9,気になってることを聞いてみた。オークの村(瞬殺)。
4月8日
好評だったポトフを作り、朝食を食べながら昨日の村の様子を教えてもらう。
訪れた客は「卵は無いのか」と言ってきたが、無いと言ったら食事も買わず帰って行ったそうだ。
それからどうにも村人たちからの視線がよそよそしいと言う。
子供たちの間ではそういったことは無く仲良くしているみたいだけれど、それもいつまで続くかな。
私は家族全員に結界を常時張っておくことにした。
これで敵意のある人間は家族に触れることができないし、石を投げられても無傷。
本当は結界魔法は魔力消費が激しくてとても常時展開、しかも複数個なんて到底無理なんだけど、そこは私のとんでもない魔力量と魔力自動回復スキルでなんとかなる。
むしろここまでしても消費し続ける魔力より回復する魔力の方が多いから何の心配も無い。
お金を工面する目処が立ったことを家族に報告。
午前中は話し合いの時間とし、どんな所に住みたいか聞いた。
「宿を続けるなら冒険者の人がたくさん来る町が良いよね」
とお父さん。
「治安が良ければどこでも良いかな?」
と言うのはリオお兄ちゃん。
「俺王都に行ってみたい!」
とアルフィーお兄ちゃん。
「僕も王都に行ってみたいな……すっごく大きい町なんだよね?」
とジョシュアお兄ちゃん。
なら王都に移住かな。
今日は王都の調査に行こう。
家を出た私はノアに変身し、転移で王都に飛んだ。
昨日はちゃんと王都を見て回らなかったので午前中は王都の観光に時間を費やす。
王都自体は凄く栄えているように見えるけど、王都の西側に来たら景色が一変した。
ボロボロの掘立て小屋が並び、貧乏な村人が着ているようなボロ着を纏う人たちが生活しているエリアだ。
ここは……貧民街って感じかな。
本当なら私たちも王都に移住するならこの辺りに居を構えることになるんだろう。
でもお金さえあれば貧民から脱することができる。
路地裏からこちらをジロジロ見てくる嫌な視線に気付き、慌てて元の道に戻った。
ここらは治安が悪そうだ。
ちなみにお城には近付くことすらできなかった。
お城は貴族街と言うエリアの中にあり、貴族街に入るには相応の身分が無いといけないらしい。
ただし中の人に招かれた場合は、一時的な通行書が発行されて平民でも中に入れるそうだ。
冒険者ならAランクあればフリーで通れるそうなので、とりあえず冒険者ランクAを目指してみようかな。
お昼になったので通販スキルで買い物をして、昨日のドラゴン解体場……兵士の修練場まで転移する。
休憩中のグルガさんの姿を見つけて声をかけた。
「おう、ノアか。解体は順調だぞ」
「それは良かった、今日は差し入れに来たんだ。みんなで食べてくれ」
地球で有名なハンバーガー店、エムバーガーのハンバーガーがたくさん入った紙袋を手渡す。
「食い物か、助かる。みんな昼には腹が減るからな。おうい!差し入れが来たぞ!」
解体員たちが手を止めてゾロゾロと近寄って来る。
たくさん買ったから1人2つはありそうだね。
そのまま昼休憩となり、石に腰掛けて一緒にハンバーガーを食べた。
「むう、これはパンに肉が挟んであるのか。しかしこんな柔らかい肉は食べたことがない……何の肉だ?」
「えーと、確か牛肉100%だったかな」
「ギューニク……?ギューという魔物がいるのか?」
「そうじゃなくて、牛のことだ」
「ああ、モウモウかバッファロンのことか」
それって魔物?
もしかしてこの世界には普通の動物はいないのだろうか。
昼休憩中にグルガさんから気になっていた話を聞いた。
まず、魔法を使うのに杖は必要なのか。
必ずしも魔法を行使するのに杖が必要というわけではないが、魔石や宝石をはめ込んだ杖を媒体にすることで魔力の伝導効率が良くなり魔法の威力が上がる。
ギルドマスターの結界を壊すだけの威力の攻撃魔法を杖無しで放つことはあり得ないことなのだと言う。
次に魔法に詠唱は必要なのか。
例外を除いて魔法を行使するのには詠唱が必要になる。
例外とは、【詠唱破棄】スキルを持っている場合。
しかし【詠唱破棄】スキルを持っている者はとても少ない。
それに【詠唱破棄】スキルを持っていてもそもそもの魔力ランクが低かったり魔力量が少なかったりすれば強力な魔法は使えないので宝の持ち腐れとなる。
【聖属性魔法】は希少なのかどうか。
一般的な属性というのは火・水・風。
それより少ないのが土・氷・雷。
それよりもっと少ないのが光・闇。
更に少ないのが聖。つまり希少、ということだ。
それ以外の属性については私からは聞かなかった。
この流れで説明が無いということは聖より更に更に希少ということになる。
最後に、私が放った攻撃魔法の威力について。
例えば杖で威力を増幅させたとして、ファイアードラゴンと同等以上の威力の魔法を放てるのは実力としてはSランク冒険者に値する実力になるらしい。
「買い取りの際にお前さんの冒険者ランクはAかSに飛び級するだろうな。カイザーファイアードラゴンを1人で倒せるだけの実力がある者をGランクで遊ばせておくなんてギルドにとっての多大な損失となる」
ということだった。
まぁランクが上がる分には良いことかな?
