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003 逃走と武装解禁と開祖と

 待ちに待った最新作のゲーム、

『ワールド オブ ファンタジア』


 おこづかいを貯めて届いたソフトとヘッドギアに期待値はどんどんと高くなり、初めてのログインを果たした。そして見慣れぬ文字。


UPCユニークプレイヤーキャラクター


 自分で始めから作るのも悪くないが、用意されたキャラでプレイするのならば専用のイベントがあるらしい。攻略サイトはアテになら無くはなるが自分だけのストーリーなんて気にならないわけがなかった。そして自分に割り振られたキャラクターは…。



【アイリス・マクレガー】


 どこか見覚えのある美少女だった。自分がこんな美人になるなんてと気分は高まる一方、私で良いのかな?と不安も覚えたが、始めから頑張って作っても上手くキャラクターをデザインする自信はなかった。


(それにスキル持ちっていうのがレアなのか直ぐに手に入るかもわからないんだよね)


 悩んだ結果UPCを選んだ直後に後悔した。




アイリス・マクレガー


 魔道一筋のマクレガー伯爵家の令嬢。

 ダイアリア王国第2王子の新たな婚約者として選出された。

 



「新たなって何!?」


「どうしたのかね?アイリスや」


「!!」


 いつの間にスタートしていたのか、豪奢な屋敷の一室に椅子に座っている自分。その自分を心配そうに見つめる老人。かける言葉が見つからず「…えっと」とその後が続かない。現実離れしていて、それでも夢とは思えないほどにリアルで。まるで小説のような《異世界転生》をしてしまったかのような。

 その時、視界の端に点滅している何か。


(なんだろう、これ)


 点滅の光りに触れたとたんウインドウが開かれた。


『WORLD of FANTASYへようこそ』


 あまりにもリアルな世界にすっかり忘れていたが、ここはゲームの中だ。オープニングのロゴに触れるとホーム画面へと繋がった。


(良かった。現実じゃない)


 ゲーム世界と安心したら、今度は現状が気になった。各種項目のなかに《イベント》の文字を見つけるとタップ。


《オープニングイベント》


《新たな婚約発表と断罪》


(不安しかないよぉぉ!断罪って何!?)


 イベント名をタップすると詳細が表示された。



 《新たな婚約発表と断罪》

 

 世界の覇者を目指す王子ヒトゥルス・ダイアリア。

 王室とその側近が着けた足枷、婚約者マリヴィア・クロムハイトを虚偽の罪で断罪し、新たな婚約者アイリス・マクレガーを引き連れ覇道を目指す。



(…重い。序盤でやるクエストじゃないよ)


 流されるままに進むイベント。開幕から心の折れたアイリスは選択肢らしいものが無いまま婚約発表される会場に到着した。

 既に第2王子は控え室にいるとのことで、会場の案内人に通された部屋へと入ると綺麗な顔をしている青年がいた.。確かにイケメンなのだが、どうも好きになれないと思った。…野心溢れすぎている目が自分を捉えると『ぶるり』と震えた。


「お前か、アイヒムが用意した女は。確かマクレガーの家の者であったな。あの家ならば戦力としては、まあまあ悪くはないか。

 いいか、お前はそこで大人しくしておれ」


 出だしから最悪であった。


(…怖いしかない。綺麗な顔をしてるのかもしれないけど、あの目。…ムリ)


 最初の印象は『冷たい瞳』だった。綺麗な顔のなかにある鮫のような瞳が、より冷たさを濃くしている気がした。

 そんな目に見られたアイリスは今にも泣きたくなった。

 会場まで来てしまった。壇上からは来ている貴族たちの顔がよく見えた。彼らからは自分はどんな風に見えているのだろうか。

 既に婚約者がいる者に寄り添う無知な娘か、略奪者か。いづれもましな評価は一つもないのだろう。そう思うと自分はなぜ、こんなところにいるのだろうか。

 ふと見れば壇上の王子と言い合う令嬢がいた。違和感があるとすれば、その令嬢の周りのテーブルだけ料理が綺麗さっぱり消えていることか。



「この俺、手ずから断罪してやる」


 血の気が引くような冷たい声だった。頭のなかでは『止めなきゃ』と思うが身体は動かない。

 直後、王子は令嬢を突き刺した…ように見えた。令嬢は紙一重でかわしたのだろう、ふらつく身体を必死に建て直そうとしてるように見える。


(あの人がマリヴィアさん)


