第六十七話 手元にいなさい
理想郷としての希望のかけらが沢山詰まったオールホープで、トウジたちは大満足な歓待を受けた。ご馳走も食べ切れないほど頂いたのだが、それを給仕している一機のアンドロイドを見て、ザーフェルトは心底驚いたものである。
「アッ! オ前ハモシカシテ!? クローゼン!?」
「? 確カニ俺ハクローゼンだが? アア、ザーフェルトトカ言ウ奴カ。会ッタコトハ無カッタナ」
非情で暴力的な力で、三百年前、イシュタルの分身ディドと共にアテナビレッジへ攻め込んで来たクローゼンが、どういうわけか大人しく食事を並べているのだ。ザーフェルトはその時、フューエルタンクでオペレーターなどの労働に就いていたので、彼とは面識も戦ったこともない。だが働いている合間にアテナたちと通信を取り、アテナビレッジの戦いについては話しを度々している。そういうわけでクローゼンのことを知って、覚えていたわけだ。
「ふふっ。昔は粗暴でしたが、クローゼンも全く丸くなりました。三百年前にアテナビレッジで壊されて、案外良かったのかもしれません。私の分身であるディドが当時直したのですよ。性格が柔らかくなったのは副作用でしたね」
「アル程度ハ攻メ込ンダ時ノ記憶ガ有ルンデスガ、壊サレル前後ヲアマリ覚エテ無インデスヨネ。マア、イシュタルモ変ワッタシ、俺モ変ワッタトイウコトデスネ」
今のクローゼンは、友好的でお調子者である。アテナから大昔、話に聞いていた印象とは180度違う。何か拍子抜けしたような気でザーフェルトは、トウジとリナのグラスにリンゴジュースを注ぐ彼を見ていた。
「ところであなた達は、昔受信した救難信号を追うつもりのようですね。アテナから聞いています」
「はい。ちょうど、このオールホープからずっと南へ行ったポイントで信号が発信されたようなんです」
「私達は昔、オールホープがラストホープだった時代に、言い方が良くないのですが、支配地域を広げました。その時、南方の調査を行っています。ですがアテナからの情報によると、その救難信号が発せられたポイントは、調査の範囲外です。未知の危険があります」
アテナはマザーコンピュータであるため現実主義なのだが、イシュタルはその上を行くリアリストだ。彼女の優しさはモニターに映されている綺麗で慈しむ表情から分かる。しかしながら、冷静に状況を分析することに長けているマザーコンピュータ・イシュタルは、子孫のトウジとリナを心配し、思うため、厳しい口調で現実を突きつけた。
この優しいご先祖様は、アテナタウンとラストホープ、2つの安全な理想郷から可愛い彼らを出したくないのだ。




