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5,初めての戦闘。村人からの敵意。

 

「次は私がやるから、見てて」


「分かった。でも危ないと思ったら手を出すからね?」


お父さんの許可も得たので魔物を探して歩く。

今日の目的は魔物を狩って売却することだから私が狩らないとね。

しばらく探していると、一抱えほどのあるウサギを遠くの方に見つけた。


「ビッグラビットだ。警戒心が強くて姿を見られたら逃げられてしまうよ」


「分かった」


姿を晒す必要は無い。

遠くから【氷属性】の魔法を使って……宙に氷の槍が生成され、ウサギの首を貫いた。

一撃必殺。


私の魔法を初めて見たお父さんは口を開けて驚いていた。


「凄い……ちゃんとした攻撃魔法だ。さすが大魔導師のジョブを持つだけある……」


遠くにいるままウサギを収納。

これで終わり。

初めての狩りは驚くほどすんなりいけた。

でも油断はしない。

今のウサギが弱かっただけかもしれない。


慎重になりつつもサクサク魔物を狩っていき、ついでにお金になりそうな森の恵みも採取していく。

結構な収穫があったので、お昼過ぎには家に帰ることにした。


村に着くと、嫌に村人たちが私たちを見ていることに気が付いた。

村人の1人が駆け寄って来る。


「や、やぁアルバード。森に行ってたのか?」


「ああ、狩りに行っていたよ」


お父さんの背負子にはお父さんが倒した狼が2匹入っている。

午前中の狩りの成果としては充分だろう。


「ああ、狩りな。その、今日は卵は採れたのか?」


「いや、今日は卵は無いよ。そう毎日採れる物でもないしね」


「そうだよな……いや、それなら良いんだ。また今度一緒に狩り行こうぜ」


その村人はすぐに去って行ったけど、またすぐに他の村人に話しかけられる。

よく話を聞いてみると、みんな卵について言及していた。

人によっては直接的に卵の在り処を聞いてくる人もいた。

不審に思ってお父さんが問い詰めてみると、どうやら村長が村中に『アルバードから卵の在り処を聞き出して村長に教えた者は村の顔役の1人にする』と言って回ったらしい。

あのお爺さん、そんなに金儲けがしたいのか。


村人たちの追及をかいくぐり家に戻ると、泣いているジョシュアお兄ちゃんをリオお兄ちゃんが慰めていた。


「どうしたんだ、怪我をしたのかい?」


「ううん、そうじゃないんだ。実は……」


村人が何人か尋ねて来て、ジョシュアお兄ちゃんにこう言ったそうだ。

『お前の父親が卵が採れる場所を隠しているせいでお前たち家族全員が嫌われて村から追い出される。村から追い出されたら力の無いお前たちはすぐに全員死んでしまう。それが嫌ならお前の父親から卵の場所を聞いてこい』。

まだ8歳のジョシュアお兄ちゃんはそれを真に受け、みんな死んじゃう!と不安になったそうだ。


私は再度怒りが湧いてきた。

幼気な子供に不安を植え付け泣かせるなんて。

それが大人のやることか!


「大丈夫、みんな死なない」


ジョシュアお兄ちゃんに抱き着く。

本当は包み込むように抱きしめてなでなでしてあげたいけど、私の方が小さいので胴に抱き着くことになった。


「今日一緒に狩りに行ったけど、お父さん強いんだよ。それに私だって強い。たくさん魔物倒して来たんだから。村を出ることになってもみんな死なないよ」


「ぐすっ……ほんと……?みんな死んじゃわない?」


「うん。例え村中の人たちが敵になっても私がみんなを守る。大魔導師って凄いんだから。見て?」


【光属性魔法】で光る兎を作り、ぴょんぴょんと辺りを飛び回らせる。

【水属性魔法】でヒラヒラ舞う蝶を作り、【植物属性魔法】で花を咲かせた。

一気に食堂がファンシーなお花畑になって、ジョシュアお兄ちゃんの顔に笑顔が咲いた。

うんうん、子供は笑顔が1番だよ。


しかし解せない。

もはや村長だけではなく村の人たちのほとんどが私たちの敵だ。

そんな状況でこの村に居座る意味があるのか?

