憧れて。
私は他の子と違った。
私には家族がいない。
両親が心中したからだ。
その時の事を薄っすらと覚えている。
その日は家族でドライブに出かけていた。街を抜け、山道を車はひたすら走った。両親は終始無言で、フロントガラスの向こうを見つめていた。
『せっかくのお出かけなのに、パパもママも楽しそうじゃないな』
子供心にそう思った。
私は後部座席に取り付けられたチャイルドシートに固定されながら、無言で運転席と助手席に座る2人の後ろ姿をただ眺めている。
「ねえ、百合乃だけでも置いていけなかったの?まだ3歳よ。」
不意に母がそう言葉を父に投げてよこした。
父が母に言葉を投げ返して、答える。
「仕方ないだろ。僕達が居なければ、百合乃は生きていけないんだ。だから、一緒に逝くしかないんだよ」
「解ってるわよ。だけど」
そんな風に2人は言い争っていた。2人の声は涙で滲んでいた。
会話の意味は当時の私には理解できなくて、ただ単に夫婦喧嘩が始まったくらいにしか思っていなかった。
出先での喧嘩なんてしょっちゅうだった。
やれ、トイレが長いとか、渋滞にはまったとか、そんなつまらない事で2人はよく喧嘩し、それが飽きると無言になり、そして次の日には何事も無かったかのように、日常を営んでいた。この時も、そんな風に、日常へと私達家族は戻っていけると思っていた。