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あなたの隣に  作者: ミサ
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15/23

思いがけない再会

 企画会議の当日---私を迎えに来てくれたのは……吉澤さんだった。

「吉澤さんが迎えに来るって、朝倉さんどうかしたんですか?」

 私は車に乗ってから、彼に訊ねた。

 もしかして、私に会いたくないとか?

 すると、吉澤さんは運転しながら答えた。

「あぁ、あいつ……何か熱出したとかで、今日は欠勤なんだよ。だから俺がメイちゃんを迎えに来たって訳」

「熱って…大丈夫なんですか?」

「一応、病院には行けって言ってあるけど…どうかなぁ。電話の様子だとかなりきつそうだったよ。

まぁ、朝倉は仕事に関して真面目に取り組む奴だから、ここ数日無理してたみたいなんだよな--自己管理がなってないって言ってしまえばそれまでなんだけど」

 吉澤さんの話を聞きながら、私は帰りにでも様子を見に行こうかと考えていた。

 1人暮らしで病気になるといろいろと不安を感じてしまう。私もそうだったから、出来るだけ健康には気を付けるようにしている。

「早く治るといいですね……」

 私は小さな声で呟いた。

「そうだな…まぁ、朝倉は大丈夫だろう」

 吉澤さんは明るく答えた。



 今回の企画会議の内容は【ディア】からの申し入れで、3か月間連続で【アンジェリア】の特集を組むと言うものだった。前回の特集で双方の売り上げが伸びたのが理由らしい。

 【ディア】の担当はリョウさんだそうだ。今回はモデルはせずに、取材などを中心に行うと言っていた。

 会議自体はスムーズに進行し、予定時間を少し過ぎたくらいで終了した。

 終了した後、私が帰る準備をしていると、何故か雪村さんが私へ茶色い封筒を渡してきた。

「え?……雪村さん、何ですか?これ…」

 すると、雪村さんは申し訳なさそうな表情で、私の方を見た。

「メイちゃん…こんなお願いするの失礼だとは思うんだけど、この書類を朝倉君に持って行ってくれないかしら?会議の資料なんだけど、これが無いと朝倉君、出勤した時に困ると思うのよね」

「わかりました、いいですよ。どうせ今日は予定も入ってませんし……朝倉さんの家に届ければいいんですよね?」

 私の返事に、雪村さんはホッとした様に笑顔を浮かべた。

「ありがとう!助かるわ。今度、メイちゃんに美味しいものご馳走するからね!」

「いいですよ、別に。それじゃ、失礼します」

 私は封筒を受け取りバッグにしまうと、会議室を出たところに吉澤さんが待っていた。

「メイちゃん!送るよ」

「あ、いいです。1人で帰れますよ……吉澤さんも仕事忙しいでしょうし。それに雪村さんからお使い頼まれました」

「雪村……?あいつに何を頼まれたんだ?」

 吉澤さんは眉間に皺を寄せ、顔を顰めていた。

「はい--書類を朝倉さんの家まで持って行って欲しいって」

「は?で…メイちゃんは了解したのか?」

「どうせ、今日は何も予定ないですし」

 頷きながら私は答えた。

 吉澤さんは何故か溜息をついたが、気を取り直した様に私を見た。

「で、あいつの家まで行けるの?」

「大丈夫ですよ---どうしてですか?」

「いや……いい。じゃ、気をつけて帰ってね」

「はい、それじゃお疲れ様でした。お先に失礼します」

 私は吉澤さんにお辞儀をすると、そのまま朝倉君の家へと向かった。

 途中で飲み物と果物を買って、彼のマンションまでやって来た。

 朝倉君の家のインターフォンを押す。

 もしかして……寝てる?

 なかなか返事がなくて諦めようかと思った時、『はい?』と部屋の中から声が返ってきた。

 え?女の人?

 私が驚いている間に玄関が開き、中から若い女性が現れた。

 うゎ、可愛い人……

 私は思わず相手の顔をまじまじと見つめてしまった。

 色が白くて、髪は肩までの長さで緩くウェーブがかかっている。目はパッチリ二重で更にアイメイクを施している。

 もしかして……朝倉君の…彼女?

