15,いざ王都へ。土地探し。
新メニューの相談の時に、『既に出来上がっている物を通販スキルで購入してそのまま出すには、料理を放置しておくわけにもいかないので私がいないと提供できない』と思っていた。
けれど宿の拡張をしている時に気が付いた。
時間停止の収納鞄を通販スキルで購入してその中に料理を入れておけば熱々の出来立ての状態の料理をお客さんに提供できるんじゃない?と。
通販スキルでこの世界……エルディラードタブで収納鞄を検索。
今の私の手持ちではとても買えない値段ではあるけど、内部の時間を遅らせる程度の物はあった。
けれど完全に時間停止する物はそもそもこの世界に存在しないみたい。
なのでオーダーメイド機能で作って見積もってみると、エルディラードタブで買うより随分と安く済んでいた。
でも高いなぁ。
……オーダーメイド機能でかかる費用って、どういう計算なんだろう?
宿の改装に結構お金を使ってしまったのでできるだけ安く済ませたいところ。
……ちょっと待って、私って【空間属性魔法】と【時間属性魔法】が使えるよね?
時間停止の収納鞄、作れちゃうんじゃない?
そう思った私はシンプルで普通のリュックを購入。
試してみたところ……あっさりと時間停止で内部が広い収納鞄ができてしまった。
ただ、【空間属性魔法】を駆使しても容量無限というわけにはいかなかった。
多分やろうと思えばできるけど、魔力が足りない感覚だった。
それでも魔力をたくさん使って東京ドームが10個入るぐらいには拡張できたので、そうそういっぱいになることは無いと思う。
久しぶりに魔力をたくさん使って疲れたから昼食は甘い物が食べたい。
魔力派すぐに回復するけど、疲労感は中々取れないんだよね。
前々から家族とスイーツが食べたいと思っていたので、ケーキ屋さんのちょっとお高いショートケーキを人数分購入。
白い生クリームと黄色いスポンジのコントラスト。
上に乗った真っ赤な可愛らしい苺。
贅沢に盛られた生クリーム。
「綺麗で食べるのがもったいないね……」
とジョシュアお兄ちゃんは言っていたけれど、好奇心旺盛なアルフィーお兄ちゃんはすぐにフォークでぶっ刺して口に運んだ。
ショートケーキ丸かじりなんて贅沢だなぁ。
「んーっ!甘い!」
「え、また高級品?」
お父さんがぎょっとしている。
お父さんは私がどれだけ稼いでるか知らないから贅沢していると不安になるんだろう。
五つ星ルームの装飾を見た時なんて放心してたもんね。
最高級家具に比べたらケーキなんて可愛い物なんだけどな。
ケーキも好評だったけど、アルフィーお兄ちゃんはチョコレートの方が好きみたい。
生クリームよりチョコの方がガツンと甘いもんね。
収納鞄ができたのでメニューを増やそうとすると、待ったがかかった。
そんなにたくさんメニューの名前を覚えられない、注文を受けても違う料理を出してしまう可能性がある。と。
確かに、私はあらかじめそのメニューを知っているから対応できるけど知らないメニューがたくさん並んでいると混乱するよね。
新規メニューの追加は見送りとなった。
その代わり、収納鞄に料理をたくさん作り置きして常に在庫が切れないようにしよう。
王都でそんなに繁盛するかどうかはまだ分からないけれど、ストックはあればあるほど良い。
午後からはお父さんとリオお兄ちゃん、私で食堂で出すメニューをたくさん作って時間を費やした。
4月15日
いよいよ王都へ向かう日が来た。
まずはカナイ村から少し離れた所へ私だけ転移する。
そこで亜空間の世界から家族を出した。
「それじゃあ予定通り、最初は空を飛んで行くね。ゆっくり高度を上げていくから、怖かったら言ってね」
理想を言えば家族に透明化をかけたいけど、そうしたら術者の私以外には見えなくなっちゃうんだよね。
家族が家族の姿を見れなくなっちゃう。
