魔力ゼロの少年、アストレア学園へ
魔力がすべてを決める世界──。
貴族の血も、天性の才も、魔力量の多寡で価値が決まる。
この世界では、「魔法を使えるかどうか」が人間の序列そのものだった。
──そして俺、リオ=ヴァルネスは。
魔力、ゼロ。
スキル、未覚醒。
試験、最下位。
言ってしまえば、学園史上もっとも「落第」に近い少年だった。
◆ ◆ ◆
「……本当に、よくここまで来たわね」
入学式の帰り道、リオは人気のない裏通路を歩いていた。
そこに待ち構えていたのは、整った金髪を風になびかせる美しい少女。アストレア学園の主席入学生、セリア=アルベリオンだった。
「魔力量、ゼロ。入学試験、最下位。学力も平均以下。何の冗談かと思ったけど……本当に君、入学できたのね」
「皮肉を言いに来たのか、セリア様」
リオは苦笑しながら、手を振って歩き去ろうとする。
だが彼女は言った。
「私、興味があるの。君みたいな“無能力者”が、この学園でどこまで生き残れるのか」
「……見物料でも払ってくれれば、面白いショーを見せてやるよ」
◆ ◆ ◆
その日の夜。
寮の屋上でひとり空を見上げながら、リオはポケットから一枚のペンダントを取り出した。
それは亡き父が遺したものだった。
かつて伝説の魔導士と呼ばれながら、ある事件をきっかけに汚名を着せられ、歴史から葬られた男──レオン=ヴァルネス。
「父さん……本当に、俺に力なんてあるのか?」
ペンダントを握りしめた瞬間──。
空間が歪んだ。
――ズガァァァン!!
轟音とともに、リオの足元が崩れ、彼は暗闇に落ちていく。
◆ ◆ ◆
「……ここは、どこだ?」
目覚めた場所は、巨大な魔法陣で満たされた、地下遺跡のような空間だった。
中央に、古びた石碑と、それに埋め込まれた一冊の本がある。
表紙には、誰も知らない言語。
だがなぜか、リオには読めた。
《アルカノス魔導典》──
禁じられ、封印された、世界最古の魔法書。
「おいおい……まさか、これが……!」
リオが手を伸ばした瞬間、本が光を放ち、空間を包み込む。
脳に、魔法式が流れ込む。
血に、力が走る。
そして、何もなかったはずの彼のステータスに──
【スキル:原初魔法《コード=リアクト》】
【魔力:∞(無限)】
と、表示された。
「……ははっ。なんだよこれ……!」
笑うしかなかった。
落第生が、世界を壊す鍵を手に入れた瞬間だった。
◆ ◆ ◆
次の日。
リオはいつも通り、学園の最下位クラスで黙々と雑用をしていた。
だが、彼の背中から放たれる雰囲気は、昨日とは違っていた。
誰も気づかぬうちに、世界のルールを書き換える魔導士が──
静かに目を覚ましたのだった。