試練と再挑戦
──先発試験を終えた翌日。
リオは食堂に向かう足取りが重かった。試験の結果は予想通り、失敗だった。
他の生徒たちは次々に試験を通過していき、リオは自分だけが取り残されているような気がしていた。
(やっぱり、まだ無理だったか……)
試験での失敗をどうにか乗り越えたが、心の中でどこかに「足りない」という思いが残る。
それでも、リオには他の誰にも言えない秘密があった。
(《アルカノス》を使ってみる方法は、まだ完全には掴めていない。だけど、少しずつ進んでいる気がする)
リオは《アルカノス》を持っていないふりをしながら、その力を少しずつ試していた。
誰にもバレないように、自分だけで。その秘密を守ることが、今のリオにとっては最も重要なことだった。
食堂の中、カグヤがリオに声をかけてきた。
「リオ、昨日はどうだった?」
リオは少し考え込み、やがて無理に笑顔を作る。
「うん、まあね。ちょっと失敗したけど、次に向けて頑張るよ」
カグヤはリオの表情をじっと見つめるが、特に何も言わずに頷く。
「リオが頑張るって言うなら、きっと大丈夫だろう。でも、無理はしないようにね」
リオはその言葉に感謝しながらも、心の中で少しだけ冷静に答える。
(無理はしないつもりだよ。むしろ、少しずつ確実に力をつけていくつもりだ)
──その日の午後、リオは一人で学園の図書室へ向かう。
試験で失敗した理由は、魔力操作の制御にまだ足りない部分があったからだと感じていた。
だが、試験で使った方法が完全に間違っていたわけではない。
その方法に少しずつ調整を加えながら、リオは《アルカノス》の力を使いこなす方法を探ることに決めた。
リオは図書室にこっそりと入り、目立たないように古い魔導書を手に取った。
その書物には、《アルカノス》に関連する知識はほとんど載っていなかったが、魔力の制御に関する記述がいくつかあった。
(これだ)
リオは書物の中で魔力の流れに関するページを見つけ、それをじっくりと読み込んでいった。
魔力を扱う方法、流れを捉える技術。それらを少しずつ組み合わせていけば、きっと新しい方法が見つかるはずだ。
その後、リオは訓練場に向かい、誰にも見られないようにそっと《アルカノス》を手に取る。
周囲には誰もいない。リオは深呼吸をしてから、魔力を手のひらに集め始めた。
「試行開始──」
その瞬間、リオの周りの空気がわずかに震えた。
魔力がゆっくりと動き始め、リオの手のひらから広がり始める。しかし、制御が不完全だったため、すぐに魔力が暴れ、リオの体を圧迫するような感覚が走った。
(くっ……まだ、ダメだ)
リオは焦らず、冷静に魔力の流れを調整する。
「──もう一度」
静かな集中の中で、リオは再び魔力の流れをつかみ、少しずつ力を引き寄せていった。
手のひらから放たれた魔力は、今度こそ穏やかに、安定した状態で収束し始めた。
「できた……」
リオは小さく呟くと、少し肩の力を抜いた。
まだ完璧には使いこなせていないが、確かに魔力の制御は前よりも上手くいったと感じていた。
(これなら……次の試験には間に合うかもしれない)
リオは再び魔導典を手に取り、今後の練習に備える決意を新たにした。
──翌日、先発試験の結果が発表される。
リオの結果は予想通りだった。彼は選抜試験には進めなかったが、少なくとも他の生徒たちに遅れを取ることはなかった。
しかし、試験の結果を見守る周囲の生徒たちは、リオがどんな方法を使っていたのかを知る由もなかった。
リオはその日、再び魔力の使い方を研究するために、夜遅くまで訓練を続けるのだった。