表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ベンチのヨウジョ

お盆。

それは、不思議な時期。

子どもにとっては、夏休みの終わりがだんだんと見えてきて。でも、まだまだ夏休みで。

大人にとっては、休まる時期かもしれないし、苦痛な時期かもしれないし、想いを馳せる時期かもしれない。

はたまた、何も変わらぬ日々を過ごすかもしれない。

それは不思議が起こる時期。

未だ暑さを感じる今日この頃。

私は散歩をしていた。

近所の公園を何気なく。

何を思ってでもなく、何気なく。

単に外を歩きたかった。

そういえば、最近運動していなかったな。

まだ若いから、健康志向はそれほど高くないと思う。

運動をしていないことの弊害なんかも感じていない。

しかしながら、時の流れは残酷なもの。

いつまでも「若者」なんかではいられない。

でも、今はそんなこと関係ない。

川が流れる公園だった。

夏の暑い日差しと、川のせせらぎ。

意外にも、マリアージュ。

ただ、とにかく暑い。

真夏の快晴は優しくない。

体力がどんどん削られる。

散歩という軽い運動をして、運動不足を思い知らされるなんて。

やはり、日常的に運動はしておくものだ。

何かあった時に、これでは困ってしまう。

例えば、突然幽霊に襲われたりだとか。

まぁ、そんな事は起こり得ないが。

例えば、の話だ。

幽霊なんかは問題じゃなくて、直近の問題はこの暑さだ。

どうにかせねば。

歩いている道を少し逸れて、日陰にある座れる場所を探した。

その間も、鋭い日差しが私を刺し続ける。

暑い。痛い。暑い。

半袖なんかで来るべきではなかった。

川は見えなくなったが、せせらぎは聞こえる。

それでも、風鈴効果はないらしい。

それとも、私が和の趣を忘れたか。

文学的ではなく理科的になったのか。

暑い。

汗を流しながら歩き続けていると、ようやく日陰がある広場が見えた。

確か、あそこに座れる場所があったはず。

橋をくぐって、広場の端の日陰に置かれたベンチを目指す。

四つ置かれたベンチのうち、三つは陽に暖められていた。

そして、残る一つは人に温められていた。

この際、仕方がない。

炎天下に立っているよりか、ましてや炎天下で歩いているよりかは、炎天下に座っている方がマシだろう。

よし、少し座ろう。

出来るだけ日陰を歩きながら、一番近い空きベンチを目指す。

途中、人に温められている日陰のベンチの前を通りかかる。

ふと、座っている人たちと目が合った。

幼い女の子。二人組。黒衣の幼女たち。

児童にとって、ここは夏休みの公園。

何もおかしな事はない。

しかし、ここは休日の公園。

少し、違和感。

幼い女の子が二人だけで座っているのが少し不思議だっただけだ。

何も気にせず、通り過ぎよう。

だけど、違和感はどんどん増幅していく。

どこか様子がおかしい。

あの子たちは大丈夫だろうか。

このままで本当に良いのだろうか。

暑さで回転が鈍くなった、ボーッとする頭が猛回転する。

いや。回転している気がするだけで、逆に止まっていたのだろう。

普段なら絶対にしない奇行に私はでた。

「どうしたんだい、大丈夫?」

声を、かけた。

成人男性が、幼女二人に。

随分と生々しい表現だが、事実をありのままに表現しているのだから仕方がない。

「うん。用があるの」

突然話しかけられたにも関わらず、幼女たちは驚く様子もなく答えた。

「そうなんだ。用があるって、誰かを待っているの?」

何故か私は話を続けた。

幼女たちと目線を合わせるために、わざわざしゃがみこんで。

「うん。お兄さんを」

幸いにも、辺りには誰もいない。

「そっか。お兄ちゃんと来ているんだ」

なんだ。お兄さんと来ていたのか。

良かった。ちゃんと保護者と来ていたのか。姿が見えないだけで。

じゃあ、大丈夫か。

これ以上、話を続けたら流石に怪しい大人になってしまう。

いや、既に怪しい大人か。

否。ここで立ち去るのも危ないのか?

