二人の静かな同窓会
同窓会の会場は、駅前広場にある居酒屋だった。
かつて高校生だった頃には、何度も店の前を通りかかったものだが、当時は未成年だから酒など飲めず、入店したことは一度もない。ある意味、憧れのお店だったかもしれない。
そんな居酒屋の二階へ上がっていくと、予約の部屋が見えてきた。詰めれば30人も40人も座れそうな、畳敷きの大広間だ。薄黄色の畳に合わせたのだろう、壁や天井はブラウンの色合いで塗られていて、全体的にシックな雰囲気が感じられた。
今回の同窓会に関して、俺のところに連絡は届いていない。勝手に聞きつけて、押しかけてきたような格好だ。
そのせいか、既に席は全て埋まっていて、空いている座布団は一つもなかった。それでも何とか座れそうなスペースを探し、
「ちょっと失礼」
と一応一言声をかけながら、半ば割り込むようにして、人と人との間に座り込む。
「懐かしいなあ。5年ぶりだろ?」
「ああ、俺が大阪の大学へ行って以来だからな」
「自分なんて今、北海道だぜ。せっかく東京の会社に就職したのに、遠くの支社へ飛ばされて……」
俺の右側では、立派な体格の連中が、近況報告で盛り上がっていた。高校時代は、確かラグビー部で頑張っていたやつらだ。
逆に左側は、華奢な女性たちの集まりになっている。「結婚」とか「婚約」といったキーワードを交えながら、黄色い声でキャーキャー騒いでいた。
いずれにせよ、どちらのグループも俺の存在なんて無視。俺の方でも、自分から彼らに話しかけたりはせず、ただ漠然と会場全体を眺め回していたが……。
「おや? あれは確か、田中だったかな……?」
俺の視線が、部屋の片隅で止まる。
柱にもたれかかるようにして一人、背中を丸めながら座っていたのだ。
特徴的な丸眼鏡に見覚えがあった。高校時代の田中は無口なクラスメートで、俺は一度も喋ったことがないほどだ。
今も彼は誰とも話そうとせず、静かな空間を作り出している。近くを通りかかる者の中には、彼の周りを避けるような歩き方をしている者もいた。完全に無視されているわけでもなく、おそらく半ば無意識のうちだろうが、田中の存在に気づいている者もいるようだ。
「でも、その方が無視より酷いよな」
俺は小声で苦笑しながら立ち上がり、田中の方へと向かった。
「やあ、田中。元気だったか?」
俺が声をかけながら隣に座ると、田中は微妙な表情を浮かべて、小首を傾げてみせた。
肯定にも否定にもなっていないけれど、俺の問いかけは質問ではなく、形式的な挨拶に過ぎない。だから気にしないでおこう。
すぐ隣に誰かいても気にならない性分らしく、俺が来てからも数分くらいの間、田中は黙ったままだった。
彼独特の静かな空間に取り込まれて、ここだけ静かな同窓会だ。でも俺としては、こういうのは「間が持たない」みたいな気分で、心地よくはない。だから改めて、田中に話しかけてみた。
「お前もアレだよな? 俺と同じで、連絡なかったけど勝手に来たクチだろ?」
相変わらず何も言わないが、今度は田中も小さく頷く。
少し気を良くして、さらに俺の口は滑らかになった。
「そうだよな、やっぱり! でも、いざ来てみると、この対応だろ? ちょっと寂しいよな……」
しかし、そんな寂しさを感じていたのは、俺の方だけだったらしい。
田中の表情が変わる。いかにも可笑しいと言わんばかりの笑みを浮かべて、彼は告げるのだった。
「それは仕方ないよ。ほら、僕たち二人はさ、在学中に死んじゃった身だからね」
(「二人の静かな同窓会」完)




