ねぇ、キミは気づいてる?
季節感を気にしないこの仕業・・・、まさに僕ですね(笑)
『大好きと言えなくて』シリーズの派生物語
『ねぇ、キミは気づいてる?』
どうぞ、ご覧ください♪
今日は卒業式。3年間の想いと共に、今日私はこの中学校を卒業する。
私は、まだ赤い目を擦りながら一番前の一番右側の席を見つめる。
眠っているのだろうか?暖かい光を浴びながら、その席に座っている男子は頭を机に突っ伏していた。
彼の名は“木月恭介”。切れ長の目はいつも何かを睨んでいるような雰囲気を漂わせ、近づき難いイメージがある。ちょっとだけ茶髪で長い髪と170cmくらいある背丈。そして、最大の特徴は、“数学が苦手”である。
中学校の数学が全く駄目で、いつもテストでは同情してしまう点数を取っていた。
そんな彼とも、今日でお別れ。お互い、別々の高校に進学する。
もう会えない。そう思うと胸の奥がとてもキュゥっと締め付けられるように苦しい。結局、想いは伝えられないまま3年間が過ぎてしまった。
(・・・哀しい・・・なぁ)
私は、初めて彼に会った時を思い返してみた・・・。
Φ~
入学式、まだブカブカな制服に袖を通し、これから始まる中学校生活に胸躍らさせながら、私は校門を通った。
教室に入ると、もう数人の新入生の人たちが各々の席に着いていた。
(私の席は、っと・・・)
自分の席を探していると、ある一点で私の視線は釘付けになった。
一番窓側の席の男子。
眠たそうな目を必死に開けながら、外の景色を見ている。
――一瞬の出来事、私は恋に落ちた――
まさに電撃が走ったような感覚だった。
あの日から、私の視線はいつも彼に注がれていた。
話をしてみたかったが、切れ長の目から近づき難い雰囲気があった。日が経つにつれて胸のドキドキは増していき、焦がれる想いだけが募っていった。
そんなある日、数学の授業で。
「じゃ、次の問題を、木月、お前が解いてくれ」
私の席は教卓の前で、木月くんの席は一番右前の窓際の席だった。私は、気づかれないようにそっと彼を見てみた。
彼は、眠たそうな目で先生の森林伐採問題が重視されている頭を睨んでいるようだった。私は、笑わないように、教科書で自分の顔を隠した。
木月くんは、黒板の前でチョークも持たず、ずっと立ったまま問題を見ている。
(・・・分かんないのかな・・・?)
助け舟を出したい、そんな気持ちとは裏腹に胸のドキドキは高鳴るばかり。心の中の葛藤の末、私は・・・。
「・・・ねね、木月くん」
彼に声を掛けていた。
木月くんはゆっくりと振り向き、私を見てきた。
胸の高鳴りは最高潮だ。自分の鼓動しか聞こえない。
私は、出来る限り笑ってみた。
「そこの問題ね、こんな感じに解くんだよ」
自分のノートを差し出し、彼に見せてみた。
彼は「ありがと」と軽く礼を言ったあと、私のノートを取って黒板の問題を解いた。その間中、私は初めて話せた喜びと幸せで、胸がいっぱいだった。
問題を解き終えた後、彼はまた「ありがと」と言ってきた。その言葉がとても嬉しくて。
「どーいたしまして♪」
私は笑って答えました。
そして授業が終わるまでの間、私はまた話したいという気持ちを抑えながら、さっきの幸せを胸いっぱいに感じていた。
授業が終わって聞いたことだけど、木月くんは数学が苦手らしくて、いつも赤点ギリギリなのだそうだ。
木月くんの姿はもう教室には無く、私は廊下へ彼の影を探しに出た。
(木月くんは、っと・・・。)
居た。
私は小走りで彼に近づいていった。
「ねね、木月くん!」
木月くんは眠たそうな目で、こっちを振り向いてきた。
「仲野か。さっきはありがとな」
「ううん。全然大丈夫だよ!」
褒められた・・・。私の胸は、キュンキュン鳴りっぱなしだ。
「木月くんって数学苦手なの?」
先ほど聞いたことを、私は聞いてみた。
「ん・・・、苦手・・・だね」
木月くんは、怪訝そうな顔をした後、照れたようにボソッと言った。その表情が堪りません・・・。その時、私はある一つのアイデアが浮かんだ。
「そっか~・・・そうなのか~・・・」
うん、多分、大丈夫・・・。数分考えた結果、私は某名探偵の決まってやることを木月くんにして、こう言った。
「決めた!」
人差し指を木月くんに向けて―――
「私が数学を教えてあげる!!」
「・・・は?」
――私の恋は、走り出した――
~Φ
あの日から、もう卒業式・・・か。
最後の授業も終わり、みんな木月くんの寝顔をカメラに納めたあと、集合写真を撮りに教室から出て行ってしまった。私はみんなから、木月くんを起してから校門前に来るように言われた。だから、今教室には私と机に突っ伏している木月くんしかいない。
・・・絶対にワザトだ、なんて思う。
私は、そぉっと木月くんに近づき、暖かい陽だまりを浴びている彼の寝顔を覗き込んだ。
(あぁ・・・キレイだなぁ・・・)
あの身体を走り抜けた電撃から3年。私は、あの時のドキドキを今も胸に憶えている。「恭介くん」。彼の名前を呼びながら、肩を揺する。
「・・・ん・・・」
まだ眠たそうな目を擦りながら、木月くんは目を覚ました。
「夕夏か・・・、もう授業おわった?」
「うん、あんまり恭介くんがグッスリ眠ってるから、みんな恭介くんの寝顔を写真で撮ってたよ」
「・・・あとで処刑もんだな・・・」
「あははっ」
私は笑った。
「みんな門で待ってるよ?集合写真撮りたいって」
「ああ、分かった」
そう言って、木月くんはゆっくり立ち上がった。
私より背が高い。私はいつも見上げる形になる。下から見る彼の横顔が、堪らなく好き・・・。
外に出ると、みんなが並んで待っていた。
「木月ー!仲野ー!早く来いー!」
みんなが笑っている。木月くんは、ちょっとだけ嬉しそうに笑っている。
「ほら、恭介くん。行こう?」
そう言って、私は手を差し伸べる。
「あぁ、今行く」
そう言って、彼は私の手を取った。
暖かくて、大きくて・・・。なにより、握り締めてくれて・・・。
私だけの気持ち、キミへだけの気持ち。
ねぇ、キミは気づいてる?
3年間の想いと共に、私は最後の写真を笑って写った。
END