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3,宣言。魅惑のチョコレート。

 

「私はこのスキルと魔法を使って宿屋を盛り上げたいと思う。そうしたらみんなもっと快適に暮らせるよ」


私はここに宣言した。


「それは凄いね!だけど無理はしないようにね。シャノンはまだ子供なんだからそんなこと気にしなくて良いんだよ」


とお父さんが言ってくれる。

だけどお兄ちゃんたちはあまりピンと来ていないようだった。

お兄ちゃんたちは産まれてからずっとこの村で貧乏生活していたからそれ以外の生活というのが分からないのだろう。

だけど私は我慢ならない。


質素な塩味しかしない食事。

お風呂も無くて水で体を拭くだけ。

トイレもぼっとんの汲み取り式。

清潔の『せ』の字もない衛生環境。

木の台に布を敷いただけの硬いベッド。


そして何より。

スイーツが無い!!

王都のお貴族様なら食べられるのかもしれないけど、こんな小さな村では甘味はグラの実だけ。

シュークリーム!ショートケーキ!モンブラン!

ティラミス!トリュフチョコ!ベイクドチーズケーキ!

それが食べられないなんて耐えられない!!


実家の宿屋を盛り上げて、お金を稼いで、悠々自適に暮らせるようにして、スイーツを食べないと!

もちろん、家族のみんなが幸せになることが前提にね。

今のままでも幸せだと思うかもしれないけど、それは他のことを知らないからだ。

お節介かもしれないけど、生活レベルを上げて幸福値を上げるんだ!


その日は部屋に戻って、水で濡らした布で体を拭いて眠った。




4月3日


記憶を取り戻して2日目の朝。

いつも通りの朝だ。

眠い目を擦り、裏庭に向かう。

この村には2つ井戸がある。

そのうちの1つはうちの裏庭にあるんだ。


裏庭ではお兄ちゃんたちが各々顔を洗っていた。


「おはようシャノン。今お水を汲んであげるからね」


「ありがとう」


井戸から水を汲むのは重労働。

私には無理なのでリオお兄ちゃんが汲んでくれる。

実は魔法で水が出せるんだけど、善意は受けるべきだよね。


お兄ちゃんが汲んでくれた水で顔を洗う。

冷たくて気持ち良い。

歯を磨くのはこれ、この粉を布につけて軽く濡らすと泡立つのでこれで歯を磨く。

この粉が何なのか私は知らないけど、味は悪い。

粉っぽくて臭くてとてもじゃないけど飲み込もうとは思わないので吐き出す。


排水や排泄物は畑のずっと向こうに行くとある草の茂みに捨てられている。

のでそこに行くととても臭う。

二度と行きたくない。


朝食を食べてる最中に作戦会議だ。

議題はどうしたらお金が貯まるのかについて。

先立つ物がないとせっかく通販スキルを持っていても何も買えない。


「グラの実が冬以外でも買えるならグラの実売れば良いじゃん!」


転売ってことだろうか。

村で普通に売られているグラの実が500ガルだから、それ以上で売らないと利益にならないけど他より高かったらまず売れないだろう。

でも品質5で他と同じ500ガルで、でも他より質が良いんだから……質を少し下げて他と同じ質にして、500で売れば利益は出るかな?

少しだけだけど。


「この村では宿に泊まる人はいないから、食堂で利益を出すべきだよね。となると新メニューの開発かなぁ」


それは私も考えた。

でも現状だと使える材料と取れる手法が限られてるんだよね。


例えば日本だと手軽に使えそうな卵。

これはこっちではたまーに森で採れる物で、村では売値がつかない高級品だ。

見つけた人が食べるので売る人はまずいない。

これは安定供給できないので食堂では出せない。


ん?卵?

日本産の卵だと10個入りのパックが200円で購入できる。

1個20円の卵を使った料理を200ガルで売れば?

単純計算10倍!

卵を使う案はありかもしれない。


「えっと、えっと……」


ジョシュアお兄ちゃんは一生懸命考えてくれてるけど、案は出ないみたい。

まだ8歳だから仕方ないよね。

お父さんはなにやら考え込んでるみたい?