 言われ無き罪で王子により裁かれる彼女と、略奪者と後ろ指を指されながら駒として利用される自分。どちらが不幸なのだろうかという思いは次の瞬間、木っ端微塵に消し飛んだ。令嬢が王子と切り結んでいるのだ。しかも素手で。その攻防戦はまるでダンスのように軽やかで美しかった。

 気づけば両陣営に別れての乱戦である。怒号と悲鳴が飛び交う戦場を前に、恐怖からか腰を抜かすように座り込んでしまった。


(どうしよう、どうしよう…)


 恐怖で頭が一杯のところへ


「…ねぇアイリスちゃん、あの王子様、好き?」


 声をかけたのはマリヴィア嬢だった。ここまで彼女が近づいてきたことも、言っている意味も始めは分からなかった。

 好き?誰が?誰を?

 思い出すのは冷酷な瞳。その目の前に何も出来ない。怖くて動けない。


「…そこで私から提案です。


一緒に逃げちゃう?」




 逃げる?あの人から?



「…何処へですか?」


 何処にいても追い付かれて捕まり、自分は…。



「私と一緒に、冒険の旅に行こうよ!」



 真っ暗な世界に光が走ったような、冷たい牢獄が砕けたような、そんな気がして…少女はその手をつかんだのだった。




「お嬢様、そこの部屋に一旦隠れましょう!」


 先行する騎士レフトゥスに言われるがままに扉をくぐるマリヴィア嬢。


(…(さら)ってしまったぜ。 王子(アホ)の婚約者) 


 後悔は微塵も無いが『悪いことをしてしまった』感が否めないマリヴィア。そんな後悔も隠れるために入った室内を見た瞬間に消し飛んだ。


「すっご!武器がたくさん!」


「はわわ」


 彼女たちの驚きはもちろん、この場所が武器庫であるため当然なのだが…実はどのようなルートを通るかでも、この部屋に来るのは半ば必然なのだった。そんな彼女たちの前にウインドウが展開される。


『各種武装解禁されました。

 主武装(メインウエポン)副武装(サブウエポン)を選択してください』



「うわ!ビックリした!…装備選択…ねぇ」


 マリヴィアの発言に驚きの声をあげたのはアイリスだった。


「マリヴィア様にもウインドウがでたんですか?!」


「え?」


 護衛2人からは「ここで脱出の準備を整えましょう」とテンプレめいたことを言っている。そこに該当しない自分と彼女、つまり2人は…。


「「マリヴィア様(アイリスちゃん)はプレイヤーだったの?!」」



 

 驚く2人に護衛の会話が届いた。


「おいレフトゥス。お前は出入り口を見てろ。振り返れば…わかってるな?」


「は?なんで?」


「…お嬢様方が着替えるからにきまってるだろぅ!!」


「!!わ、わかった」


 そんな会話を耳にした2人は


「…とりあえず装備を決めちゃおっか?」


「…そうですね」


 しまらないなぁと思いながら武器へと向いた。



・武装解説・


★の数は装備者にとって有利な目安です。


・例   少ない←★→多い

攻撃力    弱←★→強

攻撃速度  遅い←★→速い

重量    重い←★→軽い

スキル補正 軽微←★→大きい


※スキル補正はレベルが高いほど取り回しの易さ、命中精度に補正がかかります。(モーションアシストの影響が大きくなります)



・両手剣(斧)

 攻撃力  ★★★★★

 攻撃速度 ★

 重量   ★

 スキル補正★★★★

 備考

 重い分だけ攻撃力が加算される特性を持つ。ただし、切れ味は別なので重い=強いとは限らない。

(STR(筋力)の分だけ加算される。が、STR(筋力)が不足していると装備できない物がある)


選択可能武器

フランベルジュ

バトルアックス



・片手剣(斧)

 攻撃力  ★★★(+★)

 攻撃速度 ★★★

 重量   ★★

 スキル補正★★★★

 備考

 初心者でもそれなりに戦える武器。STR(筋力)SPD(敏捷)に比例して攻撃力が加算される。


選択可能武器

ミスリル合金製ロングソード

火剣フレイム・ブレード



・両手槍

 攻撃力  ★★★★

 攻撃速度 ★★★

 重量   ★★★

 スキル補正★★★★

 備考

 近接の射程の距離は一番長い。

 STR(筋力)DEX(器用さ)

