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Episode.4 / ようこそアズカナエヴォへ!

町案内回。建造物とか文化とかね、知ろうね

 ノーマンは二人を連れ、エスカレーターで降りている最中に聞く。

「午前は何してた? 」

「色んな部署への挨拶回りをしました」

「会社の福利厚生とか契約? の話とかもしたっすよ」

「なら会社の案内は俺からするまでもないか」

「そっすね。さっき走ってあらかた把握できたっすから」

 チェンは肩をすくめる。

「なら街を案内しよう。お前たち出身は? 」

「アタシら二人ともフナフティから学校に通ってたっすよ」

「フナフティか。海が綺麗な所だ」

「ド田舎っすけどね」

 一階まで降りて大仰なロビーを通り、正面玄関を出る。

 外へ出ると、振り返ってノーマンが本社ビルの中腹を指さす。

「まず、俺たちが勤めるクラフト商会本社ビル。社長が宇宙好きで、宇宙をモチーフにしたデザインになってる」

 ビルの中腹には建築のルールを無視したように円形の穴が開いており、その穴の中央には赤銅色の球体が浮かんでいる。

「あの球体は自転するオブジェだ。社長の魔力で回転してる」

「へぇ」

「凄いっすね」

 三人が歩いて十分ほどで見えてきたのは、この街のシンボルである尖塔。

「ビルの隙間に見えるアレが、聖堂騎士団の本拠点、リヒテン大聖堂だ。騎士団の入団試験とヒーラーの国家試験は年に一回、あそこで開催される」

「ヒーラーはまだ出会ったことすらありません」

「最難関の試験だからな。なんせ数が少ない。毎年四千人ぐらい受けるが、合格者が出ない年のほうが多い」

「ひぃ」

 リヒテン大聖堂を正面から見ると。その威容は堂々たるもので、天然石の噴水を通り過ぎて辿り着く門の左右には、全長十メートルほどの像が構えている。

「あの左の魔法使いの像は先代騎士団長ヒッチコック。二百年団長を務めて、なぜか今も存命してる。右の女性の剣士像が現騎士団長ヨルハ。先代を凌ぐと噂されるほどの実力者だ」

