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あなたの隣に  作者: ミサ
10/23

友達として……

 翌日---朝10時に彼は私のマンションまで迎えに来てくれた。

 私は、その数分前に入口で彼が来るのを待っていた。

「おはよう、家で待ってればいいのに…着いたら電話するつもりだったし」

 助手席に乗り込んだ私に、彼は呆れたように言った。

「うん、何か早く起きちゃって。家にいても落ち着かないから」

 本当は緊張のあまり、一睡もしてなかった。それでも彼に向かって笑いながら答えた。

「……もしかして、寝てないとか?」

 彼が訝しげに訊ねたので、慌てて首を振る。

「ううん、ぐっすり眠ったよ!むしろ寝過ぎたくらい?」

 そう言う私の顔を、疑わしそうに見ながら彼は、ゆっくりと車を発進させた。



「ところで朝倉君……連れて行きたい所って?」

 車が走り出してしばらくして、私は彼にさっきから聞きたかった事を尋ねた。

「…着いてからのお楽しみ」

 彼が前を見ながらそう答えので、私は思わず『ケチ』と呟いて窓の外を眺めていた。

 するとさすがに一睡も出来なかった身には、車が走っている時の揺れが何とも心地良く、私はいつの間にか深い眠りに落ちていた。



「おい麻生、起きろ!着いたぞ」

 肩を揺すられて私は眠りから覚めた。

「うーん…どこ?……」

 ゆっくりと目を開けて、辺りを見回す。

 そこは隣の県に新しくできたコミュニティセンターだった。

「え?ここ?」

 思ってもいなかった意外な場所に、私は目を丸くした。

「そっ、ほら早く降りろよ」

「あ、待ってよ!」

 朝倉君はすたすたと先に歩いて行く。それを見て私は慌てて車から降りた。

 建物の中に入ると、彼はエレベータールームへと向かった。

「ねえ、一体どこに行くの?」

 エレベーターが下りてくるのを待ちながら、私は彼に問いかけた。

「うん…来るの迷ったけど、どうしても麻生と来ないとだめだと思ったから----あ、来た」

 扉が開くと朝倉君は中に乗り込み、私が乗るのを待ってから最上階のボタンを押した。

 それを見た私は、エレベーター内の案内板から最上階の表示を探した。

「……え?プラネタリウム」

 私は思わず朝倉君の方を見た。

「何で?」

 中学の時の事を思い出す。あの時、行かなければ良かったと何度も後悔した−−−

「あの時、プラネタリウムに行ったのがきっかけで、俺達気まずくなっただろ?だから、もう1度お前と見に来て、あの時の事がリセット出来たらと思って…」

 彼は真剣な顔でそう言うとじっと私を見た。

 −−−彼も後悔していたの?−−−

 私は、お互いあの日の事をずっと気にかけていたんだと思い、彼に笑いながら頷いた。

「うん、解った」

 そして最上階のフロアに着いた。



 ここは最新式の機種を設置していて、内装も綺麗だった。

「うわー、今のプラネタリウムって綺麗なのね」

 私が辺りを見回しながら呟くと、朝倉君はふっと微かに微笑んだ。

 上映が始まり天井に現れる四季折々の星座を見ながら、私は彼が言っていたリセットの意味を考えていた−−−

 上映が終わり建物から出ると、私達は駐車場へと歩いていた。

「やっぱり、最新式は違うわねー綺麗だった!」

 私がそう言って朝倉君の方を見ても、彼は何も言わなかった。

 その沈黙が気になり、私は更に話し掛ける。

「どうかしたの?気分が悪いとか?それともお腹空いた?」

「いや……そうじゃなくて…麻生、実は俺…お前に話したいことが……」

 そう言って躊躇っている彼に私は問い掛けた。

「何?」

 彼は一瞬緊張して、それから覚悟した様に話し始めた。

「俺、ずっとお前に謝りたかった。昔、お前に向かって『背の高い女は好きじゃない』って言ったこと、すげー後悔した。本当はすぐにでも謝りたかった。だけど、意地になっていて結局謝れないままお前が転校してしまって……」

 私は彼の話をじっと聞いていた。

「だから今更だと思うけど、謝りたいんだ。嫌われているのは分かるけど---」

「私、朝倉君の事嫌った事ないわよ!」

 何で?彼は私が嫌ってると思ってるの?

