表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

8,盲点でした。ワイバーンのお値段は?

 

妙な沈黙がこの場を支配する。

……何を言うのが正解なんだろう。

現にドラゴンでも壊せない結界を一撃で壊してしまったので言い訳ができない。

私が何も答えないでいると、ギルドマスターは深いため息を吐いた。


「分かった、お前が保有していると言うドラゴンの解体を請け負おう。種類は何だ?」


「カイザーファイアードラゴン」


と言うと、部屋の中の時が止まった。

私【時間属性魔法】使ってないけど。


「もう1度聞いて良いか?」


「カイザーファイアードラゴン」


沈黙が流れる。


「念のため聞くが、お前1人で倒したのか?」


「そうだ」


ギルドマスターは天を仰ぐ。


「ドラゴン種の中でも危険度が高いファイアードラゴンというだけではなくまさか皇帝の名を冠する個体とは……いや、しかしこの目で見るまでは全面的に信じることはできない。ともかくお前がドラゴンを倒せる実力があるということは分かった。約束は約束なので明日そのドラゴンを見せてもらおう」


「明日なのか」


「今日中に準備を整えておくからまた明日来い」


「分かった、邪魔したな」


散々押し問答したけど、ようやく話も落ち着いてギルドマスターの部屋を出た。

もうこんな時間かぁ、あんまり遅くなると家族が心配するし家に帰ろうっと。

あ、このままだと驚かれるから……路地裏に入って透明化、【キャラクターチェンジ】でこの姿を解除してシャノンに戻る。

【空間属性魔法】の【転移魔法】で村の家の前までひとっ飛び。

透明化を解除して帰宅っと。ただいまー。




4月7日

ノアにチェンジして王都の冒険者ギルドを訪れた。

受付へ向かうと、ギルドマスターの部屋に通される。


「来たか。確かノアと言ったな。外へ向かうぞ、付いて来い」


有無を言わさず連れて行かれる。

冒険者ギルドの前に馬車が止められており、そこに乗せられた。

ギルドマスターも向かいに座る。

俺たちが乗ったことを確認して、馬車は動き出した。


初めての馬車に最初は興奮したけど、すぐに気持ちが萎える。

サスペンションも無い木と鉄だけの馬車は振動がダイレクトに伝わり、お尻が痛い。

【重力属性魔法】で少しだけ浮くことで振動問題は回避できた。


「今向かっているのは兵士が時々使っている修練場だ。王都から少し離れているため本来の目的ではあまり使われていないが、とても広いために場所を取るなにかをする時に使われることがある。今回は兵士の宿舎の方へ申請を出して場所を貸してもらった」


なるほど、王都に近い場所でドラゴンを出したら騒ぎになるから遠い所で出そうって話ね。

しばらく馬車に揺られ、修練場に着いた。

簡易な柵で区切られているだけのとても広い土の地面だ。

そこにグルガさんを始め解体場で見かけた人たちがいる。


「仕事ができなくなるため全員を連れて来るわけにはいかなかったが、実力のある者たちを連れて来ている。ドラゴンを解体するための道具も揃えているぞ。それ以外の奴らは……まあ、野次馬だ。気にするな」


ああ、あっちのギルド職員の制服を着ている人たちは野次馬ね。

仕事放り出してドラゴンを見に来たのか。


「【土属性魔法】使いに解体台を作らせる。ドラゴンの大きさを教えてくれ」


「分かった」


大きさを示して巨大な台を作ってもらう。

血が何か所かに纏まって流れるように斜面になっていたり溝があったりする物だ。

『ドラゴンの血は一滴も無駄にできないからな』とのこと。

台のあまりの大きさに『本当にこんなに大きいのか?』と疑う声がひそひそと聞こえて来た。

見栄を張ってると思われるのは別に構わない。

だってこれから実物を目にするんだから。


「さぁ、いつでも出してくれて良いぞ」


「分かった」


こくりと頷いて【インベントリ】を開く。

例のドラゴンの死体を選択し、台の上に出現させた。

一瞬にして巨大な台の上に巨大なドラゴンの死体が現れる。

何人かはそのあまりの迫力に腰を抜かして座り込んでいた。


「間違いありません。鑑定の結果、事前に聞いていた通り『カイザーファイアードラゴン』と出ました」


ルーペを持った人がそう言う。

あれって鑑定の魔道具だったりするんだろうか?


