中編
家から学校まで歩くには、結構な距離だった。かといって、自転車通学になるほどの距離でもない。親はちゃんと考えて、家を買ったのだろうか。娘はこんなに苦労しているというのに。
横断歩道を渡ろうとしたら、青信号が点滅したので待つことにした。
すると、横断歩道の先に、ひげの長いおじさんがいた。見たことのない顔だった。
かなりひげが長かった。ヘソに届くくらいのあごひげだった。髪の毛はない。
信号が青になった。
本当に知らないおじさんなので、そのまま素通りをすることにした。今度はどの芸能人にも似ていなかった。
「待つのじゃ!」ちょうど、おじさんの横を通っているときだったから、ビックリして振り向いた。やっぱり、みんなは振り向きもせずに通学路を歩いている。……もしかして見えているのは私だけなのだろうか? 一瞬そんな気がした。そうだとしたら、やっぱり学校を休んだほうがいいのだろうか。でも、皆勤賞になると、ノートと鉛筆とクリアファイルが貰える。今日休んでしまっては、ノートと鉛筆とクリアファイルは貰えなくなってしまう。それは困る。というか、別にいらないけど。くれるんだったら欲しい。
そんなことを考えながら、おじさんの横を通った。おじさんは何かわめいていたけど、気にしないことにした。