろ出掛けようかと思ってる」
「……だったら…俺が車を出すから乗せてくよ」
「…行けるの?」
彼の言葉に思わず嬉しくなって、声が少し大きくなる。
「ああ…朝までは迷ってたけど、林原から電話があって行く約束をさせられた」
「…そうなんだ」
---林原君に言われたから行くんだ---
少しがっかりした声で答えた私に、朝倉君は訊ねてきた。
「で、何時に迎えに行けばいい?」
「私はもう準備出来ているから、朝倉君が出掛けられる時間でいいけど」
「だったら……そうだな、1時間後にお前の家に迎えに行くから。着いたらもう一度電話する」
「うん、わかった」
そう答えると電話を切る。
とりあえず一緒に行けるからいいかな?
私はもう1度、荷物の確認を始めた。
思ったよりも早く、朝倉君から電話がかかった。
下で待ってると言うので、私はバッグを持つとすぐに家から出た。
高速に乗る前に、コンビニに寄り飲み物を買った。
そして高速に乗ってしばらくした頃、朝倉君が唐突に聞いてきた。
「で、麻生は泊まる所はどうするんだ?」
外の景色を見ていた私は、彼の言葉に振り向くと話し始めた。
「あ、Mホテルに2日間、予約入れたから大丈夫」
「あそこって、宿泊費かなり高くなかったか? 大丈夫なのか?」
驚いた様な彼の声に、『そうだよねぇ。普段なら泊ろうなんて思わないよ』と、私は心の中で呟きながら事情を説明する。
「実は、Mホテルにリョウさんの知り合いがいるらしくて、私がクラス会に行く話をしたらリョウさんが『だったら、俺が予約入れとくから泊っておいで』って言ってくれて。私も当てが無かったから思わずお願いしちゃった」
「そうなんだ。良かったな……ところで、リョウさんに俺の事は言ったのか?」
「言ってないわよ、だって朝倉君、行くかどうかもわからなかったし。言う必要もないかな? って思ったし」
彼が小さく溜息を吐いた事で、私の中で少し意地悪な気持ちが生まれた。
「……言った方が良かった?」
「は?」
「何か、言って欲しそうな口ぶりだったよ?」
「ばっ…馬鹿か! お前、誤解されたらどうするんだよ」
朝倉君は私の言葉に気分を害したらしく、怒った口調だった。
そうだね……朝倉君は誤解されたくないんだよね? 私と一緒なのって迷惑なんだから…
なんか自虐的な気分になってきて、目の前が霞む。
私は肩を竦めると泣きそうな顔を見られたくなくて、窓の外へと視線を戻した。
それからは2人共、目的地に着くまで言葉を交わす事はなかった。
朝倉君はMホテルまで私を送ってくれた。
お礼を言って車を降りると、運転席から助手席の方へ身を乗り出し話し掛けてきた。
「じゃ、後で迎えに来るから」
私は驚いて彼の方を振り向いた。
「大丈夫、現地集合でいいから。朝倉君は家から直接行って」
「お前、中学以来戻って来たことないんだろう? 街の風景も昔と随分変わっていて判らないと思う。いいよ、別にここからそんなに遠い場所でもないし」
何でそんな事言うのよ。思わず唇を噛み締める。
「どうした?」
彼はそんな私を見て、不思議そうに訊ねてきた。
「朝倉君…私と付き合っていると思われるのが嫌なんでしょう? 一緒に行ったら余計勘違いされるよ? だから別々に…」
『行った方がいい』と言う前に、言葉を遮られた。
「とにかくっ! ……迎えに来るから、待ってろよ」
それだけを言うと、彼はそのまま車を発進させた。
私は走り去る車を見送っていた。
フロントに行き名前を告げると、鍵を渡された。
ルームナンバーを確認して、エレベーターで目的の階まで上がって行く。
扉のナンバーを見てから、鍵を使って中へと入る。
「うわっ! リョウさん……こんなに広い部屋じゃなくても良かったのに」
部屋はツインだったけど室内は広く、大きな窓からは外の景色が一望できる。
「はぁ、室料高いだろうなぁ。2日だけの宿泊にしてて良かった」
思わずそんな言葉が漏れる。
いくら給料が上がっても、1人暮らしにとっては贅沢すぎる。万が一に備えて貯蓄を心掛けている私には痛い出費。
「まぁ……たまにはいいかな? うん! 自分にご褒美と思おう」
そう心に決めて、取り敢えず荷物をクローゼットにしまい、お風呂に入ろうとバスルームに向かった。
お風呂から上がり少しだけ仮眠を摂って身支度を済ませた頃、朝倉君はホテルまで車で来た。
居酒屋はここから歩いて20分程の所にあって、お酒を飲むつもりだと言う朝倉君は車をホテルの地下駐車場へ預けて歩いて行く事になった。
「入って行くのは別々にした方がいいかも。私が少し遅れて行くから」
私はその道程で朝倉君へそう告げた。
「大丈夫だよ…別にそこまでしなくても……」
「でも……朝倉君は私と一緒は嫌でしょう?」
「何でだよ?」
私の言葉に彼は怪訝な顔をしてこちらを見た。
2人の視線が重なる。私は慎重に言葉を選びながら答えた。
「朝倉君は私と付き合ってるって勘違いされるのは嫌でしょう?」
「別に俺は勘違いされるのは嫌じゃない!」
肯定の言葉を言われるのを覚悟していた私は、意外な返事に思わず彼の顔をじっと見た。
「え? だって」
そんな私に、彼は溜息をつきながら答えた。
「俺は別に構わない…お前と付き合ってると思われるのは。だけど、お前はそうはいかないだろう?」
私が何か?
意味が解らず首を傾げると、彼は顔を顰めた。
「お前には『リョウさん』がいる。もしもその事がばれたら? 立場が悪くなるのはお前だぞ」
あ、そうか…リョウさんと朝倉君---二股かけてるって思われてもおかしくない状況だ。
それじゃ、朝倉君は私の事を思ってそう言ってくれてたの?
私が彼の方を見ると、更に言葉を続ける。
「嘘をつくのは好きじゃない……林原達には、俺の母親の勘違いだってちゃんと言うから安心しろ……」
リョウさんの事……朝倉君に話してもいいかな? 私が心の中でそう思っている間に目的の居酒屋の前まで来ていた。
結局---言うタイミングを失った私は、居酒屋の扉を開いた朝倉君の後ろをついて店の中へと入って行った。