「あの…何か御用ですか?」

 私を怪訝そうに見ながら、彼女が尋ねてきた。

「あ…ごめんなさい。私、麻生と言います。朝倉さんに会議の書類を届ける様に頼まれたので…」

 私の説明に、怪訝そうな顔をしていた彼女がにっこりと微笑んだ。

「そうなんですか…あ、どうぞ中に入って下さい。もうそろそろ目を覚ますと思いますから」

「いえ…書類を届けにきただけですから…あ、これ良かったら食べて下さい」

 そう言って彼女に、先程買った飲み物と果物を渡した。

「じゃ……お大事に」

「わざわざ、ありがとうございます」

 私は軽く頭を下げ、帰ろうと彼女へ背を向けた。

「麻生?」

 その瞬間、自分の名前を呼ばれて咄嗟に振り返る。

 そこには壁に寄りかかってこちらを見ている朝倉君がいた。

「あ、起きたんだ!良かった。彼女、会議の資料とお見舞い持って来てくれたのに、帰ろうとしてたのよ」

 彼女が朝倉君に話をしている。その話を聞いた彼は私の方を見た。

「せっかく来たんだから、お茶でも飲んでけよ。こいつが淹れるから」

「でも、熱があるんでしょ?安静にしてた方がいいし」

 私は心配もしていたが、出来ればそのまま帰りたかった。朝倉君と彼女が2人一緒にいる所に居るのは辛すぎる。

 だけど私のそんな胸の内を知らない朝倉君は、ほほ笑むと彼女にお茶を入れる様に言った。

 彼女はにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべると、台所へと入って行く。

 私はどうしていいか分からず、玄関に立ち尽くしていた。

「ほら、早く中へ入れ。ドア開けっぱなしの方が、体が冷えて良くない」

「あ、ごめん」

 慌ててドアを閉めると、朝倉君は私を家の中へと招き入れた。


 朝倉君と向かい合ってソファに座った。台所では彼女がコーヒーを淹れているらしく、良い香りがリビングまで漂ってきた。

「ごめんなさい、お待たせしました。コーヒーで良いですか?」

 カップを3客、トレーに載せて彼女が台所から出てきた。

「あ…はい、大丈夫です」

 私は思わず背筋を伸ばして座り直した。

 うわぁ、何か緊張するんですけど。もう……帰りたい!

 彼女はコーヒーをテーブルに置くと、朝倉君の隣に座って私に微笑んだ。

 そして彼に向かってはしゃぎながら訴える。

「…ねぇ!紹介してよ」

 朝倉君はその言葉で、私の方を見ながら彼女へ紹介を始めた。

「あぁ、そうか…彼女は今、一緒に仕事をしているメイで……」

「うそっ!あの【ルージュ】の?−−−私、あなたのファンなんです!」

 彼の紹介を途中で遮り、彼女は私の両手を掴むと強く握ってきた。

 その勢いに思わずたじろいでしまった。

「……あ、ありがとうございます」

「写真と印象が違うから気付かなかった!でも私、今の貴女がいいな−−--何かナチュラルで一緒にいて落ち着く感じ」

 え?

 私は言われた事が意外で、思わず彼女の方を見た。

 普段の私は--そう、今みたいに化粧っ気も無く、シンプルなシャツを着ていて、【ルージュ】のメイだと誰も気づかない……はっきり言って『地味』なんだけど、モデルとしてそれはどうかと思っている。

 更に彼女は続けた。

「……今のメイを見たら、【ブラン】の方が合ってると思うのに…」

 彼女の言葉に、朝倉君が尋ねた。

「何でそう思う?」

「は?だって今のメイには【ルージュ】みたいな真紅より、純白とか淡い色が似合うでしょ?絶対!---

あ、誤解しないで!【ルージュ】の時もカッコいいよ!だから私は好きになったんだから」

「ありがとう−−−こんな風に直接言われた事、ないから何か凄く嬉しい」

 私は本当に嬉しくて、彼女にお礼を言った。

 すると彼女ははにかみながら微笑んだ。

「ごめんなさい!素人のくせに生意気言って……」

「確かに生意気だな−−--でも参考にはなった。ありがとうな」

 朝倉君の言葉に彼女はびっくりしたように目を丸くしている。そして更に言葉を続けた。

「で、お前はいつ自己紹介するんだ?」

 彼女はその言葉に私の方を見ると姿勢を正した。

 私も思わず、背筋を伸ばす。

「初めまして!私、朝倉美樹と言います。初対面で生意気言ってごめんなさい」

「……え?美樹ちゃん?」

 思いがけない名前に、私はまじまじと彼女を見つめる。

 私の記憶にある小さな女の子と、今目の前にいる可愛い女の子が一致しない。

 美樹ちゃんもそんな私を不思議そうに見ていた。

「そうだよ。俺の妹の美樹」

 朝倉君の言葉に、彼女の大きな瞳が小さい頃の美樹ちゃんの瞳と重なる。あぁ、美樹ちゃんだと懐かしさで嬉しくなった。

「本当にあの美樹ちゃん?こんなに大きくなって……全然判らなかった!」

 突然の私の変化に美樹ちゃんは戸惑った顔で、朝倉君を見る。

「お前はまだ小さかったから覚えてないか−−−麻生だよ。俺の中学の同級生で、よく夕飯食いに来てた奴……『五月ちゃん』だよ」

 彼の言葉を聞いた美樹ちゃんは、驚いた顔で私の方を見た。

「『五月ちゃん』?あの?……」

 美樹ちゃんの言葉に、私は頷く。

 すると、彼女は立ち上がると私の横に座り抱きついてきた。

「五月ちゃん!会いたかったぁ−−−もうっ!全然連絡くれないんだもん。私も母さんも心配してたんだよ」

 良かった!覚えてくれてた。私は嬉しくて彼女に微笑んだ。

「ごめんね、美樹ちゃん。でも私も会いたかった!」

 そう言って美樹ちゃんを抱きしめる。

「まさかあのメイが五月ちゃんだったなんて嘘みたい---兄貴ってば、五月ちゃんの事何も言わないんだから!」

 そう言って美樹ちゃんは朝倉君の方を咎めるように見たが、彼は何か考えているようでこちらを見てはいなかった。

「忙しいから、言うの忘れてたのよ。たぶん」

 私達が話をしていると、朝倉君が突然立ち上がった。

「……俺…寝る」

「あ、その方がいいよ---夕飯出来たら起こすから!五月ちゃんも食べてってね」

「え?美樹ちゃん、作るの?凄い!えっと、まだ中学生?」

「今年、高校に入学したの」

 美樹ちゃんと話をしてる間に、朝倉君は寝室へと戻って行った。やっぱり、起きていたのがいけなかったみたい……

 私は美樹ちゃんと一緒に昔話をしながら、夕食の準備を手伝う事にした。


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