前編
頭がふわふわとするのは、きっと気のせい。
私はそう自分に言い聞かせると、ランドセルを背負って通学路を歩いた。
少し、風邪気味だった。でも、今日は午前授業だからすぐに終わるだろう。それに、休んだらせっかくの皆勤賞がなくなってしまう。
6年連続の皆勤賞が、私の唯一のとりえだった。
クシャミをひとつすると、前方を見た。
「…………」
私は立ち止まると、大きくため息をつく。今日は休んだほうがいいのかもしれない。
だって、通学路に箒の上に片足で立つ人がいるわけない。
説明しよう。
魔女が箒に乗っている状況が、通常の自転車の乗り方だとする。その自転車を、後輪走行させて、前輪に立つ。片足で。
分かっただろうか? 私には理解できない。
休むわけにはいかない。と自分に言い聞かせ、その人の横を素通りしていく。周りのみんなもそうしていた。
「おいおい、ちょっと待てよー」
聞こえないフリをする。学校までの道のりままだ遠いのに、こんな人にかまってなんかいられない。
「ねえねえ、無視はやめてよ」どうして私にばかり話しかけてくるのだろう。まわりにはたくさんの生徒がいるのに。というより、何故みんな、この変な人を見ないのだ。
私は、仕方なく立ち止まると、後ろを振り向いた。箒の上に立っているから、かなり上を向かなくてはならない。
「じゃんけんしようよ。勝ったら、ここを通してあげる」よく見ると、芸能人に似ていた。名前は忘れたけど、朝の時間帯によく見る人。
私は、後ろを振り向いた。遥かかなたに学校が見える。前を向くと、箒の上に立った芸能人に似ている人。
じゃんけんをする必要は無い。
そう判断したわたしは、回れ右をすると、通学路を急いだ。
「待ってよー。じゃんけんしようよー」
もう、振り返らなかった。