第三十三話 光の盾
タツキがサラに付き添われてメディカルセンターに入り、初日の治療を受けている頃、アキヒトはセトに訊くことがあり、話をしている。
「親父の足がよくなるようでよかったのう」
セトとアキヒトもルーム内にいるので、アテナがタツキの左足を改善し治せると、ほぼ断言しているのを聞いていた。アキヒトはとても嬉しそうだ。
「うん、ありがとう。それはすごくよかったんだけど、俺はその事とは別で、セトに用事があるんだ」
セトはアキヒトの様子から、何となく何を訊きたいのか勘づいている。
「そのブレスレットに命を救われたか?」
ズバリ当てられて、ややのけぞるように驚きながら、
「えっ!? 何で分かるんだよ!? うん……やっぱりセトはこれについて詳しく知ってるんだな?」
と、左手首に付けているブレスレットを軽く右手で触り、アキヒトは質問を続けた。
「ラストホープで父さん達を助け出していた時に、セキュリティロボットに撃たれたんだ。正直終わったと思って覚悟したよ。でも、このブレスレットから光の盾が広がって、俺を守ってくれた。だからここに無傷で居られてるんだ」
なぜかそのことは、ほぼセトには分かっているようだったが、九死に一生を得た一連の出来事の説明を興味深く聞いている。
「アキヒトの母さん、サラさんの出生はバイオノイドで、超能力が使えるのはよく知っておるな? まあ、どうしてそういうことが起こり、お主が守られたかを簡単に言うと、アキヒトも潜在能力として超能力を持っていたんじゃ。サラさんの血を引いての」
「俺が……超能力を……?」
信じられないという顔で、アキヒトは自分の両手の平をじっと見ている。
セトは、自分の新たな能力の可能性に立ち止まり考えているアキヒトの様子をじっと見ている。そうしているうちに、タツキをメディカルカプセルに入れた後で少し時間ができたサラが、コントロールルームに戻ってきていた。
「ちょうどサラさんが戻ってきたな。ものは試しじゃ。外に出てブレスレットをきっかけとした超能力を、使いこなせるかやってみよう」
サラは少しの間、セトが何を言っているか分からずきょとんとしていたが、気づくところがあったらしく、三人でコントロールタワー近くの広場に向かった。
今日も初夏の陽光が心地よい晴れだが、ラストホープから人々を救出した翌日である。村は平穏を保っているように見えて、いつもに無い緊張感が一本走っている。アテナの指示により、武装型アンドロイドも東ゲートを中心に警戒をしているはずだ。
セトはサラにも、アキヒトが着けているブレスレットのこと、超能力を潜在的に持っていることを説明した。
「で、サラさん。超能力を使う時に何か特別に集中するじゃろう? あれはどこをどうやるんかの?アキヒトに教えてやってくれんか?」
息子に自分の特別な能力の使い方を教えることになるとは夢にも思っていなかったが、コツのようなものはあるらしく、サラはアキヒトに簡単なレクチャーを始めている。
「私は生まれつきだから、あまり意識して超能力を使ったことはなかったけど……。そうね、心を静かにしてブレスレットがある左手首に集中してみて。力を入れずに集中するのよ」
サラが教えてくれている通りに、アキヒトは左手を体の前に構え、心静かに集中をしてみた。しばらく何も変化がないように見えたが、突如として……
「ほう……。まさしく光の盾じゃな」
機銃掃射を防ぎ切った光の盾が、ブレスレットを中心に発現した。それを自分でも確認したアキヒトは集中を解いている。
「これが母さんから受け継いだ俺の力か……。でも、なんでイシュタルはこれをくれたんだろうな? ますます分からなくなってきたよ」
左手首のブレスレットを軽く撫でながら、それを不思議そうに眺めた。
その後も一時間弱ほど、サラのレクチャーを受けながら自身の超能力を使いこなすために、アキヒトは練習を重ねた。彼の適性もあって、光の盾が発現するまでの時間は徐々に短くなり、ほぼ完全に能力をコントロールできるようになっている。
コントロールタワーでの用が済んだアキヒトはそこを後にし、ハチギ山の麓まで電動バイクを借りて向かっていった。サトルとマリーに落ち合い、山の頂上の通信管制塔の改良を行うためだ。
麓まで来ると、サトルたち親子は既に山に登る準備をしていて、塔の設備図面を二人で見ながら待っている所だった。
「ごめん! 遅くなった」
アキヒトはサトル達が乗ってきた電動カーのすぐ近くにバイクを停め、二人の所へ走って近づく。
「いや、そんなには待ってない。おう、なかなかうまい具合にいったみたいだな? 顔に出てるぞ」
サトルには超能力のことでセトに用事があると、事前に電話で話しているようである。
「うん、使いこなせるようになった。これで皆を守れるかもしれない」
ややアキヒトは得意そうだが、
「超能力が使えるようになったのはいいけど、無茶をしないのよ……。昨日はそれで切り抜けられたけど、あんな場面を何回も見せられたらたまったもんじゃないわ」
と、相変わらず姉のようなマリーにたしなめられた。アキヒトはやり場がなさそうに頭を掻いている。
「まあそれは置いといて……。頂上まで登らないといけないよな? イノシシ狩りの時も大変だからな。山で寝るようになるかもしれないよ」
そのことは予測しているらしく、食糧などが入っている結構な大きさのリュックが傍に置いてある。
「一晩泊まるのに必要な大体の物は用意してあるぞ、寝るのには通信管制塔が使えるようだから、テントは持っていかなくていいのが良かったな。よし! じゃあ行くか」
男手のアキヒトとサトルは大きいリュックを、マリーはやや小さめのリュックを背負い、自然の緑豊かなハチギ山をやや急ぎながら登り始めた。