何を考えてるんだろう。


「それじゃあ、まずはグラの実を売ってみよ」


アルフィーお兄ちゃんの案を採用してグラの実を転売することにする。

朝食が終わると、私はリオお兄ちゃんを連れて広場へ出かけた。

どうせお客さんは来ないし、もし来たらアルフィーお兄ちゃんに対応してもらう。


広場では村人が好き勝手に布を敷いて露店を開いている。

露店、とは言うけど本格的な露店通りのような感じではない。

フリーマーケットのイメージに近いかな。

各々好き勝手に物を売買している。


手頃な所に布を敷いて、木のボウルの中にグラの実を入れる。

これはお父さんからもらったお金で買った物。

品質3の物がいつも森で採れる物と同じような感じだったので、それを購入した。

お値段は20%引きの400ガル。


品質5が標準額として品質4が10%引き、品質3が20%引き、品質2が30%引き、品質1が40%引き、品質0が50%引き。

品質6は10%増し、品質7は20%増し、品質8は30%増し、品質9は40%増し、品質10が50%増し。


これが5個あるので、全部売れれば500ガルの利益になる。

500ガルあればケーキが買えるのだ!今はまだ買わないけど!

グラの実を売ったお金で卵が買えれば良い。

それで買った卵で卵料理を作って売るのだ。


リオお兄ちゃんとおしゃべりしながら待っていると、お客さんが訪れた。

村人のウルカちゃんだ。確か20歳ぐらいだった気がする。


「シャノンちゃんにリオ君。今日はお店屋さんごっこ?」


「ごっこじゃないよ。これ売ってるの」


グラの実が入った木のボウルを見せる。


「あら、グラの実じゃない。時期じゃないのに採れる物なの……?冬の間に採った物を残しておいたのならもう枯れているはずだし……」


ウルカちゃんは首を傾げる。

あれ、怪しまれたかな?


「まぁ良いや、1つちょうだい?」


「はい、銅貨5枚だよ」


やったね、1つ売れた。

それからちらほらと売れて、お昼頃には全部売れた。

売り上げをしっかりと【インベントリ】に入れて家に帰った。

お父さんはまだ狩りから帰ってないみたい。


利益の500ガルは好きに使ってみて良いと言われているので、早速卵を買おう。

私が今世で見たことのある卵料理は目玉焼きとスクランブルエッグ。

ただ焼くだけの物とぐちゃぐちゃにして焼いただけの物。

オムレツとか卵焼きは見たことない。


個人的にはオムレツと言えば卵だけのものではなく、中に何かを入れたい派だ。

前世の私の家では塩茹でしたじゃがいもと、玉ねぎとベーコンを炒めたものを薄焼き卵で包んだものをオムレツと言っていた。

まぁ今はそんな余裕は無いのでただのスクランブルエッグを塩味で売ることにしよう。


しかしお客さんが来ないと売れる物も売れない。

アルフィーお兄ちゃんが限定10個でうちで卵料理を売っていると宣伝しに行ってくれた。

その間に私は調理をする。


「火は危ないから僕がやるよ?」


「大丈夫。隣で見てて」


心配そうなリオお兄ちゃんに見守られながらかまどに火を入れる。

火属性魔法で1発着火だ。

フライパンに油を……個人的にはマーガリンかバターを使いたい。

でもバターって高いんだよね。マーガリンなら300gが210円で売っている種類もある。

利益の500ガル以内なら自由裁量を認められているのでどうせならマーガリンを買ってしまおう。

油で焼くより風味が違うんだよね。

ただマーガリンは脂肪分の塊だから摂りすぎると太るけど、うちの家族は全員もっと太った方が良い。


卵1パック200円とマーガリン300g210円、と。

使うお金は【インベントリ】から消費されるけど、お釣りも【インベントリ】に収納される。

その時1枚100ガル以下の硬貨があることは初めて知った。

小銅貨という銅貨より小さい硬貨が10ガルみたい。

こんな小さな村でも使われない硬貨だけど、他の村や町では使われてるのかな?