に比例して攻撃力が加算される。


選択可能武器

クロームランス

アイス・スティンガー


・短剣

 攻撃力  ★★

 攻撃速度 ★★★★★

 重量   ★★★★

 スキル補正★★★

 備考

 一撃で与えるダメージは低いが手数の多さは武器種随一。

(DEX(器用さ)次第では会心ダメージは武器種で一番大きく出す場合がある。)


選択可能武器

ソードブレイカー

マンゴーシュ

ミスリルナイフ


・弓

 攻撃力  ★★★

 攻撃速度 ★★

 重量   ★★★

 スキル補正★★★★

 備考

 STR(筋力)で射程と威力に補正がかかる。離れるほど威力は減衰。

 DEX(器用さ)で命中精度に補正がかかる。(命中精度はモーションアシストをOFFにした場合は影響しない)


選択可能武器

ウイングボウ




・魔導銃

 攻撃力  ★★★★

 攻撃速度 ★★★★★

 重量   ★★

 スキル補正★★★★

 備考

 弾薬を事前に準備しなければならない。

 弾丸の威力は込める魔法(INT(知力)により補正)で決まる。

 DEX(器用さ)で命中精度に補正がかかる。(命中精度はモーションアシストをOFFにした場合は影響しない)



選択可能武器

フリントロック式銃

ブロッケン・ファースト



魔導杖

 攻撃力  ★

 攻撃速度 ★★★

 重量   ★★★

 スキル補正★★★★★

※魔法補正 ★★★★★

 備考

 杖術のスキルが上がりやすくなる。この武器種で止めをさした場合、対象を殺さずに勝利することができる。

 魔法発動に補正をかける。

(各種魔法スキルにより威力増減)




(うーん、細かいようで大雑把な説明だよねコレ。

 ステータスに補正ねぇ。普通ならステータスやスキルに沿った武器を選ぶべきなんだろうけど…私の戦うスキル、剣術の1なんだよね)


 マリヴィアは、いささか気落ちしながらシステムウインドウを開きステータスを出して確認すると。


「…んん???」


 おかしな事になっていた。



・・ステータス・・


【マリヴィア・クロムハイト】


種族 人族(ヒューム)

職業 侯爵令嬢

所属 ダイアリア王国

称号 クロムハイト流拳闘術 開祖 new!

流派 クロムハイト流拳闘術 new!


Lv 1→18


STR(筋力) 5→53

VIT(生命力) 4→49

AGI(敏捷) 6→72

INT(知力) 10→28

DEX(器用さ) 9→55


装備品

シルクドレス

クリマリア・ヒール

エルフェン・ネックレス


ATK(攻撃力)5→80

DEF(防御力)5→50

REG(抵抗力)25→93



獲得スキル


礼儀作法   8/10

ダンス   6/10

刺繍     4/10

魔力制御   3/10

ダイアリア剣術 1/10

クロムハイト流拳闘術 皆伝 new!



(…開祖ってなんぞ??

初っぱなから、えげつないレベルの上がり方してるんですけど!!)


 それに《ダイアリア剣術》と《クロムハイト流拳闘術》。間の《流》はなんなのか気になったマリヴィアは、近くにいたライティアラに聞いてみる事にした。


「ねぇライティアラ。わたしの《ステータス》にダイアリア剣術とあるのだけど、これは《流派》とは違うの?」


 しまった!と思った。相手は《人間》ではなく《NPC》なのだ。分かるわけ無いだろと心のなかでツッコミをいれるマリヴィア。


「《ステータス》…ああ、《神々の恩恵》のことでしたね。

 説明していなくてすみませんでした。

 まずLv(レベル)というのは《魂》の存在値を言います。

 身体を鍛えたり、仕事で成果を出したりで上がることが確認されています。 そのレベルによりSTR(筋力)VIT(生命力)などが上がるようですね。

 そしてお嬢様が疑問に思った《ダイアリア剣術》ですが、厳密に言うと《流派》とは別の物になります。

 一般的に《基礎スキル》と呼ばれるもので、所属する国や団体にて、その武器種を修練することで《スキルレベル》が上がります。そしてレベルが5になって初めて《流派スキル》、いわゆる流派に所属することが出来ます」


 驚きである。きちんと《彼らなりに解釈》をしてからの受け答えがしっかり出来たことを目の当たりにして、驚いたのは自分だけではなかったのだとアイリス嬢の顔を見て思った。


