10,大金入手。良いベッドの必要性。
お昼時になるとノアにチェンジし、また修練場へ差し入れに向かった。
「おう、また来たのか」
「今日はおやつを持って来た」
ミス・ドーナツの各種ドーナツ詰め合わせ。
箱を開けて中を覗き込んだグルガさんは首を傾げた。
「見たことない食い物だな」
「ドーナツという菓子だ。知らないか?」
「ワシは知らないな」
「砂糖を使っていて甘いから疲労回復にはピッタリだぞ」
「ふむ、随分と豪勢な差し入れだな。奴ら喜ぶぞ。昨日の差し入れも美味かったってみんな言っとるぞ」
「気に入ってもらって良かったよ」
昼休憩にドーナツを配る。
彼らは食べたことのない味で甘くて美味しいと大興奮だった。
「まさか本当にこれだけ甘いとは。これ1つでいくらになるのか想像もつかんわい」
「甘い物は好きか?」
「甘味は高級品だぞ?嫌いだと言う奴はあまりいないだろうな。と言いたいところだがワシは酒のつまみになりそうな濃い味の物の方が好きだの」
ふむ、お酒か。
そういえばドワーフと言えばお酒好きのイメージがあるよね。
「やっぱりドワーフはみんなお酒好きなのか?」
「当然だ。ドワーフにとって酒は命の水、嫌いな者などいるわけがない」
「それじゃあ明日俺の故郷で作られたお酒を持って来るよ」
「ほう!それは楽しみだ。やる気が出て来た、仕事に戻るか!」
お仕事だから真面目にやってくれるとは思うけど、どうせなら気持ち良くお仕事してほしいもんね。
午後からは大まかに色々な町を観光して回った。
特に問題は起こらず、帰宅する。
晩ご飯の際に話を聞いていると、今日も村長が訪ねて来て卵の在り処を吐けと脅しに来たらしい。
卵を売ったのはたった2,3日の話でそれ以降は売っていないのに、村長は私たちが卵を独り占めして毎日食べていると思っているらしい。
「卵ぐらいで何でこんなにしつこいの?卵ってそんなに高いの?」
「砂糖や胡椒ほどじゃないけど、町で買おうとすると高いよ。鳥の巣はそう簡単に見つけられないし、見つけたとしても卵が手に入るか分からない。それに保存が効かないからいつでも売ってるわけじゃない、だから高いんだよ。まとまった数が手に入るなら町で売れば大金になるね」
大金、か。
こんな小さな村では1万ガルだって大金だもんね。
「諦めてくれると良いんだけど、村長はしつこいから……」
そっか。
でも村を出てしまえばもう村長と顔を合わせることは無くなるだろう。
今だけの辛抱だ。
せっかく新しい服を着ているので、みんなに毎日【クリーン】をかけてから寝ることにした。
お風呂代わりだね。でもお風呂には入りたい。
せっかくみんな綺麗な髪をしてるんだから、ちゃんとお手入れすればもっと綺麗になると思うんだ。
4月10日
今日は預けていたワイバーンを買い取ってもらう日だ。
いくらになるだろう?
ワイバーンをたくさん解体してもらったから差し入れを購入しておこう。
ノアにチェンジしてわくわくしながらギルドの解体場へ向かった。
「おう!来たか。話し合った結果、10匹全て買い取らせてもらうことになった。素材はどれも状態が良くて色をつけさせてもらったぞ。解体手数料を引いて、全部で1億2100万だ。これに細かい内訳が書いてあるから確認してくれ」
びっしりと文字が書かれた紙を渡されて目を通す。
ふむふむ、魔石と皮が頭1つ飛び出して高いんだね。
「金額が金額だから聖金貨と王金貨で用意させてもらったが大丈夫か?」
「聖金貨?」
「知らないか?1枚で1000万ガルの価値がある硬貨だ」
マッチョは私が貨幣価値を知らないと悟り、1つずつ説明してくれた。
小銅貨10
銅貨 100
銀貨 1,000
小金貨10,000
大金貨100,000 10万ガル
王金貨1,000,000 100万ガル
聖金貨10,000,000 1000万ガル
平民が一般的に使う貨幣は小金貨までで、それ以上の硬貨は大規模な取引の際に用いられるらしい。
できれば細かいお金が欲しい……と思うところだけれど、実は【異世界通販】に両替機能があることは確認済み。
例え聖金貨で渡されようと、スキルの力で全部銀貨に両替することだってできてしまう。
「それで大丈夫だ」
「分かった、これが代金だ。聖金貨12枚と王金貨1枚だ、確認してくれ」
はい確認、と。
「そうだ、これ差し入れ。みんなで食べてくれ」
修練場の方にも渡したミス・ドーナツの詰め合わせを手渡す。
「おっ!良いのか?ありがとう!また獲物持ち込んでくれよ!まぁ大金を放出したばっかりでしばらくは大物は無理だがな、ガハハ!」
ギルドを出て、裏路地に入り誰も見ていないところで【異世界通販】の残高を確認する。
その額なんと121,734,100。
ついに手持ち1億超え!これにまだドラゴンの買い取りも待っている。
それにワイバーンだってまだ10匹丸々残ってるから、他のギルドへ持ち込めばまた1億程度のお金が手に入る。
王都への移住費は1億あれば充分だよね。
とりあえずのノルマクリア!
