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002 婚約破棄から始まるRPG

「入学前に婚約とか…」


 ぼやく惟亜(ありあ)の姿は貴族令嬢のマリヴィア・クロムハイトだった。

 初めて袖を通したドレスの感想より、初めて見上げる西洋風の豪邸より、自身の置かれた[婚約]に頭を抱えていた。


(ま、悩んでてもしゃーない!

嫌ならわざと殺られて作り直すってのもアリだし)


 と思いながらも(刺されたら痛いのかなぁ…)と内心おどおどしながら屋敷の門をくぐる。

 通されたホールでは大きなシャンデリアが室内を照らす。そんなロマン空間をぼーっと見つめる惟亜(ありあ)もといマリヴィアは視線を何気なく下に向けると立食形式に用意されてた料理を見つけた。


(美味しそうだけどゲームだもんね。味なんかしないか)


 そうは思いつつも見た目は美味しそうな料理の数々。近くのテーブルから皿を取りローストビーフをよそうと一口食べる。


(!?!?ウソ!美味しい!!)


 予想外の味覚にかつて父親が熱く語った景色がフラッシュバックした。


『いやー苦労したよ![味覚エンジン]!でもこれがないと[リアル]なんておこがましくて言えないよね!』



「…パパ、ホントに凄いよ。

こっちならいくら食べても太らないじゃん!」


 父親の偉業に感動しながら料理を、その後にはケーキをパクパク食べる貴族令嬢。

 その姿が違和感なく優雅に食べているように見えるのは《モーション・アシスト》と呼ばれるシステムのお陰なのだが。

 見事に景色に溶け込み甘味を心ゆくまで堪能している貴族令嬢マリヴィアは周囲が騒がしくなっていて、皆が一点を見つめていることに気づいた。


(なんだろう?あのカーテン特別なのかな?)


 デザートのフルーツゼリーをほおばりながら、壇上を見ているとカーテンの向こうから煌びやかな男女が出てくるところだった。


(へぇー、アレが例の王子様かな?

後ろの綺麗な()が婚約者と。…あの娘、顔色わるくない?

 …ちょっと待った!私が婚約するんじゃなくてお客さんとしてパーティーに出るって事だった?!

 うわー、勘違い!恥ずかしー!)


 侯爵令嬢の中身が身もだえてる最中、会場に現れた青年は金髪に碧眼でイケメンのザ・王子様!という風体。壇上からは『軍部が~』とか『周辺国が~』とか『かりそめの平和が~』などという単語がちらほら。ようは軍拡して領土を拡大したいと言うことを言いたいのだが平和路線の現国王を真っ向から批判するわけにもいかず、まどろっこしい言い方になっているだけなのだった。


(…魔物がいる世界よね。戦争なんてしてる場合じゃないんじゃない?)


 惟亜(ありあ)の言う通り、盛り上がってるのは一部貴族たちのみで大半は苦笑を浮かべるか困り顔を隠さない上位貴族などだ。この国の騎士団がどれほど精強かは知らないが町を出れば安全とは言いがたい世界である。

 防衛に力をいれ主要都市をカバーするので手一杯な地方貴族たちからすればたまったものではない。


「…そのような情勢の最中、他国に通じる反逆者が出てしまった!」


 どよめく会場、なんちゃって侯爵令嬢はデザートの皿をそろそろ手放すべきなのである。


「マリヴィア・クロムハイト!!

きさまの事だ!!」


 間に合った!惟亜(ありあ)が皿をテーブルに置いた直後である!

 惟亜(ありあ)は自分がマリヴィア・クロムハイトであることを忘れキョトンとしてる。


(…だれ?マリヴィアさーん、呼ばれてますよ)


 キョロキョロを回りを見ると周囲の視線は自分に向いていた。


(あれ…私!?)


 虚空に指をスライドさせメニュー画面を出すとステータスをタップする。出てきた名前は[マリヴィア・クロムハイト]と記載されていた。


(私かーー!スパイ容疑?!どゆこと!?)