「すげー、こんなでっかいドラゴン初めて見た」


「これ本当に死んでるのよね?今にも動き出しそう……」


「1人で倒したんだってよ。でも登録したばかりのGランクらしい」


野次馬の皆さんがガヤガヤと言葉を交わしている。


「確認だがこの素材は売りに出すんだな?」


「ああ。全部買い取ってくれて構わない」


っていうか全部買い取ってもらう気満々で差し出した。

金額がどれだけ膨れ上がるかとっても楽しみ。

だけどギルドマスターの次の言葉に私は驚愕した。


「とんでもない冗談だな、これだけの素材を買い取るだけの金がギルドにあるわけがないだろう」


「えっ?」


1番栄えてる王都のギルドだよね?

ドラゴン1匹買えるだけのお金無いの?


「えっ、とは何だ。まさか本当に全部買い取らせるつもりだったのか?ファイアードラゴン……しかも皇帝の名を冠する個体だぞ?どれだけの値がつくと思ってるんだ。ギルドが所有している金にも限りがある、うちで買い取れる素材はごく一部だけだ」


てっきり全部買い取ってもらえるものだと思ってた。

でも売れば売るだけ買い取ってもらえるのはゲームの世界だけ。

現実は持ってるお金に限りがある。

盲点だった。


「でもドラゴンの素材だぞ、引く手数多ですぐに金は工面できるんじゃないか?」


「あのなあ、良いか?知らないみたいだから教えてやる。希少すぎる素材はほいほい売ることができないんだ。まずうちが買い取った素材の中から1番希少な物を王家に献上する。次に価値のある物を公爵家に献上、その次に価値のある物を侯爵家に献上。それ以外の素材はオークションに出品され、それを購入できるだけの資産がある者だけが購入できる。この個体の素材が希少で高価すぎるんだよ」


なんてこった。


「おーい、そろそろ解体を始めてくれ!ああ、解体員と護衛以外はさっさと帰って業務に戻れよ!」


ギルドマスターの呼びかけでみんなゾロゾロと動き出す。

アテが外れた私はどうしようと考えながら馬車に乗った。


「ちなみに全部でどのくらいの金額になりそうなんだ?」


「それは全部解体してみて素材の状態を確認せんと分からん。大きさ、色艶、損傷具合。外傷が無いように見えても内部が傷付いている場合もあるからな、その場合は素材の価値は大きく下がる」


うーん、まだ分からないのか。

せっかく良いお金稼ぎができると思ったのに、まさか希少すぎて売れないなんて思わなかった。


「どうした、大金が必要なのか?」


私が難しい顔をしているのが分かったのか、ギルドマスターが聞いてきた。


「5月に入るまでに纏まった金が必要なんだ。てっきり全部買い取ってもらえると思っていたから他にも金策が必要かもしれない」


「そうか。ドラゴンの血と臓器は薬師ギルドが欲しがるから売ってやると良い。あそこは欲しい物には金に糸目をつけないからな」


「ああ、別に買い取ってもらうのは冒険者ギルドじゃなくて良いのか」


「本当なら魔物の素材は冒険者ギルドの専売で他所に持って行かれると困るんだがな、今回は物が物だから目を瞑る。血と臓器は薬師ギルド、爪や牙や鱗は鍛冶師ギルド、皮は革細工ギルド、肉は金持ちなら誰でも欲しがる。まあお前から売り込みに行かなくても向こうから売ってくれと押しかけてくるだろう。だが貴族に売るより値段は下がることは覚えておけよ」


