第六話 認めたくない事実
コントロールタワーに着くと、アキヒトとマリーはサラが居るコントロールルームに入っていった。中に入ると、サラが息子の無事な姿を見て安心した表情を浮かべ、
「アキヒト……無茶をしたらダメよ。お母さんがどれだけ心配したか分かる?」
と、やや厳しい母親としての口調で、息子を叱った。サラがアテナビレッジのゲート外にアキヒトが出て行ったのを知っているのは、当然、ゲートのモニター経由で、アテナに情報を伝えてもらったからだ。
「ごめんなさいサラおばさん……私も止めたんだけど……」
そばで聞いていたマリーが、非常に申し訳なさそうな顔をして、サラに謝った。
「マリーちゃんは悪くないのよ。アキヒトの悪い癖が出たのがいけないの」
普段優しいサラから厳しさを感じ、アキヒトはバツが悪そうに頭をかいていた。
「ごめんよ母さん、今度からは気をつけるよ。でもね、どうしても気になることがあって、ゲートを出たんだ」
「アテナから聞いて、それも知ってるけど、何があったか分かったの?」
いくらか反省した息子の様子を見て、サラは厳しい表情を少し緩めた。
「うん、この村では見ることがないロボットがいたよ。でも、完全に動かなくなっていた。そのロボットの体を調べていて見つけたのがこれさ」
アキヒトはサラに、先ほど拾得したマイクロメモリーを手渡した。
「二人トモ! 置イテクナンテヒドイデスヨ!」
手渡したところで、ザーフェルトが遅れて帰ってきた。
「ごめんごめん、急いでたから忘れちゃっててさー。悪かったよ。謝ってばかりだな俺」
アキヒトは謝りながら笑って、ザーフェルトの背中をポンと叩いた。ガッシリした体を叩かれながら、ザーフェルトはまだふくれている。
「…………」
渡されたマイクロメモリーをサラは暫く観察していたが、見た目に異常がないのを確認すると、
「端末にデータを読み込ませて、アテナと相談してみましょう」
と、いつも様々な情報を打ち込んでいる、コンピュータ端末のカードリーダーに、マイクロメモリーを差し込んだ。
読み込ませたデータは画像が主だったが、文章もいくらか入っていた。サラはそれらの内、まず、画像を開いていくことにした。
画像データはかなり多く、ロボットに搭載されていた超小型カメラで撮影されたデジタルデータがほとんどだった。カメラが小型すぎたので、アキヒトはロボットにそれが付いていることに気付かなかったようだ。
「……少し見覚えがある景色ね」
サラがそう言ったのは十五年前に、ラストホープからアキヒトを連れて逃げてきた道沿いを撮した画像が多くあったからだ。それだけで相当な枚数がある。
その画像群が入ったフォルダをすべて見終わり、次のフォルダを開け、一枚目の画像を見たサラは驚きで表情が固まった。
「どうしたの? 大丈夫母さん?」
母親の様子を見て心配になったアキヒトは、思わずサラに声をかけた。サラは、ハッと我に返り、
「……え、ええ。大丈夫よ……。ちょっとびっくりしただけ」
と、取り繕ったように言いながら作業を続けようとした。
「母さん、この大きな建物の中みたいな画像は何? これを見て驚いたんでしょ?」
母親が取り繕ったのを見抜いたアキヒトは、サラが何か知って隠していると思い、問いただした。
「……これはラストホープの内部よ。昔、赤ちゃんだったあなたを連れて必死に逃げてきた……」
そこにいた一同はそれを聞き、全員驚愕した。
「じゃあ、あのロボットは……」
マリーが認めたくない事実を認めざるをえなくなった時の、不安や緊張などが複雑に入り混じった表情をしている。
「ラストホープからの偵察ロボットと見て間違いないでしょうね」
そこにいた皆の肩に、ズシンと重しがのしかかったような気がした。