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〈一〉

「くそっ!!」

 月明かりも差さぬ深い森をかき分けながら、闇の中を一人の青年が駆け抜けていく。青年の背後には数十の灯り。松明を持った追手が青年を森の奥へと追い込んでいく。


「ほらほら、逃げろ逃げろ。どこまで逃げられるかな?」

 猟犬を伴った追手の中には、まるで、狩りを楽しんでいるかのように、笑いを浮かべている者もいる。仲間たちは既に散り散りになってしまっていた。だが、彼らの無事を祈る余裕はない。


〈こんなところで死ぬ訳にはいかない。絶対に逃げ切ってやる!〉

 青年の決意も虚しく、じわじわと縮まっていく追手との距離。青年は力を振り絞って、南に向けて走った。すでに方向感覚は失われていたが、今向かっているのが南だと信じるしかなかった。森を南に抜ければ川がある。川に潜って逃げさえすれば猟犬も匂いを追っては来れないだろう。


 そのとき、逃げる青年の耳に、ザアザアと言う微かな水音が聞こえた。

〈川の音だ!もう少し!〉

 最後の力を振り絞り青年は音のする方へ駆ける。闇に包まれていた森にうっすらと光が差し込み始め、川音はますます強くなってくる。


〈逃げ切った!〉

 追手との距離は縮まっているとはいえ、まだ余裕はある。ついに森を抜けた青年の目の前に、満天の星空が広がった――眼前には今まさに登っていく満月。

「月……そんな」

 南を目指していたはずが、いつのまにか東端の崖へと向かってしまっていたようだ。森の東には、川はなかった。いや、正確には川はあった。青年の立っている崖のはるか下を激流が流れていた。青年は、絶望の表情で、龍の如く荒れ狂う濁流を見下ろしてた。


 どれくらいの間、そうしていただろう。気が付いたら、青年は追手に囲まれていた。

「領主様の荷馬車を襲うなど、馬鹿な真似を。この反逆者め、覚悟しろ」

 口元を醜く歪めた数人の男たちが、ジリジリとにじり寄ってくる。

〈捕まったら最後、二度と生きては帰れないだろう。激しい拷問の末、ゴミクズのように捨てられる運命だ。でも……〉

 追手との人数差を考えれば、逃げ切ることは不可能に近い。

〈迷っている暇はない。オレはリンダのためにも生きなきゃならないんだ!〉

 一瞬の逡巡ののち、意を決した青年は、月に向かって飛び出していった。

 

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