第五話 マイクロメモリー
ゲートまで来たアキヒトは、アテナとコンタクトを取ろうと思い、ゲートの右側に付いている、アテナと会話ができるモニターと集音装置を使用できるようにした。
「どうしましたアキヒト? 設備の保守点検中に何かありましたか?」
小型のモニターを使用するとアテナのイメージCGがそれに現れた。若い落ち着いた女性の姿をしている。その姿はどことなく若い頃のサラに似ていた。ただ、瞳は黒い。
「うん、ゲートの上にある岩場の方に何かおかしなものがあるみたいなんだ。それを確認しに行きたい。ゲートをちょっとだけ開けてくれないかい?」
アキヒトの頼みを受けて、アテナは暫く考えていた。
「ゲートは開けられません。このゲートを出ると、私の支援が受けられなくなります。あなたに万一のことがあった時に、あなたを助けることが出来ません」
アテナはやや厳しい口調で答えた。考えていた計算結果で、アキヒトの身に起こる危険がゼロではないと出たのだろう。
「どうしても気になるんだ。よくは分からないけど見えてるのは生き物じゃない。何かの機械のようなんだ。こんな所に機械があるなんておかしいだろう?」
アキヒトはなんとか確認に行きたいと思い、アテナの許可を得られるように説得している。
「機械……その機械は今、動いているように見えますか?」
「いや、動いてはいないよ」
アキヒトの返事を聞いてアテナはまた少し考えた。
「分かりました。ゲートを一時的に開放します。ザーフェルトもそちらに向かわせます。一時間以内に戻ってきて下さい。時間をオーバーしたら、ザーフェルトに捜索してもらい、あなたを連れて帰ってもらいます」
アテナはやや心配そうな表情をモニター内で見せていたが、ゲートを開くことに決めた。
「ありがとう、それでいいよ。ゲートを開いて……」
「アキヒト!」
怒った声で呼ばれ、アキヒトはびっくりして左を見た。そこには明らかに怒った表情をしたマリーがいた。
「あなたは一人でどんどん勝手に決めちゃうのが悪い癖よ! 岩場の上まで行って大怪我でもしたらどうしようもないじゃない!」
と、弟を叱る姉のような口調で怒っている。
「ごめんよ。なるべく気をつけるからさ。アテナの許可も一応出たし、大丈夫だよ」
マリーは怒った表情から非常に心配した顔に変わり、
「危ないと思ったら途中でも帰って来なさいよ……」
と、小さな声でアキヒトの目を見ながら言った。
「ではゲートを開けます。十分気をつけて行くのですよ」
ゲートの自動扉が左右にゆっくり開いていく……
岩場の間にゲートが位置しているので、ゲートを出てすぐ後、アキヒトは左の岩場に登り、見えていた物を確認しようとし始めた。
アテナビレッジのゲートを出る者はまずいないため、その岩場に登るための道もつけられてはいないが、アキヒトは偶然、登るのに適した道筋を発見し登り始めた。ただ、その道はいくらか岩場を回りこむように登らねばならない。
それでも順調に登ることができ、十分ほどで、岩場の頂上まで登ることができた。
(よし……まだ時間はたっぷりあるな)
アキヒトは頂上につくとまず時計を確認した。アテナに区切られた時間は一時間なので、それまでに調査を終えて帰らなければならない。
時間の余裕を見て少しホッとしたアキヒトだったが、前方にある物をはっきり確認できるようになると、表情は驚きに変わった。
「これは……ロボット?」
そこに動かなくなっていた機械は、小型のロボットで、可変性があるキャタピラと、格納ができそうな六本足を持っていた。軽量化するためか、機銃など、戦闘用の装備は何もついていなかった。
「完全に動かないみたいだな、大きく壊れている部分がある。イノシシか何かの動物にぶつかって壊れたのかもしれない」
アキヒトはロボットの調査を行い始めた。このタイプのロボットはアテナビレッジでは見ることがない。ただ、アキヒトは何かの偵察タイプのものだろうと見て取り、ロボットの隅々まで隈なく調べてみた。
「これは? マイクロメモリーだな?」
調査した結果、ロボットの胴体部分から、マイクロメモリーを発見した。暫くそれをアキヒトは観察していたが、その記憶媒体が無傷なのを確認すると小さくうなずき、調査を終えて岩場を降り始めた。
アキヒトが再び東ゲートまで戻ると、マリーとザーフェルトが心配そうに待っていた。
「無事戻ったよ」
アキヒトは、まず二人に帰還を知らせた。二人は胸をなでおろした。
「よかった……」
「心配シマシタヨ」
ザーフェルトはアキヒトの無事を確認すると、ゲートのモニターでアテナとコンタクトを取り、開放していたゲートを閉じ始めた。
「それで、何があったか分かった?」
マリーの問いにアキヒトはうなずき、
「ロボットだったよ、それもここでは見ることがないタイプだった」
そう答え、マリーに先ほど拾得したマイクロメモリーを見せた。
「これがそのロボットに?」
「うん、アテナに見せたら何か分かるかも知れない。コントロールタワーに行ってみよう」
アキヒトとマリーの二人は車に乗り込み、コントロールタワーに向かった。それを見たザーフェルトも、
「アレ、待ッテ下サイ!」
自分が乗ってきた車に乗り込み、慌てて二人の後を追った。