第四十二話 珍妙で幸せなウェディング
平和が戻ったアテナビレッジでは修復作業が進められている。一ヶ月も経つと東ゲートの作り変え以外はあらかた片付けや修繕が済み、忙しく働いていた村民達もようやく以前のゆるやかな生活を取り戻すことが出来ていた。
アキヒトとマリーはその日、コントロールタワーでフューエルタンクのアマテラス経由で連絡を取り、ザーフェルトと話をしていた。
「危ナイ所ダッタヨウデスガ、無事ニ事ガ済ンデ本当ニヨカッタデスヨ。ココデモ随分ハラハラシテイマシタカラ」
「そうね……。セトがいなかったらどうなってたか分からなかったわ。それにしてもセトにディドをあしらう程の力があったなんて……」
「セトトハ長年一緒ニ居マシタガ、ソンナニ強カッタノデスカ? 会ッタ時カラ妙ナ爺サンダナトハ思ッテイマシタガ」
「はははっ! そうだな。セトがどんな力を持っていても、妙な爺さんであることに変わりないよな。セトはセトさ」
ザーフェルトもラストホープと戦う現場に居なかったながら、アテナビレッジのことを非常に心配していたようだ。それに加え、セトがとんでもない強さを持っていたことにとても驚いている。村の皆もセトはただの長生きな爺さんという認識しかなかったので、ほとんどその爺さん一人に村が救われた状況を、最初なかなか理解が出来ずにいた。しかし、会話の中でアキヒトが言っているようにセトはセトだ。
しばらくザーフェルトとの会話を二人が楽しんでいると、マリーにとっては馬が合わないネイがコントロールルームに入ってきた。
「モニターに映ってるのはザーフェルトですか。元気そうですね」
「うん。色々一段落ついたからね。あれこれ話をしているんだ」
アキヒトはネイに会釈をしながらネイにそう答えているが、マリーはそっけなく右手を上げて挨拶の代わりをしただけだ。
「二人いるのがちょうどよかったですね。話があったんです」
「話が? なんだい?」
「アキヒト。私と結婚して下さい」
「「エエエェェェ!!??」」
突然の告白にアキヒトもマリーもあまりのことに言葉を失ってしまっている。ネイの表情を見る限り冗談を言っているようには見えない。アキヒトは顔を真っ赤にしていてまだ何も言える状態ではないが、マリーは逆に顔を青くして凄い剣幕でネイに詰め寄った。
「いい加減にしなさいよ! いきなり何を言い出すのよ! 冗談にも程があるわ!」
「冗談は言ってませんよ。本気です」
「!? ……あなたアキヒトがそんなに好きなの?」
「はい。彼が赤ちゃんの頃から見ていますからね。大好きですよ」
その返事を聞いて、マリーは言いようがない敗北感のようなものを感じずにはいられなかった。マリーも幼い頃からアキヒトと一緒に村で過ごしてきているが、アテナの分身であるネイが持つ、彼に対する愛情より深いものを自分が持っているとは考えられない。
「そうなの……わかったわ……アキヒトはあなた」
「マリー。あなたもアキヒトが好きでしょう? あなたもアキヒトと結婚するんですよ?」
「「エエエェェェ!!??」」
立て続けのネイの言葉に何が何だか分からなくなり、マリーもアキヒトも顔が真っ赤で何も言えない。ネイだけは冷静で二人の様子を微笑みを浮かべ見ている。
「私はアテナビレッジをもっと人でいっぱいにしたいんです。ですが今住んでいる人々で若い男の人は数えるほどしかいませんよね? だからアキヒトは私ともマリーとも結婚して子供を作るんですよ?」
アキヒトはしどろもどろのままだが、マリーにはネイが生まれてきた本当の目的が分かったようだ。釈然としない部分はあるが、やっと彼女もネイと分かり合えそうな気がしてきた。
「ひと月後に三人で結婚式をしませんか? タツキとサラ、それにサトルとメアリーも分かってくれると思いますよ」
「なんか悔しいけどあなたには助けられた気がするわ。分かったわ、そうしましょ。お父さんとお母さんにも話をしてみる」
「「アキヒト」」
「は、はいっ!」
「あんたもちゃんと言っとくのよ」
「あなたもちゃんと言っておいてくださいね」
「分かりました!」
二人の尻に敷かれるアキヒトの将来が見えそうである……。
ひと月後、アキヒト、マリー、それにネイの三人は、村民全員の祝福を受け結婚した。両手に花の結婚式は珍妙なものだったが、花嫁衣装に飾ったマリーとネイはしとやかでとても幸せそうだったようだ。
そして、彼らの系譜を引き継ぐ子孫達へと物語は続く……。
第一章 完