私はこの村に特に思い入れはない。

歳の近い仲の良い子もいなかったし、今は亡き母との思い出も無いためこの村に定住する理由は無い。


でもみんなはどうなんだろう。

確かリオお兄ちゃんは良い感じの仲の女の子がいたはずだし、アルフィーお兄ちゃんも村の子供たちとは仲が良い。

お父さんだって昔は町にいたそうだけど長年この村に住んでいて愛着もあるだろうし、お母さんとの思い出もあるだろう。

私だけの都合で村を出ようなんて言うわけにもいかないよね。


しばらく魔法で遊んでから、お父さんが狩って来た狼を解体してお肉にして夕飯にする。

お肉を焼く際、ある物を買って差し出した。

塩胡椒だ。220円。

胡椒だけで使うより私はこっちの方が好き。


これは塩と胡椒をブレンドさせた物だと言うと、お父さんがびっくりしていた。

どうやら胡椒もお高い物らしい。

それでお肉を焼くと、いつもの獣臭いお肉から臭みが和らぎ胡椒の風味がプラスされ格段に美味しくなった。


ご飯が終わると、今日の成果を計算する時間だ。

【インベントリ】に収納されている魔物の死体を1つずつ【異世界通販】の売却機能で売却していく。

最初にメッセージが表示された。

どうやらこの売却機能ではこの機能独自の計算方法で金額が決まるため、こっちの世界の相場とは異なる金額になるそうだ。

基本的には相場より安く売却することになるらしい。


売った物は

・ビッグラビット100ガル×3=300ガル

・ウルフ90ガル×4=360ガル

・ゴブリン30ガル×5=150ガル

・タラッポ(山菜)10ガル×6=60ガル

・コシアブラ(山菜)10ガル×3=30ガル

・ふきのとう(山菜)10ガル×11=110ガル

・ムラサキシイタケ100ガル×2=200ガル


合計で1210ガルの収入。

思っていたより売却金額が低い。

だけど今回売った魔物は全て初心者でも倒せるぐらいに弱い魔物なので、そもそもの値段が安いらしい。

午前中だけで1000ガル以上稼げるなんて凄いとお父さんは言ってくれるけど、個人的にはこれじゃあ安すぎる。

家族全員を養うには足りない。

そして何より私のスイーツ代が足りない。


今回は森の中でも弱い魔物しかいない場所にしか行けなかったけど、次からもっと奥へ行ってみよう。

恒例のチミリチョコをみんなで食べた。

いつかみんなでケーキバイキングとかしたいね。


お兄ちゃんたちが自室へ向かった後、私は残ってお父さんと話し合った。


「近いうちにみんなで村から出たいの。今の環境はみんなにとって良くない」


「……それはお父さんも考えた。だけど実行するには現実的じゃないよね」


そう、問題がいくつかある。

まずはこの持ち家をどうするか。

私はお母さんとの思い出は無いけど、他の兄弟やお父さんにはこの家で過ごしたお母さんとの思い出がある。

だけどこれは解決できる。

家の敷地の土ごと【インベントリ】に収納して持ち歩いてしまえば良いんだ。

そうすれば家を捨てなくても良い。


次にお金の問題。

他の町に移り住むとしたら、土地を買うお金が必要だ。

移動している間の食費もかかる。

お父さんがどれだけ貯金しているか聞いてみたけど、とても土地を買えるだけのお金は無かった。

でもこれは私が強い魔物を狩りまくって売却しまくれば多分貯まる。

自重しなければ良いだけの話だ。


人間関係の再構築。

これは私には関係の無い話だけど、他のみんなは他の町に移り住むと1から人間関係を築かないといけない。

結構大変なことだ。


全員で村の外に出る、つまり魔物が生息する場所を突っ切ることになる安全性の問題。

これは私が全員まとめて結界を張ってしまえば良いので解決。


移動手段の問題。

乗合馬車が来るのは半年に1度だ。

4月の頭に来たばかりなのであと半年は来ない。

うちは馬車を持っていないので歩きで他の町に向かうことになる。

大人なお父さんやリオお兄ちゃんなら長時間歩き続けられるだろうけど、他の兄弟や私は厳しい。

これに関しては魔法でどうにかできるんじゃないかな。

例えば空を飛んで行くとか?


