2,スキルの練習。家族へのカミングアウト。
てってってと走って村の端っこに行く。
普段は危ないからあまり近付いちゃいけないと言われている場所だけど、人がいないからスキルや魔法の練習をするにはちょうど良い。
村の中央には結界石という物があって、村の周囲に建っている柵の部分までを結界の壁で覆われている。
この結界、柵から出るとそこはもう魔物の生息する場所。
戦う力の無い物は結界から出ることなく生涯を終えることになる。
結界があるとはいえ、柵から1歩出れば死ぬかもしれないので村人たちは基本的に村の端っこには訪れない。
村の端っこにいるのは村の入り口で警備している警備の人ぐらいだ。
なので、家の影に隠れて端っこにいれば誰の目にも私の姿が映ることはない。
一応この家の中に誰もいないか確認。うん、誰もいないね。
よーし、スキルの確認をするぞー!
魔法は後で試すとして、まずは【インベントリ】。
うんと、そこに石があるからあれを収納してみよう。
念じれば良いんだよね。収納!
すると、一瞬で石が目の前から消えた。
凄い、ほんとに消えた!
念じると頭の中にリストが現れる。
あ、小石×1がちゃんと入ってる。
念じると……取り出せる。
これがあれば荷物の持ち運びが楽だよね。
面白くなって辺りの小石を収納して回った。
周囲に拾える小石が無くなって一息ついた。
次は【異世界商店】を見てみよう。
念じることで目の前にウィンドウが表示される。
『購入』
『売却』
『オーダーメイド』
という項目がある。
『購入』を押してみると、ネットショップのようなレイアウトになる。
『地球』と『エルディラード』のタブがあって、地球はそのまま。
エルディラードは……この世界のことかな?
凄い、色々ある。
家とか車とかも売ってる!
けど……残高は0円。
当たり前だよね、お金100ガルも持ってないし。
そうそう、この世界でのお金はガル。
私は銅貨と銀貨しか見たことない。
銅貨は100ガル、銀貨は1000ガルらしい。
うちの宿は小さな村にある宿。
村人は当然泊まりには来ないけど、時々冒険者や商人の人たちが来るからその人たちが泊まって行く。
ちなみに料金は朝夜ご飯つきで1泊2000ガル。
高いのか安いのか分からないけど、日本の感覚で言えば激安だ。
朝晩のご飯だけで2000ガル取っても良いぐらいの感覚だよね。
えーと、次は【キャラクターチェンジ】……だけどこれは今はやめておこう。
万が一村人に見つかったら、村の中に知らない人がいたら騒ぎになるし。
スキルは一通り試したかな。
次は魔法だ!
全属性って書いてたけど、具体的にどんな魔法が使えるんだろう?
目を閉じて自分の中に問いかける。
すると感覚でどんな属性が使えるか分かった。
火・水・風・氷・雷・土・光・闇・聖・無・空間・重力・時間・植物・毒・呪い・契約・隷属・召喚……他にもありそうだけど、主要な属性はこれだけあるみたい。
多すぎてよく分からないなぁ。
1つずつ試すしかない、か。
属性を頭の中にイメージすると、その属性でどんなことができるか理解できる。
そのチートっぷりに冷や汗をかいた。
魔力ランクと魔力量が多いせいだろうか、殺傷能力の無さそうな水属性でだってとんでもないことができてしまうみたいだ。
水源の無い場所でだって大津波を起こして全てを押し流して更地にしてしまうことができる。
闇属性なら相手の脳に直接干渉して記憶を操作したり人格を操作したりできる。
特にチートっぽいのは時間属性。
とんでもなく魔力を消費するみたいだけど、例えばボロボロになった物を新品の状態に戻したり逆に新品の物を劣化させて朽ちさせたりできる。
できるかできないかで言えば、この世界全体の時間を巻き戻したり、世界の時間を止めて私だけ行動することも可能……みたい。
よっぽどじゃないとやらないけどね!禁術っぽいし。
強すぎる力があることは緊張するけど、力があることは良いことだ。
だって力があれば大切なものを守れるよね。
さて、魔法を使ってみようかな。
……どうやって魔法使うんだろう?
えーと……【魔法効率化・特大】スキルがあるから……念じるだけで良いのかな?
