第八十一話「みんなが私に、そう言った」
前回、休日を楽しむ女性陣は、みんなでお風呂に入る事となる。楽しそうにはしゃぐみんなの中で、一人。リーラは不安を抱いていた。
人はなぜ夢を見る?
なぜ目標を持つ?
いずれ訪れる生命の停止に目を瞑り、
何故そこまで生き生きとしている?
「分からない」
なぜ私は産まれてきたのか
誰にも頼んでない
一体誰に、私を産む資格があったのだろう
「分からない」
なぜ、苦痛を感じて死なない?
人生という死への迷宮。
後戻りは出来ない
それでも、みんなは必ず歩む。
「……現実を見ていないから、人は前を向ける」
ふと、笑い声が聞こえた。
声の主は……家族だ。
……いや…
私は"あれ"を……家族と思いたくない…
第八十一話「みんなが私に、そう言った」
私はリーラと言います。
本名、リーラ・アセロラセス
……貴族の家系です。
物語の貴族は、とても傲慢で意地汚く…人を見下すことが多いですが…この世界ではもっとこう…
終わってる……
「……」
こっそり扉を開け、私は彼女を視界に入れる。
首を絞められ、窒息の手前まで弄ばれる。
彼女は私達の…奴隷……ですらない。
「……ゃめ…」
「……?みんな!!聞いたか?!聞いたよな?!…いつ、発言権を与えた?」
「…!!ごめんなさ…」
▶︎[買われた少女]
動揺した彼女の口に、貴族は靴で蹴りこんだ。
「っ?!」
「…だから喋んなって…物分りが悪ぃな…。お前さ?声きめぇけど、見た目はまだ人間に見えるから生かしてやってんのに……」
▶︎[長男]【リゲイト・アセロラセス】
靴を抜くと歯が落ち、血が吹き出る。
それを地面に落とさないように、彼女は痛みを耐えながら手で受け取る。
「……それこぼしたら左目を貰う。汚すなよ?」
嬉しそうに笑った貴族は、彼女の頬を蹴り上げる
「ご…」
「はい汚れた~~……そうだ!俺は寛大だからな…選ばせてやるよ!!」
振り向き棚を漁ると、彼は笑顔で道具を取りだした。
「フォーク、ロウソク、素手。どれが良い?」
「……」
「…黙ったままなら全部でいいか?」
「…」
……口を…動かせないんだ…
何故そこまで、酷い事が出来るのだろう…
「…あの……」
「おお!リーラか!!ちょうどいい所に!今から…」
「…兄様、お父様…今市場に闇市がお越ししております。」
「?!まじ?!今かよ…くそ……父上!!共に参りましょう!!」
「あぁ…すぐに、新しい玩具が必要になりそうだからな…」
地面に伏せる彼女に目もくれず、楽しそうに2人は去った。
恐怖と緊張から解き放たれた彼女は、鮮明に動き始めた痛覚に悶える。
「……回復…いる?それか…死ぬ?」
口を治し、私は彼女に質問した。
「……優しいですね…」
「…どこを見たらそうなるの?」
「…あなたを見てきたから…そう思えます。」
綺麗なトパーズの瞳は、未だ光を失わない。
何故そこまで生きたいと思う?