「ん? 二百年? 」

 チェンが重要なことを聞き逃したように首をかしげる。

「騎士団長はその就任と同時に女神から加護を授けられるそうだ。ヒッチコックは不死の加護を受けたとも言われてる。本当かどうかは定かじゃないがな」

「でも、実際にご存命なのでしょう? 」

「あぁ。だからかなり信ぴょう性が高い」

 スズハは唾を飲みこむように先代の像を見上げる。菅笠のような平たいハットを深くかぶり、身長の倍はある錫杖を空へとかざしていた。

 スズハがはっと我にかえると、すでにノーマンとチェンは聖堂を背に歩きだしている。

「あっ、ま、待ってください! 」

 駆け足で追いついた彼女にノーマンが言う。

「ちょっと工房に寄っていく。タクシーをひろうぞ」

 魔法のあるこの世界でも車は存在する。

 ただ。

「すいません、乱気の影響で一帯の車が故障してまして」

 運転手が三人に頭を下げると慌ただしく、事態を収拾しにきた騎士団員のもとへ戻っていく。

「……二人とも、三十分ほど歩くがいいか? 」

「もちろん。大丈夫です」

「アタシも大丈夫っす。散歩は好きっすから」

 道中、ノーマンは愚痴をこぼす。

「乱気も最近いやに増えてきたな。タクシーにまで影響が出てるとは」

「魔法と科学が両立してるのは本来ありえないことなんすよね? そのムジュンが物理法則を乱す現象が乱気って呼ばれてるって学校で習ったっすよ」

「ふふっ。赤点のチェンにしてはよく覚えてるわね」

 チェンはどや顔でピースしてみせる。

「乱気は、規模の大きな魔法を使うとその周囲で起きやすい。そんな魔法が観測されたってニュースもないのに、おかしな話だ」

「不思議ですね」

「っすねぇ」

 オフィス街を抜けると、飲食店や雑居ビルのひしめく通りにさしかかる。

 軒の連なりにひっそりとある隙間を見つけると、ノーマンはその路地へ入っていく。あとにつづく二人はその秘密の雰囲気に、胸を膨らませてついていった。

 室外機と鉄管パイプの森を抜け、すりガラスのはめられたアルミのドアを開ける。

 奥行きのない空間。

「らっしゃい」

 眼と鼻の先にあるカウンター越しに、ガスマスクをつけた青髪の男が挨拶する。

「ガスマスクですか? 」

「手袋デカくない? 」

「何ですか、このニオイは? 」

「青髪? 」

 二人が顔を見合わせ、思い思いの疑問を口にする。

「聞こえてるよ。旦那、なんだいその娘たち」

「俺の部下。新人だ」

「……ブカ? 」

 男はわなわなとガスマスクを外すと、三白眼をありったけに見開いて叫んだ。

「うっそぉオッ! 旦那に部下ぁアッ!? 」

「やかましい」

「いったい、これから何が降るってんダ……店を畳んだほうがいいカ……? 」

「やかましい。二度も言わすな」

「いや、すんませン。青天の霹靂ってのはこういうことを言うんだナって」

「……今度ランサーの装備一式を二人分発注する。こいつらの分だ。準備しておいてくれ」

 青髪の男は、二人を爪先から頭頂部までをまじまじと見つめると、「理解した」とでも言うように頷いてみせた。

「毎度あリ。いつか旦那の剣も作らせてくれヨ」

「機会があればな」

 青髪の彼は後ろに鎮座する傷だらけの作業台をさすり、壁にかけられた工具の数々を見渡して、「待ってますからネ」と言った。

 ノーマンは「ありがとう」とだけ返すと、二人を連れて外へ出る。「おおきニ」という挨拶とともにドアが閉められた。 

 空気を読んで黙っていたチェンがようやく口を開く。

「あのヒトは? 」

「アイツはホイジンガ。武器と防具の小売業者だ。客を一目見ただけで一番合う装備を見繕うことができる。この国五本の指に入る目利きだよ」

「へーっ、でも装備って会社が良いのを買ってくれるんじゃ? 」

「良いものより合うもの。鉄則だ」

「ふーん、なるほど。あ、じゃあじゃあ――」

 そこからチェンの、武器、特に槍に関する質問の雨が始まった。

「――で、アタシの槍の機動力とスズハの盾の防御力を組み合わせた攻防一体の戦術の名前を、チェンとも読める漢字の橙とスズハのスズからとってオレンジ=ベル戦術って名前で運用するのがイカすと思うんすけど」

「あぁ、あぁ、そうだな、そうだな」

 相槌のあまり喉が枯れてきていたノーマンは、彼方を指して話をそらす。

「あの建物が見えるか? 」

 その歴史的なシルエットに、心が躍らない者はいない。

「お……」

「あ、あれ……」

「お城だぁーっ!! 」

 チェンとスズハが跳びあがって声をあげる。二人は手をつなぐと「お城! お城! 」と感動を分かち合った。

「ここはあの城の城下町だ。コンクリートは欠片も使われてない」

 二人が周囲をみると、いつのまにかそこは『エド』を思わせる町並みに様変わりしている。

「教科書で見た町っす……古き良きエドの時代……」

「の、再現だけどな」

「でも嬉しいです。私もチェンも東方の文化が大好きなので」

「見て、あれちょんまげ! 着物! 瓦版! 」

「もう、そんなにはしゃいで」

「気に入ってもらえたようでよかった。あの城は千皇城(せんのうじょう)。剣の流派の一つ、実剣派の総本山だ」

「ジッケン派? 」

「分かりやすく言うと、己が身一つと剣一本で戦う流派だ。魔法も科学も使わずにな」

「……それって強いんすか」と、チェンが極端に声を潜めて聞く。

 ノーマンは辺りを見回して、その実剣派がいないことを確認してから、同じく小さな声で答えた。

「ピンキリ」






――次回へ続く。

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