移住費用の1億は取っておいて、残りのお金は好きに使わせてもらおうっと。
お金の使い道を1人でゆっくりできる場所で考えたいな。
どこか良い場所無いかな……そうだ、【空間属性魔法】で亜空間を作ることができるんだよね。
そこなら1人でゆっくりできるんじゃないかな。
早速【空間属性魔法】を使って亜空間を生成。
あんまり広すぎると落ち着かないから、ワンルームぐらいの広さで。
恐る恐る中に入ってみると、灰色の壁と床が出迎えてくれた。
ちゃんと入り口を閉めて、と。
魔力を注ぐことで拡張も縮小も自由自在。
暑さも寒さも調整できるみたい。
今は暑くも寒くもないから大丈夫……っていうかノアの着てるローブは暑さも寒さも感じない魔法効果をつけてるんだった。
……何も無いと殺風景だね。
通販スキルを開いて1万6千円の人をダメにするソファを購入。
体を預けてみると、ふんわり優しく包み込んでくれる。
こ、これは……ダメになる……!
ああ、溶ける……ハッ、ダメダメ。今日は通販スキルをちゃんとチェックするんだから。
気を取り直して通販スキルを色々確認しながら考える。
オーダーメイド機能を使えばなんでも作れる。
例えば……空飛ぶ大地とか?空を飛ぶ大地の上で宿屋経営。
うん、空の上なんてお客さん来ないね。
でも空飛ぶ大地は魅力的。お値段だけ確認してみよう。
うーんと、広さはうちの宿より一回り大きいぐらい……あ、思っていたより安い。
広くするとその分だけお値段が上がるみたい。
購入を検討しておこうっと。
その日は通販スキルで欲しいものを吟味して時間を費やした。
早めに家に帰って、夕飯は自分が用意すると伝える。
今日は大金を手に入れたお祝いで豪勢にいこう。
通販スキルではファミレスやチェーン店などのメニューもそのまま購入できるので、今日は料理は作らず外食メニューを購入することにする。
みんなが食卓に集まると、ステーキ専門店のサーロインステーキ、サラダとパンとスープのセットを各自に配る。
女神様にお祈りを捧げて、いただきます。
真っ先にお肉を口に入れたのはアルフィーお兄ちゃんだった。
「わー!何だこのお肉、すっげー美味しい!」
「本当だ、全然臭みもないし柔らかい」
「僕ビッグラビットのお肉が1番美味しいと思ってた。それより更に上があったなんて」
ジョシュアお兄ちゃんは喋る暇もなく急いでお肉を口に詰め込んでいる。
「誰も取らないからゆっくりお食べ、喉を詰まらせてしまうよ?」
「あ、はぁい」
まったり食事をしながら王都への移住費が貯まったことを報告。
どうやって王都まで行きたいか聞いてみた。
選択肢は……
1、転移で一瞬。1番楽だけど旅をする楽しみは無い。
2、空を飛んで数日ほどかける。高い場所が苦手だったらやめた方が良い。
3、馬車でのんびり旅をする。日数はかかるけど家族団らんでまったりできる。
4、オススメできないけど徒歩。デメリットは1番日数がかかる、疲れる。メリットは本格的な旅ができる。
2、3、4を選んでも途中で他の選択肢に変更することもできるから気楽に答えてほしいと伝えておく。
「子供たちの負担を考えたら僕は1番が良いかな。でも転移魔法が負担なんだったら無理しなくて良いんだよ?」
とお父さん。
「そうだね……いつでも変更できるんなら僕は空を飛んでみたいな。高い所に行ったことがないから苦手かどうかは分からないけど……」
とリオお兄ちゃん。
「僕も空、飛んでみたい……!」
とジョシュアお兄ちゃん。
「俺は一瞬で行ける方が楽で良いかなー」
とアルフィーお兄ちゃん。
「それじゃあ、最初は空を飛んでみよ。空の旅に飽きたり高い所が怖いなら転移に切り替えれば良いし」
これで移動手段が決まった。
念のためドラゴンのお金を受け取ってから出発したいので、村を出るのは15日以降ということになった。
みんなに【クリーン】をかけた後、1度みんなに集まってもらう。
「今日はみんなのベッドを新しくします!」
「ベッド?別に壊れてないけど……?」
「みんなが今使ってるベッドは硬すぎて疲れが取れないの。だから柔らかいベッドに変える」
あまりピンと来ていないみたい。
なので実物を見せてみることにする。
私の部屋にみんなで移動して、まずは今あるベッドを収納する。
このベッドはベッドとは呼べない代物だ。
木の台に布を何枚か重ねて敷いただけ。もちろん硬すぎて快眠できるものではない。
そしてお布団はぺらっぺらの毛布。
冬場は複数枚重ねるけど、それでも寒すぎて眠れない。
通販スキルでベッドとお布団セットを購入して設置。
ベッドは24万の高級ベッド。
分厚いポケットコイルマットレスで体に負担がかからず疲れを癒してくれる。
お布団は17万の高級羽毛布団。
軽くてふっかふかで気持ち良い。
枕1つ取っても妥協しない。
2万円の高級枕。
ふんわりしていて弾力性もある頭にフィットする一品。
「じゃあまずはお父さん、横たわってみて」
「え、僕かい?……分かった」
恐る恐るベッドに横たわるお父さん。
時間にして3秒。お父さんの意識が落ちた。
「お父さん起きて!」
「ハッ……いつの間にか意識が……」
お父さんは恥ずかしそうにしつつも慌ててベッドから降りた。
みんなに順番に横になってもらい、数秒で意識を刈り取る。
『良いベッド』の必要性を分かってもらったところで、全員の部屋にこのセットを設置しに行った。




