第十八話「好奇心」
前回、豆腐ハウスの中でヴァートとアイスは自己紹介をし、交流を深めた。ヘルア、レーチ、ゴード、ミール、リーラ。五人の変わった推薦入学者と共にヴァートとアイスは布団に入る。
「お……。…ーい」
「……?んん…」
「…きろーー。ったく…」
「ん…あと2時間くらい…」
「破壊!」
「うわあぁぁ!!!」
ヴァートの見ていた心地よい夢は突如崩壊した。飛び起きたヴァートは目に入る眩い光に再び目を閉じる。
「なんだ?2時間って…そこは分だろ」
▶︎推薦入学者【ヘルア】
「あ」
耳に入る聴き馴染みのない声。ヴァートはゆっくりと目を開け、目の前の男性に挨拶した。
「……おはようございます…ヘルアさん」
▶︎推薦入学者【ヴァート】
「ん。おはよう」
「…もう…朝ですか…」
「もう朝だ。そして残念な事に新人のヴァートくんには早速仕事を頼みたい」
「…仕事ですか?なんでもやります!」
「うん。流石だ。じゃあまだ寝てるゴードとレーチを起こしてくれ。女性陣はミールがどうにかする。」
「?それだけですか?」
「ああ…俺が起こすと面倒な事になるからな。"それだけ"してくれるだけで助かる」
「了解しました!!」
ヴァートが勢いよく返事をし、ヘルアは外に出る。振り向くと凄い体勢のゴードと真っ直ぐ伸びたレーチが寝ていた。
「……起こすって…?普通に?」
ゴードの肩を叩き、横に揺らしながら話しかける。
「ゴードさん朝になりましたよー。起きて下さい?」
肩に置いていた両腕が突然ゴードに掴まれ、ヴァートは驚き手を離す。
「…!え?」
「…邪魔…」
▶︎推薦入学者【ゴード】
瞬間寝ていたゴードの身体は布団の中で一回転し、ヴァートの身体を足で吹き飛ばした。重い一撃を不意打ちで喰らったヴァートは防御出来ず、豆腐ハウスの入り口に吹き飛ばされ、外に転がる。
「ゴホッ!!ッー……?は、はぁ?」
砂利のついた服を叩き、再び豆腐ハウスに入ると何事もなかったかの様にゴードが寝ていた。
「ごぉぉぉぉぉーーー!!!」
「は?なんだよ今の…」
ヴァートは再びゴードの近くに行く。
「…なるほど…」
肩をもう一度掴み、先ほどより強い力で横に揺らす。そして…
「起きて下さい!!ゴードさん!!」
さっきより大きな声でヴァートは叫んだ。案の定、両腕をゴードは掴もうとするが、ヴァートは逆に両腕を拘束する。
「寝癖が悪いならこれで解決。鬱憤も込めてもっと大きい声で起こすか…」
ヴァートは足も動かない様にゴードの上に体を乗せる。下半身と両腕を拘束した状態で大きく空気を吸い込んだ。
「スーーーーー。!お「チッ…」
「は!?」
叫ぶヴァート。ゴードは寝たまま顔を勢いよく上げ、顔面に頭突きした。衝撃にヴァートの力が一瞬抜け、その一瞬で拘束を抜け出したゴードは立ち上がり、回し蹴りをヴァートの腹に叩き込む。
この間。わずか2秒。
ドカンッ!!!!