「…分からない」
「…リーラ様は、他の貴族の方々と本質的に違いますよね。」
「…どうかな。」
「私達買われ物を、人間の様に接してくれる。」
「でも……助ける事が…私には出来ない。」
「…?助けられてますよ?リーラ様のような人が身近にいるから、私は生きる事を辞めないのです。」
「それは…貴方の強さだよ…」
私が特別何かを…してあげた訳じゃない。
「…名前は…ある?」
「……名前…私は昔、リーブと呼ばれました。」
「…リーブ。夢はある?」
「あります。」
「教えて?」
「…いつか……私は、困ってる人を助けれるような強くて、それでいて信頼できる仲間を探して…勇者に……なりたいです。」
「…勇者……」
「大それた願いであると理解しています。でも、心からの…私の夢なのです。」
「…すごいね。」
ほんとに……
彼女は…リーブは…その日兄様に焼かれて殺された
新しい玩具を見つけたらしい。それもレア度の高い[逃亡者]。
「リーラ!!お前も遊びを覚えるべきだ。とりあえず玩具買ってきたから、お前がこいつの世話をしろ。拷問の一つや二つ。身につけろよ?」
「…え?」
突然渡された9才位の少女は、酷く震えながら見上げる。
身体はボロボロで、アザも目立つ。
「…お風呂に入ろっか?」
「…ぇ」
緊張で裏返った声は、か弱く。愛らしいと思った。
私は彼女と、5年間共に過ごす事となる。
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「リーラ様!!ど、どうでしょうか?!」
▶︎[リーラの飼いビト]【エリ】
「うん。似合ってるよ。…あと、様呼び……必要ない」
「私の意思でしています!!」
「…そう……?」
「はい!!」
嬉しそうに回ったエリ。貰ったドレスに身体を包み、ヘアピンを付ける。
「……!!私…こんなに幸せで良いのでしょうか?」
「…嫌だった?」
「いえ?!とんでも?!?!」
「……私が出来ることは……これぐらいだから…」
買われた奴隷は平均5年間遊ばれ、捨てられる。
捨てられた奴隷は労働するか、殺されるか、…また飼われる。
だから私は、彼女に名を与えた。
身なりと知識を与えた。
ここを出て、独り立ちし、そこで初めて…エリは人生のスタートをきる。
「…エリ?約束を覚えてる?」
「はい!!1に!!この国を出る。2に家庭を築く!!最後に……」
「うん。」
「目標を持つ!!私は学校に行って、本を出します!!貴方のような人が居ると、みんなに伝えたい。」
「……それは……貴族のことも書くのかな?」
「…はい」
「…うん。いいと思う。道のりは厳しいよ?」
「任せて下さい!!最大の危機は脱しています。」
「……うん。じゃ、みんなが起きる前に…行ってらっしゃい。お金の件は、私に請求を。遠慮が要らないのは…知ってるでしょ?」
「はい!!行ってきます!!リーラ様!!ほんとに!!…ほんとに……ありがとうございました。」
朝4時。彼女は屋敷を飛び出した。
兄様やお父上には…捨てたと答えた。
私にとって…エリは希望だ。
固定された人生を切り開き、別の人生を歩み始めた。
「…私も…変わらなきゃ……」
このまま貴族の名を背負う事は、私の意思を否定する事になる。私を信じてくれた、信頼してくれたリーブへの…裏切りになる。
「みんなをよりよく助けるためには……救うためには…」
「結婚?どこの家系だ?」
「……?」
隣の部屋から聞こえた声に、私は静かに耳を立てた。
「ここらでは有名な…アストランセス公の娘さんです。正式な結婚では無く、強制結婚ですが…私は彼女を愛しています。」
▶︎[次男]【レキアス・アセロラセス】
……驚いた。
家を早々に離れ、職を手にした兄上がまた帰ってきた事に…
結婚。
やっぱり…家を離れた人は、自らの人生を選ぶ事が出来る。
なら私は……私がするべき事は…
「勇者学校に…入りたいです。」
「…なぜ?」
▶︎[父上]【ヒリップ・アセロラセス】
「それは我々の利益になるのか?」
「……えっと…」
「勇者学校など…勘違いの集まりだろう?そこらの傭兵の方が、知識も経験もある。それに泥臭い戦争になど、脳足らずな馬鹿どもに任せておくべきだ。」
「……貴族の家系から…勇者が出たと言う話もあります。事実上、勇者は国民の希望。利益を欲するのであれば、十分すぎる名誉かと……」
「はぁ…何を言い出すかと思えば……いいか?努力を行い勇者になった貴族は、幼少期から優れた脳を持っていた。言わば才能。お前にそれはあるのか?」
「……えっと…」
「…夢を見るな。現実を見ろ。お前は私の言う通りに動けば、人生は明るい。」
「…でも……」
「自分を信じるな。お前は私より…優秀か?」
「…いえ……」
「…話は終わりだ。部屋に戻れ。……そういえば、次男は結婚をするそうだ。お前にも…そろそろ相手を選ばせてやる。家系を見て判断しろ。それが最善だ。」
「……」
まぁ……こうなるだろうとは…思ってた。
私の人生で…私の意見が通った事なんて……1度もない。
兄上の様に…行動力も無く、父上の様に…経済力も無く、兄様の様に…知識も無い。
ただ…貴族に産まれただけ
もし、貴族じゃなかったら?
