表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくら  作者: 山居中次
3/3

憧れて。

 私は他の子と違った。


 私には家族がいない。


 両親が心中したからだ。


 その時の事を薄っすらと覚えている。


 その日は家族でドライブに出かけていた。街を抜け、山道を車はひたすら走った。両親は終始無言で、フロントガラスの向こうを見つめていた。


『せっかくのお出かけなのに、パパもママも楽しそうじゃないな』


 子供心にそう思った。


 私は後部座席に取り付けられたチャイルドシートに固定されながら、無言で運転席と助手席に座る2人の後ろ姿をただ眺めている。


「ねえ、百合乃だけでも置いていけなかったの?まだ3歳よ。」


 不意に母がそう言葉を父に投げてよこした。


 父が母に言葉を投げ返して、答える。


「仕方ないだろ。僕達が居なければ、百合乃は生きていけないんだ。だから、一緒に逝くしかないんだよ」


「解ってるわよ。だけど」


 そんな風に2人は言い争っていた。2人の声は涙で滲んでいた。


 会話の意味は当時の私には理解できなくて、ただ単に夫婦喧嘩が始まったくらいにしか思っていなかった。


 出先での喧嘩なんてしょっちゅうだった。


 やれ、トイレが長いとか、渋滞にはまったとか、そんなつまらない事で2人はよく喧嘩し、それが飽きると無言になり、そして次の日には何事も無かったかのように、日常を営んでいた。この時も、そんな風に、日常へと私達家族は戻っていけると思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とても印象的な作品紹介だったので、読んでみたくなりました。 時間をかけて温めてこられたお話だったのですね。 美しい一人の女性の人生に影を落とす物語が、どんなふうに物語に響いていくのか気になります。 提…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