【天使】養殖・第二話(9)
「手指など心やさし」
て、心から楽しげに【神女】は言うた。
「全身の関節をはずしてやるべしそかり。軟体にされたとて、そやつの破格の身体能力ならば陸にあがったタコ以上にふるまえるかもしれぬ」
ここに至って【天使長】、眉尻下げて草地に手えついた。
「すんまへん【神女はん】、わての心得違いでおました……!」
うむ、て【母性の仙女】がうなずき、その髪を重力に逆らわすんをやめる。
扇をふたたび鼻に近づけてた【くしゃみの仙女】も、腕をおろした。
「あーあ、ばり弱い」
て、【関節撃の仙女】が笑い、かかげたトースト色の手のひらを元の抜けるような白色に戻す。
これら三人の【仙女】が退き、自分のかたわらに控えるのを待って、【神女】は草原につくばったままの【天使長】に、
「罰そかり。そこな【準民】の娘どもに知らしめよ。誰がこの『畜人の住まう牧場』の『牧場主』であるかを」
「それは……」
うろたえきった顔あげた【天使長】、「それだけは堪忍しとくれやす、【神女】はん。わての口からはよう言いまへ……」
「汝が告れ!」
大喝した。「それが、吾の汝に課す唯一の償いそかり」
立て、て【神女】に命じられ、【天使長】はのろのろ身を起こし、少女と襟紗鈴へ振り返りよった。
「これ、絶対に言うたらあかんことやねんけど」
心底つらそうにしゃべりだしよった。
「【上位日本】。それがこの一極地方やその他の地域を『標準弁漬け』にして、住民の自由意志を根から奪った『国家内国家』の名前や。……わてはそこから来た」
言うた途端、何かを失うたように顔ゆがめて、
「古くは『内つ国』や『天下』て呼ばれてた場所で、今は近畿とか関西て表記されとるエリアに、その勢力は存在する。古来、この【上位日本】がその前身たる【日下】時代ふくめて、日本ちゅう国のありかたを全部決めてきた。それがええか悪いかは別として」
言葉切って、ふたりの表情をわずかにながめてから、
「【上位日本】の目的はただひとつ、『自己の保身と温存』や。東国の人間の防人化も、幕府による開拓や鎖国も、一極に維新政府を置いたんも、すべてはおのれの安寧安穏を守りつつ、他を動かすために考えられた方策やった。なかでも一極地方は日本最大の平野部、まさに『駒場』にふさわしかったんや。……じょじょにグローバル化および人口増大する世界の歴史の流れの中、『御恩と奉公』や『富国強兵』で動いてくれる『兵力・労働力』がどうしても欲しかったから」(『【天使】養殖・第二話(10)に続)