熱したフライパンにマーガリンを落とすと、ジュワァァと溶けていく。

そこへ塩を入れてかき混ぜた卵をIN。

ほどよく固まったところを解すように木べらでかき混ぜて。

木のお皿に移して完成。


ちょうどその時お客さんが来た。


「卵を売ってるって聞いてな。いくらだ?」


「300ガルでーす」


本当は200ガルで売る予定だったんだけど、マーガリンを使った分の代金を上乗せしてみた。


「卵が300ガル?それ本当に食える物なのか……?」


安すぎて疑われたみたいだけど、ちゃんと料金を支払ってもらったのでスクランブルエッグの乗った皿を提供する。


「おお、本当に卵じゃないか。どれ」


パクッと口に入れる。

その瞬間目を見開いた。


「う、美味い!食べたことのない味がする。卵は卵なんだが、味も濃いし……このまろやかな味は何だ?」


Mサイズの卵を1つ焼いただけなのであっという間に食べ切ってしまう。


「いやぁ美味かった。まさか卵がこんな値段で食えるなんてな」


笑顔でお客さんは帰って行った。

それからは立て続けにお客さんが来た。

最初のお客さんが他の人に宣伝してくれたのかな。

限定10個ということもあって夕暮れ時には全て売り切ることができた。


お父さんも帰って来て夕飯を作ってくれる。

ご飯を食べ終わると、今日の収支報告だ。

まずはお父さんにグラの実の代金を返しておいて、利益を机に並べる。


「まずはグラの実が5つ全部売れた。利益は500ガル。そのお金で卵とマーガリンを買った。卵は1つ300ガルで売った、これは10個売れたから利益3000ガル。」


「1日で3000ガルも利益を出したのかい?凄いじゃないか!それにちゃんと計算できて偉いね」


お父さんが手放しで喜んでくれて嬉しくなる。


「初の売り上げ記念にこのお金で美味しい物を食べたいと思います!」


ぐっと腕を上げて宣言。

ノリの良い家族はパチパチと拍手をしてくれた。


「美味しい物って何だ!?グラの実か!?」


「それよりもっと甘くて美味しい物だよ」


【異世界通販】を開いて購入するのはチミリチョコ。

1個20円で売っている色んなフレーバーがある一口サイズのチョコレートだ。

私はこれのミルク味が好き。

味が違うと不公平なので全員ミルク味にした。

5個買っても100円の出費でしかない、コスパ最強である。


「これなに?これが美味しい物?」


好奇心旺盛なアルフィーお兄ちゃんが包装ごと口に入れようとしたので慌てて止めて、包装の剥き方を実演する。

中から出て来たのは茶色い四角い塊だ。


「これが本当に美味しいのか?」


と言いつつアルフィーお兄ちゃんはぱくりと躊躇なく口に入れる。

すると、パッと目を見開いた。


「んー!」


もごもごとしてゆっくり味わってる。

やがてチョコが口から無くなったのか、興奮した様子で口を開いた。


「なんだこれ!すっっげー甘い!グラの実なんて比べ物になんないぐらい!なんだこれ!?」


「チョコレートっていう砂糖をいっぱい使ったお菓子だよ」


「砂糖?って何だ?」


「甘くなる調味料のこと」


砂糖と聞いてお父さんの顔が引き攣っていたけど、全員チョコを食べた。

お父さんは砂糖を知ってるのかな?


「うわっ、すっごく甘い……!食べた後も口の中に甘いのが残ってる……」


「お、美味しい……っ!シャノンちゃん、すごい……!」


凄いのは私じゃなくて日本の企業努力なんだけどね。


「そうだ!これ売ればぜってーグラの実より高く売れるぜ!」


名案!とアルフィーお兄ちゃんは言う。

けどそれには問題がある。


「お父さん、砂糖って高いよね?」


「そうだね……砂糖はお金持ちの人たちが使う物だから。僕たちが今食べた1つにどれだけ砂糖が入ってるのか想像もつかないけれど、これ1つで銀貨5枚……5000ガル以上はするんじゃないかな」


「すっげー!あっという間に金持ちじゃん!」 


お父さんの答えにアルフィーお兄ちゃんはキラキラ目を輝かせるけど、リオお兄ちゃんが待ったをかける。


「そういうわけにはいかないんだよアルフィー。この村に5000ガルもする高級品を買う人がいると思う?」


「あ……」


そう、そんな高級品を買える人なんてこの村にはいない。

だけどこの世界で砂糖が高級品だと言うのなら、砂糖をたくさん使ったお菓子を安値で売ると相場が大崩壊してしまう。


だから砂糖を使った物は#現状__・__#扱うつもりはない。

家族でこっそり楽しむのは別。


暗くなってきたので話し合いも終了して、就寝した。

 


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