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永遠の架け橋  作者: チャラン
第一章 アキヒトの章
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第二十一話 マリア

 ザーフェルトとフューエルタンクで別れた三人は帰路についたが、その空気は、やはり明るくはならない。皆、一様に暗い顔をしていたが、特にマリーの表情は暗かった。笑って別れたものの、今まで一緒にいた者がいなくなると、ぽっかり穴が開いたようになる。それだけザーフェルトの存在は彼らにとっても大きかったのだろう。


「テレジアが教えてくれたけど、本当にあの子も目覚めてるのかなあ」


 暗さを少しでも消すように、アキヒトが少し間延びた声で二人に話しかける。別れ際に、テレジアが重要なことを伝えてくれていた。




(ココニ来ルマデニ、小サナ通信施設ニ立チ寄リマセンデシタカ? アソコニハ私ノ妹機ガイタハズデス)


 サラは、アキヒトの声を聞いて、気を取り直し、テレジアとの会話を回想している。


(妹って……あの女の子のアンドロイド?)

(ソウデス。私トヨク似テイタハズデス。フューエルタンクガ完全復旧シタノデ、アノ通信施設モ連動シテ復旧シテイマス。妹ハ通信施設付キノアンドロイドデスガ、妹ガイナクテモ大マカナ施設機能ハ働クノデ、ザーフェルトサンノ代ワリニ連レテ行ッテアゲテクダサイ。タダ、妹ハザーフェルトサントハ、タイプガ異ナルアンドロイドデス)




「テレジアはああいうふうに言ってたけど、本当に目覚めてるのかしら?」


 運転方向のフロントガラスから外の景色を見ながらサラは返事をしている。


「テレジアが言ってたから、まず復旧してると思うけど、どうなってるかしらね」


 暗い表情を続けていたマリーも、ようやく口を開いたようだ。


「まあ、行ってみれば分かるさ」


 アキヒトはアクセルを強めに踏み直し、車のスピードを速めた。




 車を飛ばしていくと、フューエルタンクに行く途中に立ち寄った小さな通信施設は、確かに連動して復旧しているのが見えてきた。テレジアに似た、可愛らしいアンドロイドも、目覚めていると思われる。


「どんな子かしらね。テレジアみたいにせっかちなのかしら?」


 ザーフェルトとの別れから立ち直ってきたマリーは、電力等が復旧した建物へ先に入って行った。


 建物内の様々な設備はほぼ完全に機能を取り戻していて、そこでは、目覚めることができたテレジアの妹機が通信機器の調整をしていた。


「アラ、ドチラ様デスカ?」


 マリーと後から入ってきた、アキヒトとサラに気づいたその子は、のんびりした声でこちらを尋ねている。


「こんにちは、私たちはフューエルタンクのテレジアから妹さんがここにいると聞いて来たの。私はマリー。あなたが妹さん?」


 可愛らしいそのアンドロイドは、一呼吸置いて、春の桜のような可憐な微笑みをゆっくりたたえながら、


「姉カラノ紹介デスカ。シバラク会ッテマセンネ。変ワリハナカッタデスカ?私ハテレジアノ妹機、マリアデス」


 と、これもまたゆっくりと答えた。テレジアとはかなり性格が異なるようだが、のんびりとした愛嬌に、一行はとても和めている。


「私と名前が似てるのね。テレジアから、あなたを私たちの故郷、アテナビレッジへ連れて行って欲しいと言われてるんだけど、ついて来てもらっていいかな?」


 マリーもつられて微笑みながらマリアに同行を頼むと、マリアはまたのんびりと、


「ハイ分カリマシタ。コレカラヨロシクオ願イシマス」


 ゆっくりマリーの手を優しく握り、一行に微笑みを向けた。何とも言えない安心感が、マリアの冷たい手から、暖かみとしてマリーには伝わってきた。




「ゲートが見えてきたぞ! 帰ってきたんだなあ」

「長旅だったから、すごく懐かしい感じがするわ。私は村の外に出るのが初めてだったし」


 帰路の途中でマリアを通信施設から連れ帰った一行は、ようやく旅の終わりを迎えようとしていた。村の北ゲートまではもうすぐである。無事に故郷へ戻れたホッとした安らぎが、アキヒト達の表情からそれぞれうかがえた。


 北ゲートの手前まで来ると、一行は車を降り、ゲートに備え付けられている中型モニターから、アテナとコンタクトを取り始めた。


「無事に帰ってくれましたね。よかった……」


 アキヒト達の無事な顔を見たアテナのイメージ映像は、安堵と喜び、それに慈愛に満ちた笑顔をたたえている。


「……でもね。ザーフェルトと別れないといけなかったの……」


 サラがやや沈んだトーンでそうとだけ伝える。アテナは深くは訊こうとせず、


「それについてはコントロールタワーで聞きましょう。アテナビレッジへおかえりなさい、新しい仲間のあなたにも、様々な出会いが待っていますよ」


 アキヒト達とマリアを見ながらアテナは、ゲートをゆっくり開け、彼らを迎え入れた。村内の自然と機械が調和した風景を懐かしんだ一行は、長旅の終わりを草いきれの匂いから柔らかく感じている。

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