 パニクる脳内をよそにマリヴィア・クロムハイトは扇で口許を隠すと王子へ視線を向けた。


「随分な言いがかりですわね。何か証拠があっての発言かしら?『王子殿下』」


 周囲の視線は王子とマリヴィアを言ったり来たり。発言したマリヴィアこと惟亜(ありあ)が一番驚いていた。


(どゆこと!?今たしかに『私今日が初ログインだし!スパイとか知らねぇし!』って言ったと思ったのに)


 出しっぱなしのステータスウインドウに点滅項目を見つけるとすかさずタップ。


『モーションアシスト ON

 イベントアシスト  ON』


(…何ぞこれ??)


『モーションアシスト

 スキルレベルにより挙動を制御、修正する。


例 剣術レベル

実際に剣を振ったことがなくてもレベルにそって挙動を修正』


『イベントアシスト

 発言が役割(ロール)に沿った言葉へと変換される。

※発言内容によって言い方に修正が入ります。

 特定のイベントのみ、適応されます。』


 そんな便利機能の解説を見た後に自分のスキルを確認する。




【マリヴィア・クロムハイト】


種族 人族(ヒューム)

職業 侯爵令嬢

所属 ダイアリア王国



獲得スキル


礼儀作法   8/10

ダンス   6/10

刺繍     4/10

魔力制御   3/10

ダイアリア剣術 1/10




 (うわー、礼儀作法めっちゃ高!。モーションアシストちゃんに期待しよう。


 え?剣術低っく!!

 クソザコじゃないの?ヤバナイ?)


 心のなかでコロコロと変わる心情を一切見せず堂々と王子を見据える侯爵令嬢。モーションアシストの本領発揮だった。

 そんな彼女を面白くなさそうに見下す王子。


「お前がそのような態度に出るのは想定済みだ。俺の『婚約者』として随分と好き勝手に動いてくれたものだな!この間など…」


(ああ、やっぱ私の婚約破棄イベントなんだぁ)


 と、中の惟亜(ありあ)は他人事全開でおもむろにメニューから辞典なる項目を見つけるとタップして開いた。


(やっぱりねぇ。この手の複雑なRPGには有るってお父さんとゆーちゃんも言ってたもんね)


 カーソルを進め知りたい項目までスライドするマリヴィア。指が止まったのは自身の性となるクロムハイト家の項目だった。


【クロムハイト家】


 家格第3位の侯爵を拝する家。

当主マグノリア・クロムハイトは王権派の重鎮であり、危険思想の第2王子ヒトゥルス・ダイアリアの抑止の為に娘であるマリヴィア・クロムハイトを婚約者へと推し、王家も快諾している。


(えー、私の選択権は?コレと死ぬまでとかもはや拷問なんですけど…。あれヒトゥルスって言うんだ)



【ヒトゥルス・ダイアリア】


 ダイアリア王国王位継承権第2位。

 美しい姿形とは裏腹に上昇志向が強く武勇に優れ王国の次期将軍の声も高い精強な戦士。

 ただ、中途半端な視野を持つため世界情勢の危うさよりも己の野心を優先してしまう。


(…ダメダメやん。さて、どーすっかなこの状況)


 ふと見上げれば王子の弁舌は続いていて、ここぞとばかりに何らかの書類を掲げ出した。


「…コレこそが反逆の証!クレセントパーズ宛の手紙に軍備増強など、何故に貴様が要請したか!

 答えは明白、我が王族の首でも狙ったか女狐め!!」


 マリヴィアはこれ見よがしに大きなため息をつくと。


「呆れましたわ王子殿下。

 その手紙にはもう一枚あったはずですわ。その内容を簡潔に申しますなら

『貴国との国境沿いの森にオークの集落を発見しました。』との内容です。魔物の、ましてオークともなれば周辺の村々の被害は甚大なものになるでしょう。ですから情報の共有を果たすために送ったものです。

 それを殿下は私を落とす為だけに差し押さえるなど言語道断ですわ!

 それにクレセントパーズもパールフィアナも友好国ではありませんの。彼らがいるから『アダマンティア大帝国』の進行を抑えられているのではありませんか!

 言いがかりも甚だしいですわね」


(お~マリヴィアちゃん、カッケェ~!)


 自分の発言に感動する奇妙な自画自賛をしている侯爵令嬢。

 そんな残念令嬢とも知らず王子の目は冷ややかなものへと変わり。


「よく回る舌だなマリヴィア・クロムハイト!