「ゴホッ…ゴホッ!!痛ってぇ…」
豆腐ハウスの壁を突き破り、吹き飛ばされたヴァートは体を起こす。顔を上げ、ゴードを見るが彼は再び横になり寝ていた。
「…ヘルアさん…恨みますよ…」
鼻から流れる血に気づく事なく、再び豆腐ハウスに足を踏み入れる。
「先にレーチさんを起こすか…」
ゴードの横をゆっくり通り、レーチの横に座る。肩を突き、小さい声で話しかける。
「レーチさん。朝ですよ…起きて下さい。」
「…ん?……んん。」
「!!レーチさん…起きてーー…」
「………まだ夜だよ…」
▶︎推薦入学者【レーチ】
「いやいや朝になりましたから……?ん?」
突然辺りが真っ暗になり、ヴァートは豆腐ハウスの外を見る。世界を照らす太陽の光。確かにその光は視界に映っていたはずだった。
「は?」
静寂の空。照らす月。暗い森。光る星。これを夜と呼ばずしてなんと呼ぶだろう。数秒まで朝だった外は一瞬にして夜へと姿を変えた。
「…ん?夢…?いや…?…ん??」
寝起きの脳が思考を遅らせる。ヴァートが混乱していると豆腐ハウスに戻ってきたヘルアが一言声を上げた。
「…はぁやっぱりこうなるか…」
「ヘルアさん!」
「いや!良い。ヴァートくんには悪いことをしたな。興味本位だったんだが…」
「ヘルアさん!」
「ん?」
「………(無言の圧)」
「こっわ。」
ため息を吐いたヘルアはゴードとレーチの頭を掴み、小さい声で呟いた。
「崩壊」
第十八話「好奇心」
快晴の空。森を揺らす風。眩い光の下で7人の推薦入学者が賑やかに話していた。
「おはようヴァーくん!(*'▽'*)」
▶︎推薦入学者【ミール】
「おはようございます…ミールさん…」
「ねぇねぇ?( ・∇・)スーちゃんとはどんな関係なのかな?(°▽°)」
「……ごめんなさい…今考える余裕なくて…」
睡眠時間の足りていないヴァートの視界で繰り広げられる情報量の波。
「嫌だ嫌だ嫌だーー!!!」
→起きた直後に[今日戦闘があるかも]と教えられる【レーチ】
「普通に起こせやオッサン!!!」
→キレてる【ゴード】
「うるさっ。何でいつもこうなるんだ…」
→ゴードに胸ぐらを掴まれ、足にレーチがしがみつかれる【ヘルア】
「わ…私が悪いんです…(懺悔)」
→レーチに戦闘の話をしてしまい後悔中の【リーラ】
「ゔぁーと…どこ…?」
→睡眠不足と疲労によるヴァート不足の【アイス】
「……これ…毎日これなの?…」
「そだよ!(*'▽'*)賑やかだねぇ(*´꒳`*)」
「あ…はい…」
「…!!!!」
フラフラしていたアイスの視界にヴァートが映る。アイスはヴァートに向かって走り出し、両手を広げて抱き着こうとする。
「ゔぁーとぉーーー!!」
「スーちゃん!\(*⁰▿⁰*)/」
「あっ…」
アイスの視界に映るヴァート。その目の前にミールが飛び込む。瞬間的にミールがアイスに抱きつき、再び襲う。
「ふぁぁぁあ!!(*⁰▿⁰*)スーちゃん積極的ぃ(*≧∀≦*)」
「あ…ちがっ…」
「布団戻ろうね〜(*´꒳`*)スーちゃん♡\(//∇//)\」
「ちがう〜〜〜〜〜」
アイスは再びミールに誘拐され豆腐ハウスの中に戻った。
「……はぁ…勘弁してくれ…」
これがヴァートとアイスの特別寮1日目。先の見えない不安と疲労。睡眠時間の欠如。声量視界情報量。澄み渡る青空の下でヴァートは大きなため息を吐いた。
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「って事で!今は計七人。興味あるから俺も見学させてもらうよ〜」
▶︎勇者候補[光の勇者]【ライト】
「勝手にしろライト。七人か…これまたキリが悪い」
▶︎勇者候補[魔神の勇者]【カイト】
森を歩くライトとその後ろを歩く薄い青髪の男性。四角い眼鏡をかけており、身長は190cmを越えている。
「…ふぅ」
「ライト?」
「ん?なに?」
「楽しみにしている中悪いが…今日は戦闘訓練はしない。」
「へぇ…何か理由があるのか?戦闘狂でお馴染みの[魔神の勇者]が戦闘訓練をお預けなんて」
「その名で呼ぶな。俺は勇者じゃない。…。理由は簡単だ。人数も揃ってないし、みんなが体力の回復が出来ている訳じゃない。今日は軽い自己紹介と個人の戦闘能力を測るだけだ。」
「…なるほど?」
「…何笑ってるんだ?」
「いや…カイトの"軽い"と"だけ"って言葉。信用できる人居ないだろうなと」
「?そうか。」
「そうだよー」
