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あなたの隣に  作者: ミサ
19/23

爆弾発言の余波

 私が着替えて戻って来ると、スタジオにいた全員の視線が私の方へ集まった。

 ---な、何? どうかした?---

 みんなの表情が様々で私は戸惑った。

 雪村さんは少し不機嫌そうな顔で、吉澤さんは複雑な表情でこちらを見ていた。唯香さんは無表情のまま私を見ていたけど、その視線が怖い。

 そして、朝倉君は---呆然としていた。

「メイ、着替えは済んだ? じゃ、みなさんお先に失礼します」

 リョウさんは満面の笑みで、みんなに挨拶すると私の腕に手を添えて歩くように促す。

 私もみんなに軽く会釈をして、リョウさんと一緒にスタジオを後にした。



「一体、何があったんです? みんなの様子が変でしたけど」

 リョウさんの車の助手席に乗り込むなり、私は尋ねた。

 すると、彼は楽しそうに笑いながら私の方を見た。

「ん、メイちゃんが着替えに席を外した時に、雪村さんから『仲が良いみたいだけど……』って聞かれたから、『数日前から付き合ってます』って言っちゃったんだよね」

 だよね……って……

「リョウさん、仲が良いところをアピールするのには協力しますけどっ、『付き合ってます』はまずいですよっ!」

「まぁまぁ……落ち着いて。でもさぁ、その時の2人の反応…面白かったよ」

 そう言って笑うリョウさんは、いたずらが成功した子供の様に見えた。

「唯香は必死に無表情を装ってたけど、一瞬だけ動揺したのを俺は見た! 朝倉君は呆然としてたよ。よほどショックだったんだね。気の毒に…」

 誰のせいですか……私は呆れて溜め息をついた。

 でも……ショックを受けてたって本当? 私が戻った時も、呆然としていたよね。その事に気づいて少しだけ心が浮き立つ。

「でも、どうするんですか? そんな事言っちゃって。次の撮影で『この前のは冗談でした』って、謝るんですか?」

 私がそう言ってリョウさんの方を見ると、笑みが恐い……また何か企んでますか?

「いや……訂正しないよ。しばらくは付き合ってる事にしておいて、向こうがどう出るか見てみようかと…」

「何もなかったらどうするんですか?」

「その時はその時……でも今日の反応見てたら、脈ありかなって思うんだよ」

 何故か自信満々のリョウさんを横目で見ながら、私は溜め息をついた。

「何? メイちゃん、どうかした?」

「いえ…何でそんなに自信満々なのかなぁって思って」

 私がそう言うと、リョウさんは苦笑いで答えた。

「自信なんてないよ。あったら唯香に『何で別れるって言ったんだ?』って、正面きって問い質してるさ。それが出来ないからメイちゃんや瑛たちを巻き込んでる……情けないよな」

 え?リョウさん、意外なんですが……私がまじまじと見ていたので、照れたのか気まずいのか、彼は咳払いをすると話題を変えた。

「で……せっかくだからご飯食べて帰ろうか。俺、美味くて安い定食屋知ってるんだけど、メイちゃんはお洒落な店がいい?」

「いいえ、定食屋さんとか好きですよ。私」

「じゃ、決まり」

 私がそう言うと、リョウさんは笑って車を発進させた。




「ねぇ……メイちゃん、あなた本っ当にリョウの事好きなの?」

 爆弾発言から数日後のある日、私は雪村さんからいきなり尋ねられた。

 今日は【ルージュ】の新作を仮縫いすると言う名目で、【グローリー】の雪村さんのデザイン室へと呼ばれた。

「な、何でそんな事聞くんですか?」

 思わず動揺してしまう。

 私が答えに詰まっていると、雪村さんはホウッと溜息をついた。

「メイちゃん……怒らないで聞いてね。私はあなたは朝倉君が好きだと思っているの」

 真剣な目で雪村さんは私を見つめる。私は何も言う事が出来ず、彼女の目を見返すのがやっとだった。

「前に『朝倉君、どう?』って言った事あるでしょう? あれって、私は結構本気で言ってたのよ。2人を見てたら何か……こう自然って言うか、本当にお似合いだと思ってたの。だから……メイちゃんがリョウと付き合ってるって聞いた時、正直驚いたわ……だって、メイちゃん……撮影の時、いつも朝倉君の姿追ってるわよね? 話をしてる時もとても嬉しそうだし」

 ばれてた? いつも私が彼の姿を追っているの。

 顔が赤くなっていくのが分かる。そんな私を雪村さんは同情するような目で見ている。

「ごめんね…本当は気づかない振りをしようと思ってた……でも、このままじゃ2人……見てられない」


「……どういう事? メイ…あなた、リョウの事が好きなんじゃないの?」

 いきなり第三者の声が聞こえて、私と雪村さんは声のする方へと振り向いた。部屋の入口に唯香さんが立っていてこちらを睨んでいる。

「唯香?」

「唯香さん……」

「朝倉さんが好きなら……なんで、リョウと付き合うのよ。リョウは身代わりって事? そんなの彼が可哀想だわ」

 責めるような唯香さんの声に、私はつい言い返してしまった。

「リョウさんを振った唯香さんに、どうこう言われる筋合いはないと思いますけど? じゃ、唯香さんは何でリョウさんを振ったんですか?」

 思わぬ私からの反撃に唯香さんは言葉を失った。そして、唇を噛み締めるとそのまま部屋を出て行ってしまった。

 私たちのやり取りを見ていた雪村さんが、私に問いかけてきた。

「メイちゃん……何かわけがありそうね? 良かったら話してくれない? もしかしたら協力出来るかもしれないわよ?」

 その声に思わず雪村さんを見ると、先程とは違って嬉しそうに微笑んでいる。

「雪村さん……」

「大丈夫! 私こう見えて結構口は硬いのよ」

 人差し指を口元に当てながら、雪村さんはそう言った。

 本当は彼女を味方につけて、朝倉君の誤解を解きたい! だけど、リョウさんと唯香さん2人の問題をそんなに簡単に人に言う事は憚られた。

「……ごめんなさい、雪村さん。今はまだ、誰にも話せません」

 私が俯いてそう答えると、彼女はポンと私の肩を叩いた。

 驚いて雪村さんの顔を見ると、ニッコリと笑った。

「うん、分かった! 私はメイちゃんを信じるわ。もし言いたくなったらいつでも言ってね……話ぐらいならいくらでも聞いてあげる!」

「ありがとうございます」

 私は雪村さんにお礼を言った。



 その翌日、美樹ちゃんから電話があった。

 内容は美樹ちゃんのお母さん---つまり、朝倉君のお母さんでもあるおばさんが、私に会いたいといっている---と言う内容で、私は時間が空き次第会いに行く事を約束した。

 おばさんに会うのを楽しみにしていた私に、電話で朝倉君は会うのは駄目だと言ってきた。

 さすがにその言い方にムッとした私は、つい突っかかってしまった。

 彼は呆れたように『リョウと付き合っているのに、他の男の彼女としてその親に会うのはリョウに申し訳ないだろう』と言われ、今の自分の立場に気づいた。

 ---そうだ、今は一応リョウさんの彼女という事になっているんだ---

 本当の事を言いたい誘惑に駆られたけれど、それを我慢して小さく答えた。

「……そうだね、リョウさんに悪いわよね? でも、会いたかったなぁ」

「解ったか? いいな? 美樹から言われたら断れよ。お前の為だ」

「うん……解った…」

 私は残念な気分で答えた。



 



 

 


   

 

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