「貴族に売る伝手が無いから別に構わない」


それに幾分か安くなるとは言え売却機能があるから素材を持て余してしまうことはない。

全部売却してしまえばお金は手に入る。


王都に着いた。

あれだけ大きな物を解体するのに1週間はかかるので、1週間後にギルドに来てくれと言われてギルドマスターと別れた。


さて、まだ昼にもなっていないので働こう。

とは言っても今のところ私がお金を稼げる手段は価値のありそうな物を売却機能で売却する、ということだけ。

相場より安くなるとは言えスキルでの売却ならお金が足りなくて買い取り拒否なんてことも無いと思う。

ドラゴンでももう1匹狩れたら次は全部売却機能で売ってしまおう。


私は透明化で姿を消して上空へ飛び立った。

王都周辺にドラゴンなんていないだろうからてきとうな方向へ飛んで行く。

空でも飛んでたら見つけるのが楽なんだけど、空を飛んでいるのは鳥型の魔物と……あれは何だろう、プテラノドンみたいなのが群れで飛んでる。

あれも魔物だよね。こっちに近付いて来る前に全部収納して売却機能で見てみる。

あ、ワイバーンって言うんだ。どれどれ、売却価格は……1匹丸ごとで320万ガル。

うーん、大金なんだけど1度カイザーファイアードラゴンの売却価格を確認してしまっているから見劣りしてしまう。

感覚が麻痺してるなぁ。


それにこの売却機能、相場からどのぐらいマイナスされた金額なのかも把握できていない。

少なくともワイバーン1匹は320万ガルより高い金額ってことだよね。

そう考えると売却機能で売却してしまうのはとてももったいない。

でもなぁ、王都の冒険者ギルドではドラゴンの素材も充分に買い取ってもらえない可能性もあるのにワイバーンもなんて余裕が無いだろう。


あ、それなら他の冒険者ギルドに持ち込めば良いんじゃない?

そうと決まれば1度地面に降りてカイザーファイアードラゴンを倒した時と同じ方法で全てのワイバーンを処理する。


一旦王都の上空に戻って、その隣の大きな町に降り立つ。

透明化を解除して冒険者ギルドに入った。

冒険者ギルドは王都のギルドとあんまり変わり無いね。

受付へ直行してギルドカードを提示する。


「魔物を買い取ってもらいたい」


「はいはい、素材なら買い取りカウンター、丸ごとなら解体場へ持って行って」


ここのギルドの受付は結構ぶっきらぼうだな。

日本では考えられない接客だけど、異世界だもんね。

解体場へ向かうと、頭がつるつるのムキムキマッチョが出迎えてくれた。


「おう!物は何だ?」


「ワイバーン」


「ほう!お前さん見ない顔だが、Aランクか?」


「いや、登録したばかりのGランクだ」


「ガハハ!Gランクと来たか。将来有望な冒険者が現れたもんだ!」


豪快に笑うマッチョは人当たりが良い感じだ。


「それならこっちの大きい台の上に出してくれ。収納持ちだろう?」


「ああ」


言われた通り台の上にワイバーンを1匹だけ出す。


「うむ!小柄な個体だが状態はすこぶる良いな。はぐれとでも遭遇したか?」


「いや、群れだった。他にあと19体いる」


「なんと!お前さん1人で倒したのか?」


「そうだ」


「ガハハハ!そりゃ凄い!ワイバーンの群れと言えばAランク冒険者が3チームいても半数は死ぬレベルの脅威度だ。町の近くに出現すればその町の壊滅は免れん。町が襲われる前に討伐してくれたこと、ギルドを代表して礼を言うぞ!」


全く疑われないっていうのもむず痒いね。


「それで、何匹買い取りに出すんだ?ちなみに全部は無理だぞ、金が足りん」


げっ、そうなのか。


「何匹なら買い取れるんだ?」


「そうだな、ギルドマスターとの話し合い次第だが……恐らく10匹は買い取れるだろう。金額は素材の状態にもよるが、1匹1000万としても1億にはなるか。だがそれは最大限買い取るという話になったらの話で、話し合いによってはもう少し少なくなるかもしれん」


だいたい1億弱ね。良いんじゃないかな。

言質は取った、これで一気にお金持ち!

日本の感覚で言えば1億あれば豪邸が買えるし、土地代だけならもっと安く買える。

異世界の土地代っていうのがどれぐらいか分からないけど、1億あれば大丈夫なんじゃないかな?


ともかくワイバーン10体を預けると、広い解体場が埋まってしまった。


「解体と査定に時間がかかる。そうだな、3日後にまた来てくれ」


「分かった、よろしく頼む」


ドラゴンが1週間後で、ワイバーンが3日後ね。

覚えておかないと。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