みんなに【飛行】魔法をかけて、ゆーっくりと上昇していく。
「凄い!本当に浮いてる!」とアルフィーお兄ちゃんとジョシュアお兄ちゃんははしゃいでいたけれど、高度が上がるにつれリオお兄ちゃんの顔が青くなっていく。
「……リオお兄ちゃん、大丈夫?」
「……ご、ごめん。無理かも」
いつもはしっかりしているリオお兄ちゃんがお父さんの腕にしがみついている。
透明になってないからせめて地面からよく見えないようにもっと上へ向かいたいんだけど、これ以上は無理っぽい。
ゆーっくりと地面に降りると、リオお兄ちゃんはその場にへたり込んでしまった。
「リオはなんじゃくだなー!」
「こら、そういうこと言わないの。誰にだって苦手な物の1つや2つあるんだからね。アルフィーだっておばけが苦手だろう?」
「う、うん。ごめんなリオ……」
アルフィーお兄ちゃんがお父さんに窘められる。
すぐに謝れるのは良いことだね。
「僕は家で待ってるから、みんなは空を飛んでおいで?」
「リオだけ仲間外れなんてしないぞ!シャノンに頼めばまた空は飛べるんだし、今日は一緒に転移で行こうぜ!」
「う、うん。みんなでいっしょに行こ……!」
空を飛ぶのを楽しみにしていたジョシュアお兄ちゃんまで。
2人の家族愛にお父さんと私はほっこりしていた。
転移で王都に行くことに決まり、ある程度打ち合わせしておく。
王都についたらやることや、やってはいけないことなどを教えておいた。
それと王都に飛ぶ前にまず服を着替えることにした。
今のみんなの服はこの前配った無地の服。
これからは王都に住むしお金持ちを相手にする場合もあるかもしれないので、身にまとう物もそれなりを身に着けないといけない。
一旦みんなで家に戻り、私は午前中いっぱい使ってみんなの服を見繕った。
オーダーメイド機能で1人1人に似合うデザインを考え、生地と仕立てはもちろん高品質。
【耐暑】【耐寒】【防汚】【防臭】、それからピッタリのサイズにすると子供はすぐに成長して着れなくなってしまうので、【サイズ自動調節】機能もつけた。これは他の魔法効果よりお金がかかったな。
1週間全て違う服を着れるように全部違うデザインに。
家族の服を配った時に、「シャノンの分は?」と聞かれて自分の分を忘れていたことに気付いて慌てて自分の分も作った。
自分の分は急いで作ったからシンプルな物になってしまったので、また時間がある時にちゃんと凝ろうと思う。
せっかくの女の子の服なんだしね。
新しい服はみんなからしてみれば見たことのない物で、アルフィーお兄ちゃんなんかは大興奮していたけれど他の3人はこんな質の良い物自分たちが着て良いの……?と不安がっていた。
せっかくみんなのために作ったんだから着てほしいと無理やり着替えさせたけど。
お昼ご飯を食べてからいざ王都へ。
と言っても今回は家族全員で移住しに来たので、直接王都の中に転移することはしない。
ちゃんと手続きを踏んで中に入らないとね。
ということで一旦全員透明になって王都の近くに転移。
誰もいないことを確認してから透明化を解除した。
「ここから王都まで少し歩くよ。中に入る時はお父さんが身分証を出してくれるから、お兄ちゃんたちは何もしなくて良いからね。中に入ったら人がいっぱいいるから、はぐれないようにみんなで手を繋ぐこと」
「分かった!」
と言うアルフィーお兄ちゃんが1番心配なんだけど。
真っ先に走って行きそうなんだよね。
ともかく私たちは王都の町に入る行列まで歩いて行った。
向こうからここまで歩くだけでも子供の足では疲れてしまう。
これは王都まで歩き旅は無謀だったな。
行列は順調に進み、私たちの番が来た。
お父さんがみんなの身分証を提示する。
「リーフの町と……カナイ村出身?随分遠い所から来たんだな。観光か?」
「いえ、移住しに来ました」
リーフの町?
