第二十九話 やっと会えた……
「あなた……やっと会えた……」
タツキは他の人々と同様、状況がつかめず警戒していたが、長い間片時も忘れなかった声と姿を見とめ、信じられないというような顔に変わった。
「サラ……? サラなのか?」
再会をずっと切望し待ち続けた声を聞いて、サラは言葉にならず。代わりにこくりとうなずき。待ち望んだ最愛の人に身を寄せた。タツキはサラを優しく抱きとめている。
そして、自分とよく似た眼差しを持つ、勇敢な少年の姿にもタツキは気づいた。
「アキヒトだな……大きくなったな」
「うん……助けに来たよ、父さん。アテナビレッジへ行こう」
息子の力強く頼もしい声にゆっくりうなずき、タツキは周りで妻と子との再会をじっと見ていた、ラストホープの仲間達に状況を手短に伝え始めた。
「アテナビレッジから息子たちが助けに来てくれた! 皆行こう!」
人々の警戒はそれで解け、救出対象者全員の移送が開始された。対象者は八名で、一番若い年齢の人が、アキヒトよりやや年上の二十歳くらいに見え、最高齢者が六十歳手前辺りの男性である。これも幸いなことに、歩行が困難なのは救出対象者の中でタツキのみで、彼の移動だけをサポートすれば、外に停めている電動クルーザーまでスムーズに移れそうだ。
「マリアちゃん? ラストホープの人たちを連れて脱出するわ!」
「了解シマシタ。電動クルーザーヲ扉ノ近クマデ動カシマス」
マリーが外で待機しているマリアに携帯通話ですぐに通信を取った。ここには大型電動クルーザー三台で来ている。八人が追加で乗るスペースは十分にある。
ともかくもう時間がない。不快で無機的な警報音が彼らを追い込もうとしていた。
タツキ以外の七人の誘導を先に始め、脱出の隊列を整えながら移動を開始した。タツキはアキヒトとサラが付き添って介助をしたいところだが、今は平常時ではなく、とにかく時間がない。タツキを背負っても、移動速度の影響が少ない力を持っている武装型アンドロイドの内の一台に介助を行ってもらい、移動するようだ。
「私ノ背中ニ乗ッテ下サイ。心配イリマセンヨ」
重装でいかつい格好のアンドロイドだったが、どれも優しい穏やかな性格をしている。慈しみを持つアテナがCPUラインを用いて、彼らの頭脳を生み出したことが影響しているのかもしれない。
「すまないな。世話になるよ」
こんな状況でもタツキは介助してくれる彼の優しさに対して笑みを見せながら、背中にしっかりとおぶさった。
隊列の最後方には、タツキの介助者を守りながら、もう一機、武装型アンドロイドが就いている。強力な戦力のアンドロイドは全部で三機いるので、今現在もう一機が最前列へ移動中だった。
今、最前列ではネイとアキヒトが先頭に立って、脱出口となる一本道の廊下へ救出対象者を誘導している。辺りには変わらず警報音がうるさく鳴り響き、彼らを少なからず焦らせている。
廊下に差し掛かる入り口に入ろうとしたその時、不意にセキュリティロボットが近くの隠し扉から現れ、最も先頭に立っているアキヒトに至近距離の機銃掃射を行った。
「アキヒトォオ!!」
ネイ、サラ、マリーから絶叫に近い声が上がる。そこにいる誰しもがハチの巣にされたと思い、瞬間的な絶望が走った。
が、アキヒトは無傷だった。瞬間的、反射的に出した左手のブレスレットから、暖色に輝くシールドが広がり、銃弾をすべて受け切っている。
暖色を発する光のシールドは、そのままセキュリティロボットを攻撃する光の刃へと変わり、対象目掛けて四つに分散し、超高速で飛んで行った。それぞれの刃はロボットが持つ金属の装甲を簡単に切り裂き、後にはバラバラになった残骸が低草が生える地面に残った。
「な、何だったんだ……今の……」
撃たれた時にもう終わったとアキヒトも瞬間的に覚悟をしたが、信じられないことが起きて、自身は無傷で生きている。皆、唖然としているが、この現象を起こしたアキヒト自身が一番何が何だかわからず、全身から冷や汗をドッと流している。
「アキヒト! 大丈夫なのね……よかった……」
マリーが泣き出しそうな顔で駆け寄りアキヒトの手を握った。その手の暖かみに触れ、ハッと我に返り、
「よく分からないけど大丈夫だよ。時間がない、脱出を急ごう」
この間に最前列まで追いついて来た武装型アンドロイドに先頭を任せ、隊列を整え直し、脱出を急いだ。
廊下通路は狭く、ここを救出対象者と通るのが脱出中一番難航するかと思われたが、思いのほかスムーズに外まで出られそうだった。だが、最後尾のタツキを守りながら戻っているアンドロイドが外に通じる扉出口まで差し掛かった時、またもや追手のセキュリティロボットが追い付き、機銃掃射をしてきた。それから皆を守るため、アンドロイドは防御盾を目一杯広げながら、
「私ハ食イ止メナガラ撤収シマス。電動クルーザーマデ急イデ下サイ!」
そう感情を込めて伝え、自身はその場に立ち止まり応戦している。
「すまない……あんたも絶対帰ってこいよ!」
タツキは彼の人間らしい行動に礼を言い、また、アンドロイドの広い背中におぶさりながら、脱出を急いでもらった。