第十九話 テレジア
アンドロイドテレジアは端正な顔立ちから、優しく柔らかい微笑みをアキヒト達に見せ、少し警戒感があったその場の雰囲気をすっかり取り払った。
「私達ヲ助ケテ下サリ有難ウゴザイマス。私ハ、フューエルタンクノ総合統括ヲ担ッテイル、テレジアト申シマス」
テレジアは復旧の手がかりを作ってくれたアキヒト達に対して。丁寧な礼を述べた。
「……いやいや、俺たちは大したことはしてないよ。それよりテレジアさん、アマテラスがシステムの復旧に取り掛かっているけど、俺たちはこれからどう手伝っていけばいい? 教えてくれないかな?」
テレジアの礼に和むと同時に、やや呆気に取られていた四人だったが、気を取り直して、アキヒトが代表してこれからの行動について質問を始めた。
「マズ、各施設ノ電源ガ復旧スルマデ、アマテラスガ言ッタヨウニ一日カカリマス。ソレマデハ私達ニデキル事ハアリマセン。コノ、コントロールタワーデソレマデオヤスミ下サイ」
そう説明すると、テレジアはコントロールルームの隅にある扉を指し、そこに歩いて行き手をかざすと、その扉が開いた。
「コノ部屋ガ休憩室ニナッテイマス。機能ガ停止シテカラ七十一年ガタッテイマスノデ、室内ノ設備ハ古クナッテイマスガ、荒レテハイナイヨウデス。オクツロギクダサイ」
テレジアは丁寧なお辞儀をしている。
「ありがとう、使わせてもらうわね。それで、電源が復旧したら……」
サラの言葉尻を取って、テレジアは話し始めた。
「電源復旧後、私ガアナタ方ニオ知ラセシマス。コントロールタワーノ次ニ重要ナ施設デアル、鉱山採掘場ノ復旧ヲ手伝ッテ頂クコトニナリマス。シバラク時間ガ空キマスガゴ了承クダサイ」
端正な顔をアキヒト達に向けながら、テレジアはスラスラと行動方針について説明していたが、聞いていた四人はなんとなくまた呆気に取られている。
(私ヨリ、カナリセッカチナアンドロイドダナ……)
内心、ザーフェルトはテレジアの外見からの意外さに、そうおかしみを感じていた。
休憩室の窓から入ってくる陽の光は、より暖かいものに変わってきている。
一日時間が空いたアキヒト達は、テレジアが案内した通りに、コントロールタワーの休憩室で、休息を取ることにした。時間が経っているのもあり、部屋は古びてはいたが、ここまでは車中で休息を取るのがほとんどだったので、部屋での休息を取ることができた一行は十分に羽根を伸ばせた。
休憩室は、四人が過ごすのに、十二分なスペースがあったため、テレジアに断りを入れ、乗ってきた電動トレーラーのコンテナから、必要な物資やツールを運び込み、当分の拠点にできるように準備を整えた。
そして、ぐっすり休息を取った翌日……
「オハヨウゴザイマス。アマテラスガ電源復旧作業ヲ完了シマシタ。コレカラ鉱山採掘場ヘ向カイマショウ」
早朝に入ってきたテレジアに、四人はみんなびっくりしている。四人ともほとんどまだ寝ている最中だった。
「ちょっと待ってくれテレジア……。早すぎないか? 朝飯もまだ食ってないよ?」
アキヒトは毛布を被ったままで、勘弁してくれというような体で、そう言った。ザーフェルトはモードを切り替えることができたが、他の二人も同じような感じである。
「コウイウコトハ早イホウガ良イノデス。少シ待チマスノデ準備ヲシテクダサイ」
そう言い残すと、テレジアはタワー内の別の作業に向かった。仕事は速いがその分やはりせっかちなようだ。
「ちょっと困った子ね……。ザーフェルト、あなたと正反対ね」
マリーも目をこすりながら起き、同じく寝ていたサラと朝食の準備を始めた。
「…………」
ザーフェルトは黙って苦笑を浮かべている。
鉱石採掘場がある山とコントロールタワーは、ほど近いので、アキヒト達は一通りの支度をした後、すぐにそこへ向かえた。
「ここの電源も復旧したみたいだけど、薄暗いし何も動いてないわね……」
採掘用コンベアや運搬専門のロボットなど、そこの設備をマリーは手早く丁寧に調べていたが、チェックを終えると、首を振った。
「ダメなのか?」
やや心配そうに訊くアキヒトにマリーはもう一度首を振り、
「ダメじゃないわ。でも、かなり根気がいる仕事になるわよ。それぞれの設備の故障個所を特定して、必要な修理をしないといけないわ」
話をしている二人の間に、突然テレジアが入り、
「修理部品ハ、コノコンテナニ、タクサン入レテ持ッテキマシタ。十分コレデ賄エルハズデス」
と、先回りで必要な部品はあることを伝えた。割って入られた二人は驚いていたが、
「あ、ありがとう……。これで二、三日稼げたかもしれないわ。じゃあ、私は故障部分を詳しく調べていくわね。アキヒトとザーフェルトは悪いけど力仕事をやってもらうわよ。サラおばさんは、私が設備を調べた結果を、端末にインプットしていってね」
的確な指示を出すマリーに、一同は「わかった」「わかったわ」と、了解し、それぞれの仕事にとりかかった。
「ソレデハ私ハ、タワーニ戻リマス。定時ニナル度ニ、食事ヲ御持チシマスノデ、ヨロシクオ願イシマス」
テレジアは言い残すと、さっと帰ってしまった。
「ココデ缶詰ニサレマシタネ」
「うーん、でも絶対やらないといけないことだから、それも仕方がないわね」
ザーフェルトとサラはそれぞれの作業を続けながら、そんなことをぼやいている。