表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の架け橋  作者: チャラン
第一章 アキヒトの章
16/89

第十六話 フューエルタンクへ

「いよいよ出発ですね、皆さん」


 モニターの前にアキヒト達、四人が集まっている。モニターには、サラに似た、アテナの優しいイメージ映像が映し出されていた。


「前にも言ったことがありますが、このゲートから出ると、私からの支援は、衛星とGPSを用いた通信に限られます。皆さんの安全を確保できる支援は受けられなくなります。十分注意して下さい」

「分かった。無茶はしないようにするよ」


 アキヒトは素直な返事をした。それを聞いて、モニター内のアテナは微笑んでいる。


「それではゲートを開けます。皆、無事に帰ってくるんですよ」


 北ゲートがゆっくりと開放され、旧時代の先人が残した長い道が先に見えた。アテナビレッジとその付近の空は暖かく晴れているが、北の空には、暗雲が立ち込めている。




 村を出て、クルーザーは順調にフューエルタンクへの道を走っている。先人が残した道は、非常に長い間、使われていなかったため、荒れている部分も多かったが、それは進行に大きな影響を及ぼすほどではなかった。


 北に進むにつれて、空に雲が現れ始めた。その雲は、最初薄いものだったが、徐々に濃くなっていき、太陽を遮る厚い雲に変わっていった、気温も少しずつ下がっていっている。


「ちょっと寒くなってきたわね」


 クルーザーの後部座席に座っているサラは、少し寒さによる震えを感じ、用意していた外套を羽織った。ザーフェルト以外の二人も、すでにそうしている。


「私ノ温度センサーデハ、十度ヲ指シテイマス。マダマダ下ガッテイキソウデスネ」


 アンドロイドであるザーフェルトは寒さに強いが、生身の三人には、やや堪えるものである。


「ザーフェルト。エアコンをつけてくれないか? 俺たちにはちょっと辛いよ」


 アキヒトは、下がってきた気温に少し震えている。


「センサーガ七度ヲ示シテイマス。エアコンヲツケマス」


 スイッチを押すと、クルーザー車内に、心地よい温風があっという間に対流し、人間が感じる適温に保たれた。


「ここまでは順調だけど、大変な旅になりそうね……」


 マリーは初めて見る村以外の景色を、じっと車窓から見ながら、抑揚少なくつぶやいた。




 暗雲で日も差し込んでこないが、今のところ、旅路は順調である。


 運転をしているザーフェルト以外の三人は、外の様子を思い思いの表情で見ていたが、助手席に乗っているアキヒトが何か気になるものを見つけた。


「あの建物はなんだろうな? 何かの中継点にも見えるけど……」


 発見した建物の大きさは、平屋のやや小さな一般家屋ほどだったが、周りに様々な設備がついているように見える。


「フューエルタンクト何カ関係ガアル建物カモ知レマセンネ。行ッテ調ベテミマスカ?」


 ザーフェルトは一旦、クルーザーを停め、みんなの賛否を待ちながら、建物を確認している。その建物までは、分かれた道が続いており、クルーザーで難なく到達できそうである。


「方向と位置関係からも、フューエルタンクと何か関係がありそうね。行ってみましょうか」


 メカニックのマリーが賛成したので、平屋の中継基地のような建物に車を走らせた。


 建物に近づいてみると、周囲の設備はやはり、通信と受電を行うためのものであったことが分かった。ただ、今では完全に機能が止まっている。


「やっぱ何も動いてなさそうだな……」


 じっと立ち止まって、アキヒトは設備や平屋の母屋の方をじっくり見ていた。行動は慎重である。


「どうする? あの中にも入ってみるか?」


 母屋は自動ドアになっていたが、こじ開ければなんとか開きそうだ。


「私ガ先ニ行キマショウ」


 ザーフェルトが盾になるつもりで先に進み、ドアの前に立った。他の三人も後に続いた。


「デハ開ケテミマス」


 アンドロイド特有の腕力を使い、古びて機能しなくなった自動ドアをこじ開けると、そこには意外なものがひっそりと座っていた。




 ひっそりとうつむいて床に座っていたのは、アンドロイドだった。女性をかたどったタイプで、端正だがかわいらしい顔をしている。体も女性的なそれであるが、ザーフェルトと同じく、金属製の合板が所々に使われ、作られていた。


「長い間、動いた様子が無さそうね……」


 サラはしゃがんで、座っているアンドロイドの顔を眺めながら、体全体の様子を見た。顔はよく見ると、あどけなさが残る少女のようにかたどられている。時間が止まったまま存在するかのように、その顔はただ静かに美しい。


「この建物が通電してるなら直せるけど、エネルギーがないと私にもお手上げだわ」


 同じくアンドロイドの様子をしばらくマリーは見ていたが、少し諦めたように、建物内の設備の方を確認し始めている。


 建物の中端に位置する壁面の辺りには、アテナビレッジにあるような、大画面モニターが設置されており、周囲にはまた、様々なコンピューター群も壁面に埋め込まれている。アテナビレッジのものより、幾分進んだ性能のものであると、マリーは見て取った。


「なんか色々もったいないわね……。電力があれば、ここで色んなことが分かりそうだけど」


 周囲の機械を少しマリーはいじっていたが、通電していないと、これもどうにもならないらしく、一通り機械群を確認し、何かメモを取るにとどめた。


「すごく気になる場所だけど、今はここではこれ以上得るものがないな。フューエルタンクにまた向かおう。それに……」


 アキヒトは端正な女性型アンドロイドを見て、


「この子が動くようになったとして、安全なものなのかどうなのかも、まだ分からないしな」


 冷静なアキヒトの意見に、他の三人は珍しい物をじっと見るように、黙って彼を見ている。


「な、なんだよ……?」

「イエ、何デモアリマセン。ソノ通リデス。車ニ戻ッテ先ヲ急ギマショウ」


 アキヒト達四人は、かわいらしく眠るアンドロイドをそこに残し、フューエルタンクへの道を急ぐことした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