確か登録する際に聞いた説明ではSランク冒険者は各地で下位貴族と同等の扱いを受けると聞いた。
あまりお話ししていると作業の邪魔になるので、手頃なところで切り上げて修練場を離れた。
午後からは透明化になって空を飛び、各地を巡って転移で飛べる範囲を増やしていこう。
通販スキルのオーダーメイドで『現在地表示機能つきのこの大陸の地図』を購入。
本当は世界地図にしたかったんだけど、高くて手持ちでは足りなかったので範囲を狭めた。
空を高速で飛び回り、大陸を制覇した。
これでこの大陸の中ならどこへでも転移できる。
転移魔法は『行ったことのある場所及び見たことのある場所』に転移できるのだけれど、高さの判定は結構ガバガバ。
地に足をつけなくてもそこへ訪れたという判定になる。
地図を買ったおかげで手持ちのお金が残り1000ガルになってしまったので、家に帰る前に軽く金策して行こう。
大陸を飛び回った時に見つけたとある場所に向かう。
結構な広範囲に木と草でできた簡易な小屋が密集している場所。
これだけ見るとどこかの集落かと思うけど、ここに住んでいるのは緑色の肌に豚の頭、二足歩行で動く魔物。
【インベントリ】の簡易鑑定機能を使わなくても分かる、あれはオークだ。
ファンタジーでは定番の魔物の1つ。
オークの村ってやつかな、この周辺には村や町なんかが無いからここまで繁殖したんだろうね。
これ、全部頂いちゃっても問題無いよね?
ということでたくさんいるオークたちを村ごと全て収納。
そこは一瞬で更地になった。
まず簡易小屋や中にあった食料類や諸々をまとめて売却。
これは小銭程度にしかならなかったけど、本題は次。
・オーク200×42=8,400ガル
・オークアーチャー220×35=7,700ガル
・オークメイジ250×8=2,000ガル
・ハイオーク1000×30=30,000ガル
・レッドオーク3000×5=15,000ガル
・オークロード100,000×3=300,000ガル
・オークキング500,000×1=500,000ガル
合計で863,100ガルの収入となった。
うんうん、これでしばらく大丈夫だね。
でもオークの村、良い収入源になるなぁ。
もっと無いかな?とりあえず今日はこれで家に帰ろうっと。
しっかりノアからシャノンになって家に転移。
晩ご飯の際、王都まで視察に行ったことを話したらとても驚いていた。
「王都ってそんなに近いのか?」
「いや、ここから王都までは馬車でもかなりの距離があるよ。シャノンは魔法で向かったんだろう?」
「うん。空を飛んで行った」
「空?わぁ、シャノンちゃんすごい……!お空飛べるんだ!」
転移魔法では人も一緒に連れて行けるので、わざわざ王都まで旅しなくても一瞬で王都まで行ける。
だけどそれじゃ風情が無いよね、どうせなら快適馬車とかでのんびり旅しながら行きたい。
せっかく家族みんなでお出かけなんだからさ。ピクニックみたいなものだよね。
4月9日
昨日はオークたちを売却して収入があったので、家族にプレゼントをすることにする。
うちは貧乏なので着ている服は着古されて擦り切れた継ぎ接ぎだらけのボロ着。
だけど王都に行くのにこれじゃあいけない。
同じ物を着ていたのは貧民街の民ぐらいで、普通の区域に住んでいた人たちはもう少しマシな物を着ていた。
「なのでみんなに新しい服を配ります!」
朝食を終えてから宣言する。
「お金は大丈夫なのかい……?」
「大丈夫、昨日纏まった収入があったから」
お父さんは相変わらず私を心配してくれている。
だけど今の私の手持ちはお父さんが蓄えて来たお家のお金の金額より上だ。
「その前に、新品の服に着替えるんだからみんなを綺麗にします。今から【クリーン】の魔法をかけて綺麗にするからね、ちょっと光るけど痛くないし怖くないよ」
一言添えておいて、ここにいる全員に【聖属性魔法】の【クリーン】をかけていく。
くすんだ色だった髪も薄汚れた肌も、着ていた汚れの染み付いた服まで全部綺麗さっぱりになった。
「わ、服まで綺麗になっちゃった」
「買った時より綺麗になったんじゃないか?」
うちが買う服は既に着古された中古の服だからね。
【クリーン】を使えば新品同様に綺麗になる。
だけど継ぎ接ぎや破れた穴、擦り切れた裾なんかはそのままなのでボロ着には変わりない。
「それじゃあ配りまーす」
通販スキルのオーダーメイド機能で各々の体格に合わせた新品の服を購入していき、みんなに3着ずつ配った。
「凄い……!真っ白な服だっ」
とジョシュアお兄ちゃんが言うけど、色的には真っ白ではなくくすんだ白色なんだけどね。
「手触りも良いね。これ何の素材だろう……?」
普通の綿の服のはずだけど。
製造方法が違うのかな?
「全然汚れてないし擦り切れてもない……こんな贅沢良いのかな」
「良いの。これ通販スキルだとそんなに高くないんだよ」
通販スキルではこの世界に存在する物も買うことができる。
それで確認したところ、この世界の新品の服というのは中々に高価だ。
だけどオーダーメイド機能ではこんなにシンプルな染色もしていないただの綿の服1着だと500ガルしかかからない。
なので今回の服の出費は全員分の服を上下で15,000ガルしかかかっていない。
だけど懸念点もある。
卵ぐらいで攻撃してくるような人たちだ、新品の服を着ていたら強奪なんて手段に出て来るかもしれない。
村の人たちに何かされるかもしれないけど、みんなには常に結界を張っているから安全だよ、と話しておいた。
王都に行くなら文字は覚えておかないといけない。
午前中はみんなに文字を教えて過ごした。
村の識字率はとても低く、やっぱりお父さんしか文字の読み書きはできないみたいだった。