「じゃあさ、私に《クロムハイト流拳闘術》ってのが付いたんだけど…どゆこと?」


「「…は?」」


 驚く護衛2人。思わず後ろを向いたレフトゥスにライティアラの蹴りが炸裂した。


「お前は後ろを向くなと言っただろうが!」


「すみまゲフン!」


 うずくまるレフトゥス。見下すように睨むとマリヴィアへと振り向いたライティアラが答えた。


「…すみませんでした。まずお嬢様に《拳闘術》に関するスキルは無かったのですね?」


「…うん。今も無いよ。変わりに《開祖》ってのが付いてんだけど…」


「「なんですと!!」だからお前はこっちを向くなぁぁ!」


「ごめんなさアヒン!」


 ボコボコにされたレフトゥス。それを一別するとマリヴィアへと尊敬の眼差しを向け。


「素晴らしいですお嬢様。

流派を作り出すことは習得よりも遥かに困難とされています。

 …ああ、そういうことか」


 何かに思い当たったのだろう。ライティアラは考え込んでしまった。


「すみません。作ることが困難とは、どういう事なのですか?」


 興味をそそられたのだろう、アイリスが問いかけ、ライティアラは慌てるように取り繕う。


「大変失礼しました。

まず困難と言われる所以なのですが…

『見習得の武器にて自身より5ランク格上の《存在》と戦い、戦績を残す』

事なのです。もちろん、相手とのレベルの差が大きいほど流派としての強さが変わります。取得条件は他にもあるようですが…。

 今回、お嬢様が相手となった王子ですが…この国でも屈指の『ダイアリア流天剣術のレベル8』なのです」


「ちなみに流派のレベルが2あれば仕官するなら問題ないですよ。

 冒険者なら《流派》を獲得する時点でベテランと見られますからね。

 自慢じゃないですが自分(レフトゥス)はダイアリア流天剣術のレベル5です。

 そしてそこのライティアラはなんと!レベル7なのです」


 ああ、だから王子は護衛2人を抜きさり自分を攻撃できたのか、と思った。だが、それにしてもだ。なぜ自分があそこまで戦えたのか、流派と基礎の術理の違いがいまいち分からなかった。


「マリヴィア様、どうもこういう事らしいですよ」


 見ればウインドウの《テキストモード》なるものを起動させている。何だかんだでシステムを使いこなしつつあるようだ。


「調べてみたところ、こんな感じで…」


『・基礎スキル

 レベルが高いほどモーションアシストが高性能になる。

(動きが機敏になる)


 ・流派スキル

 流派発生時の得点により効果発動。

(攻撃力に加算される)』



「つまり、凄く強くなれて王子も殴り飛ばせる、ってこと?」


「…えーと、はい。だいたいあってます」


 アイリスは目を泳がせながら答えた。マリヴィアは頭悪い答えに納得すると体の装備へと向いた。そして選んだものは…。



【マリヴィア・クロムハイト】


 装備

主武装 ーー

副武装 ソードブレイカー《短剣》


頭 ーー

胴 聖銀の胸当て

腕 聖銀のガントレット

腰 黒虎のベルト

足 聖銀のブーツ


インナー 

 軽綿のワンピース


アクセサリー

 エルフェン・ネックレス

 ーー

 ーー



 主武装はもちろん『無し』で。

腰のベルトには、万が一の為のソードブレイカーを持つことにした。一方アイリスは…。



【アイリス・マクレガー】

 装備

主武装 ブロッケン・ファースト《魔導銃》

副武装 ミスリルナイフ《短剣》


頭 ーー

胴 聖銀糸のローブ

腕 聖銀の腕輪

腰 黒虎のベルト

足 聖銀のブーツ


インナー 

 軽綿のワンピース


アクセサリー

 紅竜石のネックレス

 ーー

 ーー



 装着したガントレットを「…もっとこう…なんとかならないかなぁ」とぶつくさ言いながらも戦闘準備万端なマリヴィアとアイリス。アイリスは付属のカートリッジに魔法を込めていた。


「それではお嬢様方、ここから出れば戦いは避けられないでしょう。準備はよろしいですか?」


 2人は共に頷くと部屋を出たのだった。






ここまで読んでくださりありがとうございました。



本編にのせるか迷ったので補足。


 ~流派の取得条件~

 装備している武器が、流派が見習得であること。

 対戦相手が流派を獲得していること。

 9回以上、攻撃を直撃ていないこと

 10分間、戦闘を継続していること

 相手の攻撃が9回以上、なおかつ相手の攻撃にステータス分の威力が乗っていたこと(手加減を感知した時点で無効になります)』


こんな設定です。

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