彼の告白
結局、一睡もしないまま朝を迎えてしまった。
どうしても、朝倉君のあの不可解な行動が気になってしまって寝つけなかった。
昨日のあの酔い方だと、今日は酷い二日酔いのはず……
そう思った私は顔を洗い着替えると、前から返そうと思っていた保存容器を紙袋に入れて家を出た。
朝倉君の家に向かう途中、24時間営業しているスーパーに立ち寄り必要な物を買い込んだ。
彼の家の前まで来た時、腕時計を見ると10時ちょっと過ぎだった。
まだ、寝てるかな?
そう思ったが、せっかく来たのだからと玄関横のインターフォンを押す。
人の気配がして、眠そうな声が聞こえてきた。
---はい、どちら様?---
「あ、おはよう!私、五月だけど」
良かったぁ!起きてた。
そう思った瞬間、朝倉君が慌てた様に出てきた。
「うわっ、やっぱり二日酔い?何か目が血走ってるし」
私がそう言うと彼は、頭を押さえながら呻いた。
「……悪い、麻生…声、少し抑えて…頭に響く……」
「あ、ごめん…実は、この前持たせて貰った保存食の容器、持ってきたんだけど」
私は紙袋を朝倉君に差し出した。
「わざわざ、よかったのに……」
受け取りながら彼は返事をしたけど、気分が悪そうだった。
私はそんな彼を押しのけて家に入った。
「麻生、何……」
「この前のお礼させてもらうね」
そう言って、スーパーのレジ袋を見せると台所へと歩いて行った。
「はい、どうぞ!味は保証しないけどね。二日酔いには効くよ」
そう言って私は彼に、作ったばかりのお味噌汁を出した。
「え?これ…」
「しじみのお味噌汁---二日酔いに良いって聞いたから」
ふと昔父親がよく二日酔いに良いと言って、しじみのお味噌汁を飲んでいたのを思い出した私は、来る途中に食材を買って来たのだった。
朝倉君は温かいお味噌汁を、ゆっくりと飲んでいく。飲み干した時、ほうっと息をついた。
「どんな?」
料理の上手な彼の口に合うか心配で思わず聞いてみた。
「ん、美味かった。おかわりあるか?」
私は笑顔で頷くと、空になったお椀を持って台所へ入って行った。
しばらくすると、朝倉君の気分も大分良くなっていた。
どうやら昨日の出来事を思い出したらしく、気まずそうな顔をして決して私の方を見ようとしない。
そんな彼の態度に少しばかり私は傷ついていた。
たぶん、間違うにしても何で麻生なんか抱きしめたんだ?みたいな事思ってるんだろうなと、容易に想像できた。
「朝倉君、昨日の事---私、気にしてないから。酔ってて誰かと間違ったんでしょ?」
私の言葉に彼は驚いたようにこちらを見た。だけど今度は私が視線を逸らしてしまった。
安堵した顔なんて見たくない………
「ごめん……吉澤主任と好きな子の話をしてたから、つい……」
あぁ……やっぱり、そうか……
「好きな子……いるんだ」
私はそっと呟いた。
朝倉君はあっさりと答えた。
「ああ、いるよ…… 一応俺だって健全な男ですから。ただ、片思いだけど」
え?---私はその言葉に思わず彼を見た。
「何で?告白すればいいのに……朝倉君だったら、『OK』貰えるよ」
「ところが、彼女は俺の事が好きじゃないんだよな……だから無理」
朝倉君が自嘲気味に言った。
「彼氏がいる子とか?……まさか、人妻じゃないよね?」
「いや違うよ---本人は彼氏いないって言ってたけど」
「そうなんだ……朝倉君、大丈夫!他にもいい子はいるって!その子は見る目ないんだよ」
私だったら………彼に告白されたら喜んで彼女になるのに……
そんな事を思っていると、朝倉君は私に微かに笑顔を向けた。
「ありがとうな。慰めてくれてさ---本当、昨日はごめん、出来れば忘れてくれ。もう2度とあんな事はしない。約束する」
朝倉君は私を安心させるように言ったつもりだと思う---だけどその言葉は、彼が私に昨日の事は無かった事にしたいと暗に言っている様に思えて--- 一瞬胸が痛んだ。
「うん、大丈夫。気にしないから---朝倉君も早く、素敵な彼女できたらいいね」
私、馬鹿かもしれない……ううん、馬鹿だ。何で心にもない事、言ってるんだろう。
そんな私の胸中等、知る由もない朝倉君は寂しそうな表情を浮かべていた。
「……そうだな、早く踏ん切りつけないとな」
私は用事があると言って、早々に朝倉君の家を出た。
今は一緒にいるのが辛い。
彼には思う女性がいて、でも相手は彼を好きではない。
私は彼が好きなのに、彼は私の事は全く眼中にない。
だめだ……考えたら涙が出てくる。
彼に告白しようか?---でも、迷惑になるかもしれない。それに仕事もやり難くなったらお互い困る。今が、一番居心地のいい状態だったのに……それが少しずつ崩れてくる。
諦められる?彼の事……
私は答えの出ない質問を、その日何度も心の中で投げかけた。