威力が強いと大変だから、そーっとそーっと。
そよ風よ吹けー。
と念じると、ピュゥッと風が吹いた。
ん?今のは魔法で吹いた風か自然の風か分からなかったな。
もっとこう、分かりやすく……火かな。ほんのちょこっとの火、出ろー。
ぽっ
あ、出た。
けど危なくないようにすぐ消える小さな火をイメージしたからすぐに消えてしまった。
んー、もうちょっと広い場所で色々試したいなぁ。
強い魔法も使う機会があるかもしれないし、いざという時に使えた方が良いもんね。
でも村人に魔法を使うところを見られるのはなぁ。
私は産まれてから5年経ったけど、魔法を見たのは数えるほどしかない。
村に訪れた冒険者の人が魔法を見せてくれたのと、教会の神父様が回復魔法を使っていたのを見たぐらい。
この村の人が魔法適正が無いのか、それとも魔力量が低くて使えないのか、それとも他の要因なのか分からないけど村の人が魔法を使っているのを見たことがない。
もしかしたら私が知らないところで使ってるのかもしれないけど、威力が強い魔法を使っていれば気付くだろうから使えたとしても威力の低い魔法しか使えないんだと思う。
そんな中で5歳の私が威力の強い魔法を使っているところを見られたら?
ちらほやされるだけなら良いけど、異端扱いされたらたまったもんじゃない。
魔法が得意な人の扱いが分かるまで強い魔法を人前で使うのは控えようっと。
イメージ次第で魔法は自在に動かすことができるみたい。
小さな水の龍を作って空を飛び回らせたり、土の人形を作って踊らせたり。
聖属性魔法と一口に言っても色々ある。
汚れを取り除く【クリーン】も魔物の攻撃や脅威を防ぐ【結界】も怪我を治す【回復】も全部聖属性魔法。
無属性は色々と便利そう。
相手に頭の中で話しかける【念話】や、物体を動かす【念力】、身体能力を向上させる【身体強化】などなど。
なんか超能力者っぽいよね。
でもこれだけ使えるスキルや魔法が多くなると咄嗟に使えるか心配だ。
ちゃんと把握しておかないとね。
魔法の練習に夢中になっていたらあっという間に陽が暮れ始めた。
もう晩ご飯の時間だ、この村の晩ご飯の時間は早い。
よっぽどじゃないと食堂に村のお客さんは来ないので、この時間に私たちはご飯を食べる。
慌てて走って家に帰った。
「ただいまー」
家に帰ると、もう食堂に家族が集まっていた。
「お帰りシャノン。ご飯できてるよ」
「はーい」
みんなで席に座ってお祈りしてからご飯を食べる。
晩ご飯は朝食の塩野菜屑スープと硬い黒パン、それにプラスされてお肉の焼いたやつと野菜を焼いたやつが追加される。
お肉はお父さんが狩って来た魔物のお肉を切って焼いたもの。
味付けは塩味。
その日によって大きなウサギだったり、狼だったり、獲れない日は無かったりする。
野菜は裏の庭で採れた野菜。
味付けはもちろん塩。
胡椒は今世では見たことがない。
「あのねみんな、お話があるの」
食事の最中に突然切り出す。
これから私がやることは家族の理解が必要だ。
もちろん前世の記憶のことを話すのではない。
「今日ね、教会でステータスを見せてもらったの」
「そういえばシャノンは昨日5歳になったんだったね。ごめんね、本当はお父さんが連れて行ってあげなきゃいけないのに」
「ううん、いいの。それでね……」
私は魔法適正が全属性だったこと、ジョブが大魔導師だったこと、収納スキルと便利なアイテムが買えるスキルがあることを話した。
お父さんとリオお兄ちゃんは驚いていたけど、アルフィーお兄ちゃんとジョシュアお兄ちゃんはよく分かっていないみたいだった。
「全属性なんて聞いたことがない……それにジョブが大魔導師だなんて凄いじゃないか!大魔導師と言えば1人いれば国が栄えると言われているんだ。国が諸手を上げて迎えに来るぐらいの話だよ」
それを聞いてジョシュアお兄ちゃんが不安そうな表情をした。
「シャノンちゃん、出て行っちゃうの……?」
「私は国のために働く気は無いよ」
「国に知られたら拒否することはできない。だけど要はバレなければ良いんだ」