エリやリーブの様な子が、貴族だったら?
……私はなんで生きているのか。
「……分からない」
分からない。……分からない
考えを……言語化出来ない。
知識があれば、対話ができる。
経済力があれば、一人で生きていける。
…行動力があれば…夢や目標を決めることが出来る。
街を歩き、ふと……勇者学校の前を通り過ぎた。
もし、私がここに入ったとして……
なにか……特別な事が出来るだろうか?
今と…変われるだろうか。
「でも」
何もしないと言うのは…人形と同じだ。
何も成し得なかったリーブですら、私より人間だった。彼女の夢見た勇者を。エリが掴んだ…人生の岐路を。
私も人である為に…
私がこの世に産まれて、存在している理由を見つける為に。
「……そのために…父上の説得が…必要なんだけどな…」
「……あの?」
ふと、声を掛けられた。振り向き彼に目を向けると、彼は嬉しそうに笑った。
「勇者学校にご興味が?」
「…え……」
…あれ?
「突然すみません。僕、ここの創設者でして…」
「……」
話しかけられてる?…この人は……貴族?知り合い?なんで声を掛けてきた?何か悪いことしたっけ…?
「あの……?」
「えっと……」
「…失礼…あまりこれはしなくないですが…【固定】」
「?!」
「思考が分散していたようなので、余計な情報を固定しました。改めて、勇者学校にご興味が?」
「……はい。」
あれ?
「私は…人生を変えるには、ここに入るしかないと思っていました。…実際悩みに悩んだ末、学校の前まで足を運んだ訳でして……」
私……話せてる…
「なるほど……?こちらは、いつでも歓迎ですよ?なんなら、今から入学するのもありです。」
「そんな急に入れるものなんですか?」
「はい。人生とは、いつも急なものですよ?」
「…なら……」
「勇者学校に入りたいです。」
「はい。でしたら…お名前を。書類は堅苦しいでしょう?良ければ寮も貸しますが?」
「…リーラ……です。寮も借りて…良いですか?」
「もちろん。」
歩き始めた彼の背中は、喜びに満ちていた。
あんなに人生を楽しんでいる人は見た事がない。
「…あの…名前は…?」
「…申し遅れました。僕はゼノと申します。普段はしがない旅人ですが……」
▶︎勇者学校創立者兼旅人【ゼノ】
「はぁ……」
突然の進学と、寮での生活。
こんなにも人生は、突発的だなんて……知らなかった。
「……私の人生は」
ここから……
次回「警告」
全ての道は、決められている。
舗装された街、管理された食材。
なら、自由とは何か?
お金が無限にあっても、決められた娯楽しか楽しめない。
なら、自由とは物ではなく、概念。
「…難しい事考えてます?」
「…ゼノさん。…自由ってなんだと思います?」
「ん~。これまた難題ですね…自由…生活…人生……というより、恐らく今がそうなのでは?」
「…??」
「…発言の自由。想像の自由。知恵無くして、生活は有り得ない。知識無くして、行動は出来ない。自由とは己の意思であると、僕は思います。」
「……難しいですね…」
「ですね。この勇者学校で、自由とは何か…見つける事が出来るといいですね。」
「…はい」
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