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【短編】ホラー短編シリーズ

二人の静かな同窓会

作者: 烏川 ハル
掲載日:2026/03/31

   

 同窓会の会場は、駅前広場にある居酒屋だった。

 かつて高校生だった頃には、何度も店の前を通りかかったものだが、当時は未成年だから酒など飲めず、入店したことは一度もない。ある意味、憧れのお店だったかもしれない。

 そんな居酒屋の二階へ上がっていくと、予約の部屋が見えてきた。詰めれば30人も40人も座れそうな、畳敷きの大広間だ。薄黄色の畳に合わせたのだろう、壁や天井はブラウンの色合いで塗られていて、全体的にシックな雰囲気が感じられた。


 今回の同窓会に関して、俺のところに連絡は届いていない。勝手に聞きつけて、押しかけてきたような格好だ。

 そのせいか、既に席は全て埋まっていて、()いている座布団は一つもなかった。それでも何とか座れそうなスペースを探し、

「ちょっと失礼」

 と一応一言(ひとこと)声をかけながら、(なか)ば割り込むようにして、人と人との間に座り込む。


「懐かしいなあ。5年ぶりだろ?」

「ああ、俺が大阪の大学へ行って以来だからな」

「自分なんて今、北海道だぜ。せっかく東京の会社に就職したのに、遠くの支社へ飛ばされて……」

 俺の右側では、立派な体格の連中が、近況報告で盛り上がっていた。高校時代は、確かラグビー部で頑張っていたやつらだ。

 逆に左側は、華奢な女性たちの集まりになっている。「結婚」とか「婚約」といったキーワードを交えながら、黄色い声でキャーキャー騒いでいた。

 いずれにせよ、どちらのグループも俺の存在なんて無視。俺の方でも、自分から彼らに話しかけたりはせず、ただ漠然と会場全体を眺め回していたが……。


「おや? あれは確か、田中だったかな……?」

 俺の視線が、部屋の片隅で止まる。

 柱にもたれかかるようにして一人、背中を丸めながら座っていたのだ。

 特徴的な丸眼鏡に見覚えがあった。高校時代の田中は無口なクラスメートで、俺は一度も喋ったことがないほどだ。

 今も彼は誰とも話そうとせず、静かな空間を作り出している。近くを通りかかる者の中には、彼の周りを避けるような歩き方をしている者もいた。完全に無視されているわけでもなく、おそらく(なか)ば無意識のうちだろうが、田中の存在に気づいている者もいるようだ。

「でも、その方が無視より酷いよな」

 俺は小声で苦笑しながら立ち上がり、田中の方へと向かった。


「やあ、田中。元気だったか?」

 俺が声をかけながら隣に座ると、田中は微妙な表情を浮かべて、小首を(かし)げてみせた。

 肯定にも否定にもなっていないけれど、俺の問いかけは質問ではなく、形式的な挨拶に過ぎない。だから気にしないでおこう。

 すぐ隣に誰かいても気にならない性分らしく、俺が来てからも数分くらいの間、田中は黙ったままだった。

 彼独特の静かな空間に取り込まれて、ここだけ静かな同窓会だ。でも俺としては、こういうのは「()が持たない」みたいな気分で、心地よくはない。だから改めて、田中に話しかけてみた。

「お前もアレだよな? 俺と同じで、連絡なかったけど勝手に来たクチだろ?」

 相変わらず何も言わないが、今度は田中も小さく頷く。

 少し気を良くして、さらに俺の口は滑らかになった。

「そうだよな、やっぱり! でも、いざ来てみると、この対応だろ? ちょっと寂しいよな……」


 しかし、そんな寂しさを感じていたのは、俺の方だけだったらしい。

 田中の表情が変わる。いかにも可笑(おか)しいと言わんばかりの笑みを浮かべて、彼は告げるのだった。

「それは仕方ないよ。ほら、僕たち二人はさ、在学中に死んじゃった身だからね」




(「二人の静かな同窓会」完)

   

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