第十三話 「試練 その1」
前回王国内で目が覚めたヴァートはアイス、ライトと共に王宮に案内される。しかし、案内された所は何もない広場だった。そして[試練]をヴァートとアイスは受ける事になる。
「ヴァート?!」
▶︎白髪の少女【アイス】
空色の空が紫色へ変わる。ライトが消え、気付けばヴァートも居なくなっていた。アイスは冷静に辺りを見渡し、広場中央に浮かんでいる黄色い球体を発見する。
「試練…分かんないけどクリア条件があるのかな?」
(強さの証明。なんだろう…力?心…知恵。)
「ん〜〜!考えても分かんない!!取り敢えず頑張ろ!!」
ブンッ!!
突如広場の中心に浮いていた黄色い球体が光り始め、人の形へと姿を変えた。
「?!」
アイスは右手を現れた赤髪の女性に向け、急いで魔法詠唱を始める。
「アイスフィールド!!」
たちまち半径30メートル程の広場に氷の結晶が降り始める。結晶が落ちた地面は固まり、赤髪の女性へ氷の柱が幾つも伸びた。
「アイスロック!!」
アイスの魔法は赤髪の女性の右腕を吹き飛ばし、左腹部を貫いた。
「……」
▶︎赤髪の女性【???】
「不気味…君。魔王軍だよね?」
「……」
(反応なし。でも…この殺気と気配。空気の重さ。黄色フードのレイちゃんと同じ感じ…)
「言っとくけど手加減しないから」
動かない赤髪の女性にアイスは魔法を発動した。
第十三話「試練 その1」
「魔王軍!!」
▶︎黒髪の少年【ヴァート】
明確な死のイメージ。灰色のフード程の迫力はないが間違いなく緑フード[バン]よりは強い。
「力の証明!そう言う事か!!」
試練の意味を理解したヴァートは青色の髪をした男に警戒する。本気で…殺すつもりで戦わないとこっちが死んでしまう。状況はあの時と同じ。
(相手が魔法でも近接でも…スキルによっては先制攻撃も近接も意味がない。まずはスキルを見極めるしか…)
「はぁ…」
▶︎青髪の男性【???】
「?!」
ため息を吐いた青髪の男は両手で目を押さえ、上を向いて呟いた
「はぁ…だめだ…力の調整がうまくいかない…声が消えて…命が消えて…あぁ!!駄目だぁ!!こんなんじゃ駄目だ…集中だ…今は」
(何だこいつ…!不気味すぎだろ!!俺に気付いてないのか?…一見武器を持ってないように見える…魔法使いか?)
「任務を遂行しなきゃ」
「!」
突如、青髪の男が両手を上に掲げて詠唱を始めた。マナとは違う禍々しい魔力が両手に集まっていく。ヴァートは青髪の男に近づき、剣で両腕を切り落とした。流れ落ちる血液が青髪の男に降り注ぐ。
「あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」
「魔法は撃たせない!」
(次は両足だ…魔法は両手両足でしか出せない!)
ザン!!
ヴァートは流れる様に青髪の男の両足を切り落とした。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
青髪の男は地面に倒れ込み叫び続ける。
「うるさいな!その溢れ出る魔力は!!お前が殺してきた人の命だろ!!」
「違う!!あ"あ"痛い…僕はただ…任務を遂行しただけだ…殺してない!!」
「じゃあ何で魔力を使えるんだ!!魔力はただ人を殺したぐらいじゃ使えない!!何人殺したんだ…!」
「うるさい!!うるさい…うるさいうるさいうるさい!!僕は…!僕は悪くない!!悪くない!!何でだ!!いつもいつもいつもいつも…」
青髪の男は地面に倒れたまま大きな声で叫んだ。
「剣の雨!!」
「?!」
(魔法詠唱?!両手両足を封じたのに発動できるのか??)
「どうせ死ぬなら!!一緒に死のう!」
叫ぶ青髪の男の全てをヴァートは警戒していた。しかし、魔法は発動していない様に見える。
「まさか?!」
咄嗟に切り落とした両手両足も確認したが魔法が発動している様子はない。
(嘘か?それとも魔法の発動条件を知らない?取り敢えず今はこいつを倒して終わらせる!)
ヴァートは剣を握り青髪の男に振り下ろした。
ザンッ!!