とリオお兄ちゃん。
「そうだね、誰かに言いふらさなければバレることはないだろう。みんな、シャノンのジョブのことはここだけの秘密だ」
みんな頷いた。
私が大魔導師のジョブだということを言ったら私が連れて行かれることは理解したらしい。
「収納スキルは便利だね。何をするにも荷物を手ぶらで運べるのは良い。狩った獲物をいちいち家に置きに帰らなくても良いし、冒険者にも商人にも引っ張りだこのスキルだ」
なるほどね。
この言い方だとみんながみんな持ってるスキルってわけでもないみたい。
これは別に知られても良いスキルなのかな。
「それから買い物スキルか……物を買うスキルというのは父さんは初めて聞いたな。どんな物が買えるんだい?」
「なんでも。食べ物でも服でも家でも」
何でも買える、という言葉に過言は無い。
調べたところ、魔物や動物を買うことだって奴隷として人間や獣人を買うことだってできるみたいだった。
「じゃあ俺グラの実食べたい!」
とアルフィーお兄ちゃんが言った。
グラの実というのは森に生える木の実のこと。
硬くて噛んだ瞬間は木の味がするのだけれど、しつこく噛んでいると僅かに甘みを感じるため人気の木の実だ。
甘い食べ物なんて今世ではこれ以外知らないので、とても貴重な甘みを摂取できる食べ物ということになる。
だけど冬の寒い時期にしか生えないのがネック。
冬は雪が積もるから森へは行けないので、雪が積もる直前に森へ行かないと手に入らない。
それに生えている数も少ないので毎年取り合いになっている物だ。
「グラの実は冬しか手に入らないでしょ?」
当然のことをリオお兄ちゃんが言う。
本来ならばその通り。
店に並ぶのも冬だけだ。
【異世界通販】を開いて『エルディラード』タブを開く。
食べ物カテゴリで検索欄に『グラの実』、と。
あ、出た。
ふむふむ、品質を選ぶことができるのね。
普通の品質が5で数字が低いほど品質が悪くて、数字が高いほど品質が高い。
品質5が通常の金額で、品質が低いほど安くなって品質が高いほど値段が高くなる。
「グラの実は500ガルで買えるみたい」
「え、買えるの?」
「せっかくだし買ってみてもらおうか」
貧乏人からしてみれば500ガルだって大金だけど、お父さんは銅貨を5枚渡してくれた。
えーと、このお金をどうすれば良いんだろう?
持ってるだけじゃ残高に追加されないし……【インベントリ】に入れてみると、残高が増えた。
グラの実、品質5。
500ガルを購入。
すると、【インベントリ】にグラの実が1つ増えた。
それを取り出してみる。
色艶が良くて大粒のグラの実だ。
と言っても元々の大きさが人差し指ほどなので、大粒と言っても親指ほどの大きさだ。
それをアルフィーお兄ちゃんに手渡す。
「やったー!」
それをお兄ちゃんは口に放り込んで噛む。
あれ結構ギシギシして繊維質で私はあんまり好きじゃないんだよね。
「なにこれ、いつも食べるグラの実より甘い!」
え、ほんと?
確かに森で採れるグラの実より品質は良いみたいだった。
でも【異世界通販】では5が通常品質みたいだったけど……もしかして森で採れるグラの実の方が品質が悪いのだろうか?
それを食べて今まで美味しい美味しいと言って食べていた?
「……僕も食べたい」
ジョシュアお兄ちゃんが羨ましそうにアルフィーお兄ちゃんを見ている。
リオお兄ちゃんも口には出さないけど、多分食べたいんだろう。
「そうだね、みんなで食べようか。シャノン、悪いけどみんなの分を買ってくれるかい?」
「わかった」
家族全員分買ったら2500ガル。
これはうちでは大金だ。
お父さん、無理してるなぁ。
全員分買ってみんなに配った。
口に入れて噛んでいくと、僅かな甘みが口に広がる。
うーん?確かにいつものグラの実より甘い気がするけど、お兄ちゃんが言うほど甘いだろうか。
ダメだ、前世の記憶が邪魔してこのグラの実がそんなに甘いとは思えない。
だけど家族たちは美味しい、甘いねと言い合って食べている。
グラの実は味がしなくなったら終わりなのでそのまま飲み込む。