ああ、お父さんは結婚する前は他の町にいたんだったね。
お父さんの出身はリーフの町って言うのか。
「そうか。移住申請の仕方は分かるな?」
「ええ」
「商業ギルドは道なりに進んで中央広場を右に曲がった先にある。まぁ何だ、頑張れよ」
「ありがとうございます」
お父さんと私が頭を下げるのを見てお兄ちゃんたちも釣られて頭を下げた。
それを見て門番さんの頬が緩む。
こうして私たちは無事に王都の中に入ることができた。
たくさんの人、人、人。
観光者向けの露店から呼び込む人の声。
村にはいなかった人間以外の種族たち。
瞳を輝かせたアルフィーお兄ちゃんが駆け出すのに10秒もかからなかった。
しかしそれを予想していたお父さんがそれより先にアルフィーお兄ちゃんの手を繋いでいたので、ぐんっと腕が伸びただけでアルフィーお兄ちゃんが迷子になるのを阻止できた。
「まずは商業ギルドに行って移住申請するからね。みんな大人しくするんだよ」
「分かった!」
と言うアルフィーお兄ちゃんが1番心配だ。
あれ、デジャヴ?
人の群れを縫って門番さんから教えてもらった商業ギルドへ向かった。
みんなまだまだ痩せているけれど、毎日【クリーン】で綺麗にしているから肌も髪も綺麗だし服もさっき作ったばかりの新品だし自分で言うのも何だけどデザインも良い感じ。
とても小さな村の貧民には見えない。ちゃんと王都に馴染んでる。
けどなんだか他の人に比べて雰囲気がのほほんとしているな。
癒されると言えばそうかもしれないけれど、悪く言えば世間知らずの箱入りって感じがする。
警戒しないと悪い人たちに狙われそう。
常に結界を張ってるから悪意のある人は家族に触れることはできないけど……口車に乗せられて騙されたり詐欺に遭ったりしそう。
それはともかくとして商業ギルドに着いた。
王都にはたくさんギルドがあるけれど、冒険者ギルド以外に訪れたのは初めてだ。
ギルドの中は白い石の床と壁で清潔感がある。冒険者ギルドと違って変な臭いもしないけど、どこかカチッとしていて役所のような雰囲気を出していた。
だけどギルド内にはいかにも平民というような人もいて、私たちがいても場違い感は薄れる。
子供たちはお父さんの後ろに待機して、移住申請はお任せすることにした。
移住先の家も決めずに全員で出て来たことに呆れられ、移住申請には住所が必要ということで先に土地を購入することに。
購入、とは言うけれど実際に土地が自分の物になるわけではないらしい。
何故なら王都の土地は全て国王様の物で、民はそれを借りているだけに過ぎない。
「土地だけで良いんですか?ドワーフの建築家に大金を払って家を建てるとしても3日はかかりますけど……宿のあてはあるんですか?」
「ええ、それは大丈夫です」
「そうですか、それなら良いんですけど」
流石に家は収納に入ってますとか亜空間にありますとかは言わない。
家が一軒入るだけの容量の収納スキルは珍しいらしいからね。
土地の条件は事前に話し合っているけど、私も聞き耳を立てて会話を聞く。
こちらの要望は『できれば大通りに面した場所』『治安の良い場所』。
それからその場所で宿屋兼食堂を経営することを伝えて空き土地を探してもらった。
しかしそもそも王都で『更地となって空いている土地』というもの自体が少なくて、空いていたとしても治安の悪い場所や貧民街の方しか空いていなかった。
その場合は想定済み。今度は『建築物が建っている売り出し中の土地。その建築物は撤去しても良い』を探してもらう。
それだといくつか見つかった。
まず第一候補。
中央広場の手前にある土地。
人通りが多く、観光者も多く通る目につきやすい場所。
ただし土地のサイズは小さめ。
次に第二候補。
土地のサイズはそこそこ大きいけど、大通りからは2つ道が外れた場所。
治安が悪いわけではないけれど大通りよりは活気が無く、観光者からは見つかりにくい場所になる。
最後に第三候補。
土地のサイズは結構広めだけど、少々入り組んだ場所にある土地。
初見でそこに宿があることに気付くのは難しい。
とのこと。
この中だと第三候補は却下だね。
第一候補と第二候補の場所を実際に見てみることになった。
案の定アルフィーお兄ちゃんが飽きてきていたので、一旦外に出てリオお兄ちゃん、アルフィーお兄ちゃん、ジョシュアお兄ちゃんは亜空間の世界に送って公園で遊んでいてもらうことにした。