側から見れば、保護者と来ていると分かったから諦めた怪しい大人に見えるのか。

幸い、辺りには誰もいないが。

ええい。深く考えるのは、止そう。

一つ確かなのは、保護者たるその「お兄ちゃん」が戻ってきてしまったら面倒なことになるのは明らかだ。

立ち上がり、その場を去ろうとする私の腕を。

突如、幼女二人の手が私の腕を掴む。

「ううん。違うよ。お兄さんを待ってたの」

辺りには誰もいない。

「えっ?お兄さん……?」

お兄さん。

幼女たちが待っているのは「お兄ちゃん」じゃなくて「お兄さん」だ。

「ん、え?わ、私?」

「うん、そうだよ」

辺りには誰もいない。

どうしようか。

掴まれた手を振り解こうと腕に力を込めてみる。

どうした事だろう、動かない。

幼女たちに遠慮なんてしていない。

あらん限りの力で振り解こうと試みるが、やはり動かない。

あぁ、運動不足のツケが回ってきたのだろうか。

運動不足では何かあった時に、困ってしまう。

まさか、幼女に掴まれて困るだなんて想像もしていなかったが。

私の力が弱いのか。それとも、幼女たちの力が強いのか。

振り解けない。

不幸にも、辺りには誰もいない。

「やめてくれ。離して。誰か、誰か」

現れるはずもない助けを求めて、大声を出してみる。

幼女に腕を掴まれて助けを求めているだなんて。

情けない。

なんと滑稽な。

当の幼女たちは満面の笑みだった。

側から見れば、実に幸せそうな表情。

だが、状況が状況。

私にとっては不気味な笑みでしかない。

誰か。誰か。

音にならない叫びは誰にも届かない。

何が何だか。何が起こったのか。

もう、現実逃避だ。

ここが現実なら。

訳が分からない。

私は、瞳を閉じた。

夏の日差しが、ほのかに瞼を通り抜ける。

決して、暗闇に包まれない。

「その手を離しなさい」

凛とした声と共に、突然私を掴む力が消えた。

ゆっくりと、目を開ける。

辺りには、誰もいない。

誰も、いない。

いや。

見渡してみると、そこには。

少し離れた柳の木。木の下に人影。

「あかね……」

私は、そこにいるはずもない人の名前を呼んだ。

あり得ない。でも、見間違えるはずもない。

いつの間にか、夏の日差しは傾いていた。

黄昏時。

斜陽が確かに、そこに立つ人物を照らしている。

「ダメだよ、もう」

そう微笑んで、私に呟いた。

これは。現実だろうか。いや、夢であっても構わない。

視界が歪む。微笑みがぼやけていく。

待って、待ってくれ。

溢れ出る涙を拭おうと瞬きをした刹那。かつての想いびとの姿はもうそこにはなかった。

白む空。

自らの手で覆い、視界が遮られた世界は暗く、それでも真っ暗闇にはならない。


一体、なんだったのだろうか。


私は、目覚めた。

彼女は二度と迎えることのできない朝。

ボーッとする頭で思う。

夢だったのだろうか。現実だったのだろうか。

そして、今ここは。

いいや。そんな事はどうでも良い。

また、一日が始まる。

そして一年が、始まる。

それだけで、良い。


毎年。

ねむ/NEKOの誕生日には「誕生祭」と称して投稿するようにしていますが。

別に忘れていたわけではないんですが、私の誕生日って大体お盆休みなんですよね。

学生時代は決まって休みだったと記憶している。

学校がないって事は、友人に誕生日を直接祝ってもらう機会がなかったということ。だから、私も他人の誕生日を祝う事はしなかった。

電子ツールで繋がるようになった、今の世の中でも。

それって、友達少ない……。否、いないだけだろって?

その通りだと思います。


作者の悲しいお話はさておき。

「休み」ではなく「お盆」の話に戻りまして。

お盆とは、先祖を家にお迎えして供養する夏の風習であります。

言い換えて、言い換えれば「死者に会えるかもしれない」時期なんですね。

そんな話を、書いた事なかったなって。

などと言いながら、それがきっかけで今作を書き下ろしたわけではないのですが。


さて、今作書き下ろしのきっかけですが。

真面目な話、夜に見た夢です。

不思議な夢を見ますよね。

見た夢を少し脚色して、辻褄合わせて、設定を足して。

そんな感じで書き下ろしました。

そうしましたら、なんと。

「お盆の話」っぽくないか?と思いまして。ちょうど良い。


自称「お盆の話」ということで。読み返してみると。

日本文化、雑に色々と詰め込んでますよね。

風鈴。不気味な少女(幼女)。黄昏(誰ぞ彼)時。そして、柳女。

日本語ならではの言葉遊びなんかも。

例えば、ヨウジョ=幼女(用がある女の子の「用女」)=妖女とか。

黄昏時に姿を見せる思いびと「あかね(茜)」とか。


先に触れた「夢」の中では、「ヨウジョ=用女=モ女=喪女」の連想だったんですけど。

多分、意味がわからないと思うのでもう少し解説すると。

男性が話しかけた、用がある女の子が「喪女」だった。という事です。

うん。「意味分からん」ですよね。

「用」って漢字に「モ」が含まれてるでしょ?含まれているんです!

「モ」の基は「毛」なのは百も承知で、こじつけしてるのは千も理解しています。

私が見た夢ですから!こじつけ・思い込み何でもアリなんです。

ところで、「喪女」とは何なのかというと「恋愛経験がない女性。もてない女→も女→喪女と変化して生まれたネット用語」なのですが。

しかしながら、そもそも「喪」とは「死んだ人の近親者が、一定期間、家にこもったり祝い事や交際をさけたりすること」を指している。だから、私にとって「喪女」って「未亡人」のイメージだったんですよね。

そこから、なんやかんやあって、「恋愛経験がない女」=「幼女」という設定になるわけです。ただ、作中に登場する幼女たちですが、裏設定として兄を亡くしているという設定があります。この幼女たちは、ちゃんと喪に服した「喪女」なんですわ。

たった2,000字ほどの短編だけど、盛り込みたいだけ盛り込んでるね。

一人称視点ゆえ、ですかね。


余談ですが。

残念ながら、わたし自身に今も過去もそして未来も「想いびと」なんていない訳ですが。

夢に「あかね」は登場しているんですよね、ちゃんと。

彼女はおそらく、「黒川」性なのでしょうね。

流行りというか、別作品というか。偉大な作品のかの方です。

流石、見た夢を基に描いた物語って感じです。


何だか。語りすぎですよね。本編より長い後書き……と、いうより解説に近いかな。

に、なってしまった気がしますが。

これにて。


御宝候 ねむ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