 私は即座に否定した。

「え?だけど、時々気まずそうな顔するよな?」

 彼は問い掛ける様に私を見た。

「それは…」

 言えない−−−自分の気持ちをもて余して、ついそんな顔をしているなんて。

 私が答えに詰まっていると、彼は話を続けた。

「出来れば昔の様に、友達として付き合っていけたらと思って…」

「友達…?」

 私は小さな声で囁く。

 彼は頷くと更に話を続けた。

「麻生、あの時は本当に悪かったと思ってる−−−ごめん!」

 朝倉君はそう言うと頭を下げた。

「ち、ちょっと、朝倉君!やめてよ、もう私は気にしてないから…」

 その姿に私は焦ってしまった。

「それに、私だって酷いこと言ったし---お互い様だよ」

「でも、お前は謝った。俺がそれを受け入れなかっただけだし」

 申し訳なさそうに言う彼に、私は首を振る。

「ねえ、もう忘れよう。昔のことだし。それに朝倉君の言ったことは間違ってないよ」

「は?」

 朝倉君は意味が解らないという顔をして、私を見つめた。その視線が痛くて、私は自嘲気味に笑みを浮かべた。

「男の人は、背の高い女の子よりも、背の低い可愛い女の子の方が好きよ。私の元彼も結局はそういう子を選んだもの…だから、朝倉君の言葉は正し----」

「馬鹿っ、んな訳ないだろう。男がみんなそうだとは限らない!お前の良さが解らない元彼が馬鹿なだけだよ。頼むから自分を卑下するな……今はみんなが注目するくらいの『いい女』になったんだから。自信持てよ」

 本気で怒っている様子に私は驚いてしまい、つい彼の顔をまじまじと見つめた。

「ありがとう…でも、ちょっと照れくさいんだけど。朝倉君に『いい女』って言われるの」

 意外な言葉に照れてしまい、そう言って笑った。

 その言葉に彼が赤くなるのが分かった。

 そんな彼を見るのは初めてで、私は心がふわふわとする感じについ笑い出した。

「ねえ、お昼何食べに行く?私、朝早かったからお腹空いたんだけど」

「あ…ああ、近くにイタリアンの美味しい店があるらしい」

「イタリアン?やった!私、大好き。早く行こ!」

 この話は終わりとばかりに、私は昼食の話をしながらそのまま車へと向かった。



 イタリアンは本当に美味しかった。それでつい、デザートまで食べてしまった。

 私が食べすぎたと気にしていると、朝倉君は可笑しそうに笑った。

「ひっどい、人が真剣に悩んでいるのに…笑うなんて!」

「どこが?あんだけ美味そうに食ってたじゃないか。いいんじゃない?たまには」

 確かにそうだ。今更どうしようもない。

「そうだね、明日から少し控えればいいか」



 食事が終わった後、近くにあるショッピングモールへ行こうという話になった。

 別に何かを買うといった目的がないまま、2人でいろんな店を覗いてまわった。

「あ、ごめん。少しここで待っててくれる?」

「何?どうかした?」

 私は朝倉君にごめんとジェスチャーで謝り、来た道を戻る。

 角を曲がった所に可愛い雑貨を扱っているお店があって、さっきそこで『あるもの』を見つけた。

 それを買うために私は急いでお店に入ると、その『あるもの』を手に取りレジへと向かった。



「ご、ごめんね、遅くなって」

 思ったよりも時間がかかってしまい慌てて戻ると、彼はベンチに座っていた。

「いや、別にそんなに慌てて戻って来なくてもいいのに」

 彼は笑って立ち上がった。

 しばらく辺りを散策していたが、夕方になったので帰ろうと駐車場へと戻った。

 車の中では他愛もない話をして、帰りの道は和やかだった。



 朝倉君は、車を私のマンションの前で止めてくれた。私は先程から手の中に握りしめていた『あるもの』を彼の目の前に差し出した。

「何?」

「手……出して」

 彼は首を傾げながら手を差し出す。

 大きな掌に私は握りしめていた『あるもの』をゆっくりと落としていく。それはまるで銀色の雫のように彼の手の中へと落ちていく。

 それはシルバーで出来た、地球をモチーフにしたストラップだった。これを見た時、朝倉君に上げたいと思って買いに戻った。

「え?これ……」

 驚いた様に朝倉君は私を見た。

 私は恥ずかしくなって助手席から降りると、ドアを閉めて窓越しに手を振る。

「今日のお礼。さっきショッピングモールで見かけて、朝倉君にぴったりだと思ったから---プラネタリウムに連れて行ってくれた事、わざわざ昔の事謝ってくれた事……全部嬉しかったから。大丈夫、私達友達でいられるから。もう昔の事は忘れて---」

「麻生…」

 私はマンションの入り口まで行くと振り返った。

「じゃ、また今度。次は仕事だね」

「ああ…じゃ、またな」

 彼が車の中から手を振ってきた。私は笑顔で応えるとマンションの中へと入っていく。

 部屋の中に入って、私は自分が泣いている事に気づいた。

 その日---やっぱり彼にとっては、私は友達以上の存在には成りえないのだと思い知った。


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