誕生
この物語は飛鳥時代に実際にあった出来事や実在の人物達をモデルに脚色を加えたフィクションであり、人物、宗教、出来事を否定するものや批判するものでは一切ありません。
幾度死を味わったか。
幾度生を受けたか。
彼はもはやそれを覚えていなかった。
いや、意識した事すらないのかも知れない。
魂は形を変えさまよい続ける。
遠くに光が見え、魂が形を変え始めた。
人の形に。
何かを思う前に、彼の意識は光に飲まれ途絶えた。
妻の一人から子を産んだという知らせを受け、中臣鎌足はその寝屋へと足を踏み入れた。
布に横たわる妻、世話人の女。湯の入った桶。
何もかもが普通であったが、世話女は額を床に着け、手を合わせてブツブツと経を口にしながら震えている。
「何があったというのだ」
語気も荒く問うと、妻が震える手で泣き叫ぶ赤子を抱き鎌足に差し出した。
「大人様……、この子の目をご覧下さいまし……」
渡された赤子を見て鎌足は驚愕する。
「な、なんだ、この赤子は!」
その目は金色に輝き、それに見つめられると心の奥底まで射抜かれそうな気にさせられる。
産まれたばかりの、泣いて手足を動かす無力な赤子でしかないのに。
大和と名を付けられたその赤子は、屋敷の奥、訪れる者がいない場所に数人の世話女を付けられ、隠された。
周りには腹の中で死んだと伝え、金色の瞳を持つ不気味な赤子など中臣には無かったのである。
大和を産んだ母はしばしば部屋を訪れ乳を含ませたが、鎌足はそれすらも忌んだ。
母や世話女を除く、大和を見る限られた人は、彼の事を『金目』と呼び蔑んだ。
そして幾年、大和と同じ年に産まれた兄史も、『金目』を侮るようになる。
生まれた時から、中臣大和は忌み子として、跡目である史の影として生きることと定められていたのだった。