仲良く喋りながら2人は森を抜ける。ライトは大きな声でみんなを呼ぼうとする。が…
「ん?何があった?」
「…」
壊れた家。
絶望するレーチとリーラ。
地面に倒れるゴード。
上に乗るヘルア。
立ち尽くすヴァート。
元気いっぱいのミール。
布団にうずくまるアイス。
「どけ!!!!!!!!!」
「うるさっ。じゃあ暴れんな」
「この先これが…ずっと…」
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!」
「私が…よ…余計な事…し…しなければ…(後悔)」
「ライトさんだ!(*'▽'*)/」
「わたし…およめにいけない…」
ゴードを拘束していたヘルアはライトに気付くと、急いでライトの元へと走った。
「すいません。ライトさん。気分の良くない物を見せてしまい…そちらの方が?」
「ああ。もう1人の勇者候補だよ。紹介したい。みんな!集まってくれー!あとレーチくん!!今日は戦闘訓練はないらしいぞーー!!」
「え?本当??」
「本当だ。集まれー」
「やったー。?みんな行こう!」
「…戦闘ないのかよ」
「ヴァートくん!」
「はい?!」
「アイスくんも連れてきてー!」
「はい!」
崩れた豆腐ハウスの中に入り、布団にうずくまるアイスに手を差し伸べる。
「ほら、行くぞ?」
「……ゔぁーと?」
「うん。ヴァートだ。」
布団から顔を出したアイスは涙を流しながらヴァートに抱き付く。ヴァートはアイスの髪を撫で落ち着かせようとするが…
「ん?何だこれ?」
アイスの耳から液体が流れている。ヴァートは不審がり尋ねた。
「アイス…?これは??」
「うぅ……。なめられたぁ…」
「……は?」
「みみなめられたぁ〜〜。ミールちゃんに……うぅ……」
「すまん。アイス離れてくれ」
「うぅ……ゔぁーとぉ〜〜。」
離れようとするヴァートをアイスが背中を掴んで離さない。
「離してくれ!要するにこれ唾液だろ?!風呂もまともに入れないこの状態でそれはヤバい!!」
「おふろはいりたいぃ〜〜」
「分かる!気持ちは分かる!だから離してくれ!」
「ぅぅ…うぇ〜〜ん…ゔぁーとが…わたしのこと……きらいになったぁぁ!!!!!!!!!!!」
「好きだ!好き!まじ好きだから!今は離れてくれ!!」
「うそだぁ〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「出て来ない…」
「死んだんじゃね?」
ヴァートとアイスが来るのを待つ五人の同期と二人の勇者候補。
「もうあの二人は後でいいんじゃないですか?」
「ん〜〜〜…そこにいるのにそのままにするのはどうなんだろうか…」
「ライト。この時間は無駄だ。早く本題に進もう。」
「ん〜〜〜。確かにそうだね。みんな!紹介するよ。この愛想の悪い奴は勇者候補の一人。カイトだ。今後俺と同じ先生となる。」
「勇者候補。カイト。宜しく頼む。」
「宜しくお願いします」
「しゃーす」
「身長たかっ!」
「ね〜(*'▽'*)」
「宜しく…です。(簡潔だ…)」
「よし!じゃあみんなも自己紹介を……」
ライトが話を進めようとした時、隣のカイトが話を遮った。
「必要ない。」
「え?」
「…。ライトは知ってるだろ。」
「なるほど?っと!言う事で!早速カイト先生の授業が始まるよ!俺はここで見学だから!あとは宜しくー。…おい…馬鹿な事はすんなよ。」
「分かってる。"軽く"実力を測る"だけ"だ。」
「はぁ…」
ライトは森の木に座り込む。立ち尽くす五人の推薦入学者を前にカイトは一言。みんなに伝えた。
「これから一時間後にお前達と俺で模擬戦を行う。準備しろ」
「「「「へ?」」」」
「???やなんだけど」
「はぁぁぁ。やっぱりか……[魔神の勇者]…まさかこんなにも早く思考が変わるなんて…今期の推薦入学者は優秀だな」
目に映る七人の推薦入学達。彼らが纏う勇者の素質にカイトは好奇心を隠せなかった。
「[記憶]、[破壊]、[気分]、[魅了]、[異常回復]……」
「あの…?カイトさん??模擬戦って…」
「早く準備しろ。俺はお前達に期待している。」
肌に刺さる太陽の熱が五人の肌から消える。
勇者候補。
現段階で勇者と肩を並べる最高戦力の一人が七人の推薦入学者に期待の眼差しを向けている。
果たして彼らは[魔神の勇者]の好奇心を埋める事が出来るのか。
次回「戦略」
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