 嘘をつくにも何割かの真実を混ぜると現実味を増すというが、今のお前の弁明が最たるものよ。

 大人しく謝罪するなら命だけは助けてやろうと思ったが…」


 王子は令嬢を見据えたまま腰の剣を抜き放った。


「この俺、手ずから断罪してやる」



 会場から悲鳴が上がる。王子の周りの騎士たちは既に臨戦態勢。上位貴族たちの中からは「王子!さすがにやりすぎですぞ!」等と声が上がる。自分の味方もいるらしいと内心安堵する侯爵令嬢は、気づけば2人の騎士が自身を守るために左右から前に出ていた。


「…お嬢様、今は撤退を。

 時間稼ぎはレフトゥスがいたします」


「おいライティアラ。そこは自分が時間を稼ぐじゃねぇのかよ」


「レフトゥス。男として華を持たせてやったのだ。女の私では力不足は否めんからな」


「…ウチ一番の剣士がよく言うぜ」


 軽口を叩きあいながらも5、6人を牽制する2人の騎士。

 突如それは起こった。

 突風さながら1人の剣士が突進してきたのだ。


(速い!!)


 刺突を紙一重で交わすマリヴィア。だが今にも足がもつれ倒れそうになる。


(マリヴィアちゃん頭良いけど運動ダメなヤツだ!

 ってか水の中みたいに身体が重いし!もう良いや!)


 マリヴィアはすかさず開きっぱなしのウインドウのモーションアシストをOFFにする。

 直後、王子の2撃目をかわした。


(突っ込んできたの王子だったんだ!ムカつくけど、さすが次期将軍!だけどね!)


 先程とはうって変わってマリヴィアの動きは洗練されたものへと変わる。王子の剣を弾き、捌きしていく姿に敵の騎士も味方の2人も、周囲の貴族たちすら魅いられたのだ。


「チィッ!ちょこまかと!

『フレイムショット』!」


 残撃が当たらないと見るや距離をおき魔法を発動する王子。

 (飛び道具ずるぅー!)

と脳内で叫ぶマリヴィア嬢。2人の間を割って入り一閃する者、護衛騎士のライティアラ嬢だった。彼女の前にはさらに騎士レフトゥスが立ちふさがる。


「王子殿下、なんの検証もなくの抜剣!

 これは問題ですぞ!」


 言い放つレフトゥスのを賛同するように上位貴族の半数はマリヴィア側へと移動していた。そして王子側にも貴族が集まる。


「殿下に向かい、なんと無礼な!者共!奴らは逆賊ぞ!引っ捕らえろ!」


「王子の傘で蠢く獅子身中の虫どもが!返り討ちにしてくれる!」


 両者にらみ合いからの乱戦である。パーティー会場は瞬く間に戦場へと姿を変えた。


「お嬢様、こちらへ。今のうちです」


 耳打ちするライティアラの言葉を受け会場を後にしようとするマリヴィア。だが、どうしても気になる人物へ視線が向かってしまう。

 王子が引き連れていた令嬢である。


【アイリス・マクレガー】


(アイリスちゃんって言うんだ)


 入ってきた時から青ざめた顔をしていた彼女。よほどおめでたい頭の持ち主でなければ、あんな王子の婚約者なんてやってられないだろう。例えそれがAIだったとしても、放っておくことなんて出来ない。

『自分には関係ない』なんて擦れた大人じゃない!と心のなかで叫ぶと彼女は入り乱れる戦場を縫うように走り抜け、座り込んでしまったアイリス嬢の前に立つ。


「…え?」


 真っ青な顔をして自分を見上げるアイリス嬢。


「…ねぇアイリスちゃん、あの王子様、好き?」


 彼女は言葉の意味が飲み込めないのか、一瞬、呆けた顔をしたが、赤らめるでも怒るわけでもなく…ただ諦めと辛さを混じった顔をした。


「…そこで私から提案です。



一緒に逃げちゃう?」



「…え?」


 アイリス嬢から、初めてまっすぐ見られた気がしたマリヴィア。アイリスはかすれた声で


「…何処へですか?」


 鈴の鳴る声とはよく言ったものだ。顔と同じく可愛らしい声の少女にマリヴィアは堂々と。


「私と一緒に、冒険の旅に行こうよ!」






 





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