「あ"あ"あ"あ"あ"!!」
鈍い音がした。青髪の男は再び叫ぶ。しかし、ヴァートの振り下ろした剣は地面へと落ちた。
「え…」
力が入らない右腕を見るとヴァートの右腕を貫通して青髪の男の体に突き刺さる一本の剣が銀色に輝いていた。
「……!!」
瞬間今まで感じたことの無い痛みが全身に駆け巡る。剣が貫通した右腕から力が抜けていくのが分かる。熱い…痛い…
「ぐっ…!!」
空から降ってきた銀色の剣。ヴァートは咄嗟に顔を上げ空を見る。
「……!!」
二度目の死のイメージ。紫色の空は何百本もの剣で埋め尽くされ、その全てが雨の様に降り注いだ。
「は?」
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「言っとくけど手加減しないから」
動かない赤髪の女性にアイスは魔法を発動する。腹部を貫いていた氷の柱は破裂し、結晶が体を貫いた。
「んぁ…」
「!」
今まで動かなかった赤髪の女性が動き始めた。目を開け辺りを見渡し、自身の体を確認する。
「なんか痛ぇな…」
赤髪の女性は足で氷の柱を叩き割り、アイスを見る。
「えらい可愛い子だな?…氷…属性魔法使いだな?」
「……」
「おいおい!返事くらいしてくれよ…」
赤髪の女性が左脚を後ろに引き、助走をつける。アイスは近接戦闘を警戒し、周囲を魔法で固める。
「アイスロー…」
「殺すぞ」
「?!」
気付けばアイスの目の前には拳があった。咄嗟にガードしようとするが間に合わず、吹き飛ばされる。
ドカンッ!!!
「っ!!」
広場の端。見えない壁にアイスは叩き付けられた。頭に走る痛みと衝撃。アイスは赤髪の女性を見ようとしたが目がぼやけてよく見えない。薄ら見える赤髪の女性は再生した右腕を回しながら近づいて来る。
「お前…本当に女か?」
「…こっちの…セリフ…」
「何でも良いや!取り敢えず任務は遂行する。」
「…任務?」
「ん?ああ。任務だ。とっても簡単な」
再び赤髪の女性は左脚を引き、右腕を構える。
「でも…お前には関係ない」
次の瞬間、放たれた右腕はアイスの氷の壁と心臓を貫いた。
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「っ!!あっ!!!!!」
目を開き咄嗟に身体をアイスは確認した。意識はしっかりしており、痛みや傷も残っていない。ふと右腕を見ると[1]と数字が刻まれていた。
「はぁ…はぁ…」
辺りを見渡すとさっきの広場から変わっていない。広場の中心には先程の黄色い球体が浮かんでいる。
「あの人を倒さないと…出れない…」
消費したマナも元に戻っており、アイスはすぐに魔法詠唱を行った。
「アイスフィールド」
再び広場に氷の結晶が降り注ぐ。この魔法は発動後、時間が経てば経つほどアイスの有利な環境を作ることが出来る。
意外にもアイスの心は折れなかった。死の恐怖より、今の自分を変えたいと願うアイスの思いが体を動かしていた。
「強くなりたい…」
アイスが呟くと黄色の球体が光り、赤髪の女性へと姿を変えた。
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「は?」
空から何百本もの剣がヴァートに降り注ぐ。ヴァートは広場全体を使い最高速度で走った。右腕に刺さったままの剣が動くたびに体に激痛が走る。
「はぁ!はぁ!…無理だろ!!こんなの!!」
走りながら青髪の男に目をやると青髪の男は剣に全身を貫かれたまま動かなくなっていた。
「はぁ!!はぁ!!自滅…魔法…物質を…生成する能力!」
ザンッ!
「グッ!!」
再びヴァートに激痛が襲い始める。貫かれた右脚は地面を踏み切れずヴァートは地面に倒れ込む。
「はぁ!!!はぁ!!!ングッ……」
倒れ込んだヴァートに剣が次々と襲いかかる。左脚。指。肩。腰。
「………ぁ…」
頭。
次回「認識」
魔力とマナの違い
マナ/選ばれた者にしか使えない。スキルや心の強さ、才能によって使える量も変わる。使える魔法は生まれた時に決まる。
魔力/誰でも使えるが条件がある。人を殺した量によって使える魔力が変わる。100人程度では魔力は使えない。使える魔法は魔力を宿した時に選ぶことが出来る。
本編「世代の勇者」に今度登場するキャラクターの短編小説も出して居るので、もし良ければご覧下さい!
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