こうして考えてみると人間関係の再構築以外は私がなんとかできる問題だと思う。

それをお父さんと話し合った。

お父さんは小さな私に負担を強いることが心苦しいみたいだけれど、このまま村八分になっても村に居座るよりは新たに住む場所を探す方が良いと判断したみたい。


だけど決定するのはみんなと話し合ってから。

この村から離れたくない、仲の良い友達と離れたくないという兄弟が1人でもいるならばそれを尊重して強硬はしない。


すっかり夜も更けたので、自分に【聖属性魔法】の【クリーン】魔法をかけてベッドに潜る。

これ便利なんだよね、体を拭かなくても一瞬で綺麗になるし。

しかもこれ、上手く使えばトイレに行かなくても良い。

こう、体内のそれを排除するイメージで自分に【クリーン】をかければ良い。


もし兄弟の誰かがこの村から離れたくないと言っても、この村の中で幸せになる方法を考えながら眠りについた。



4月6日

早起きして自分に【クリーン】をかけて身支度を整えた私は厨房へ向かった。

今日の朝ご飯は私が作るのだ。

せっかく手持ちのお金が6000ガル以上あるので、景気づけに何か美味しい物を食べよう。


必要な材料を購入して調理開始。

まず鍋に油を敷いて切ったしゃがいもやニンジン、玉ねぎを炒める。

それから水を加えてひと煮たちさせ、ウインナーとコンソメを入れて塩胡椒で味を調える。

野菜が柔らかくなるまで煮たら完成、お手軽ポトフ。


これに日本で売ってるパンを合わせる。

36個入りで460円という最強コスパのロールパン。

うちで普段食べている黒パンなんかより比べ物にならないぐらいふわふわで、小麦の香りとバターの香りがたまらなく美味しい一品。


デザートにりんごをウサギに切った物を用意。

これで全員分の朝食が完成した。

テーブルへ配膳していると、ちらほらとみんな起きて来た。


「今日はシャノンが作ってくれたのかい?ありがとう」


「良い匂い!早く食べようぜ!」


お祈りもそこそこにスープに口をつける。

うんうん、味見したから味は分かってたけど、美味しいね。

コンソメの素は本当に世紀の発明だと思う。


「な、なんだこれ!美味しいーっ!」


「野菜がごろごろ入ってる……それに野菜自体も甘みがあって美味しいね」


「食べたことない味だ……シャノンちゃんすごい」


「パンもとんでもなくふわふわだ……これ白パンだよね?こんなのお貴族様しか食べられないはずなんだけど……」


相変わらずお父さんは困惑しているけど、朝食は大成功。

スープもたくさん作ったしパンも残っているのでこれは明日の朝食に回す。

私の【インベントリ】は時間停止なので鍋ごとしまっておけば次に出した時も暖かいままのスープがすぐに飲める。


朝食が終わると、昨日お父さんと話し合ったことを兄弟たちに共有した。

村から離れるということに不安を覚える人が1人はいるかと思ったけど、結構みんな前向きな反応だった。


「新しい町に行けば生活もお仕事も全部新しくしなくちゃいけないんだよ。友達とも会えなくなる。みんなはそれで大丈夫なのかい?」


「現状を考えたら自主的に村から出るのは悪くないと僕は思う。それに新しいことを覚えるのは楽しいしね」


冷静に現状を考えることができているリオお兄ちゃん。


「友達と会えなくなるのは寂しいけどさ、家族みんな一緒なんだったら俺は別にこの村じゃなくても良いや」


家族想いのアルフィーお兄ちゃん。


「このままここにいたらみんないじめられちゃうんでしょ?誰も意地悪しない場所に行きたいな……」


幼いながらに話を理解して肯定するジョシュアお兄ちゃん。


みんな遠慮しているのかもしれないけれど、誰も反対しなかった。

だけど今はそれに甘えてしまおう。

みんなのことを考えるならこんな村にいてはいけないと思う。


「それじゃあ、この村を出る方針で今後の動きを決めよう」


村を出る際には村長に移住申請をしなければいけないらしいけど、これは出る直前に行うことになった。

申請と言ってもお世話になりました、移住します。と挨拶するだけで良いらしい。

早めに申請してしまうと嫌がらせをされるかもしれないので、直前に申請することで嫌がらせを受ける期間を無くす。


村長や村人たちの態度次第だが、5月に入ってその月の税を払ってから村を出るという話になった。

それまでに移住に必要なお金をなんとか稼ぐ。

お金稼ぎに関しては私に考えがあるから任せてほしいと言って一任してもらった。


村を出るまではそれを悟られないようにみんなにはいつも通り過ごしてもらう。

うっかり口を滑らせないようにね。


さぁ、作戦開始だ!

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