第十五話 結団式
数日後、村民の全体会議が開かれ、アテナはフューエルタンクのこと及び、その計画について、丁寧に説明した。アテナビレッジの人々は、当然そんな資源がある場所など知っておらず、誰しもが非常に驚き、また、アテナの計画に理解を示した。
「よく分かったんだけど、その計画だと、フューエルタンクに行って、そこの施設を再稼働させないといけないよね?」
説明を一通り聞いたアキヒトが発言した。その眼には、好奇心と希望の光が濃く宿っている。
「そうなりますね。最低四人はそこへ行かなければならないでしょう。その内の一人は機械に強く、修理ができる必要があります」
アテナはフューエルタンク再稼働計画の人選を提案してきた。それはやや限定的なものだ。
「それじゃ、俺が行くしかないな」
そう言ったのはサトルである。表情は長旅の覚悟をすでに決めているように見えた。
「いえ、サトルが人選に入るのは良策ではありません。あなたは村の技術部門の大黒柱です。村の維持もありますし、フューエルタンクが動きを取り戻すまでに、準備しておくことも多くあります」
アテナはそう反対したが、サトルは困った顔をしている。
「いや……、しかしそうなると……」
「大丈夫よ! 私が行く」
サトルの横で座っていたマリーは、立ち上がり、立候補した。サトルはますます困った顔になり、
「お前を行かせるわけには……」
と、語尾を濁したものの、他に良い案がないため、しどろもどろに何も言えない。
「父さんが行けないなら、私しかいないじゃない。慎重に慎重を重ねるから大丈夫よ」
マリーはサトルの困った顔を笑顔で見て、説得した。サトルは困ったままだったが、渋々うなづいた。母親のメアリーも心配そうに見えたが、決めたらきかない娘であるのを知っているので、諦め気味のようだ。
「メカニックは決まりましたね。残りの三人ですが、アキヒト、ザーフェルト、それに、サラ。あなたたちはどうですか?」
アキヒトはアテナが提案した人選に驚いた。自分が選ばれるのは当然だと思っていたので、それに関する驚きではなく、母のサラの名が呼ばれたことだ。
「行くわ。行くけど、私が行っていいの?」
サラは立候補するつもりだったが、自分の名前が呼ばれたことに、やはり驚いている。
「あなたの超能力が旅の役に立つこともあるでしょう。それに、アキヒトが気になるはずです。コントロールルームには別の人にしばらく来て働いてもらうようにします」
サラはうなづき、
「分かったわ。アキヒト達と行ってくる」
細い体から、力強い返事をした。
「ありがとう、サラ。それでは会議を終了します。今の四人と、今から名前を呼ばれた人達は、準備をする必要がありますので、ここに残って下さい」
日がかなり傾いていたが、それは柔らかい陽光であった。会議室の窓から、アキヒト達を包むように照らしている。
アテナビレッジにいる住民達の全体会議から数日後、フューエルタンクへ向かうアキヒト達四人を送り出す結団式が、村内の北ゲート近くで行われようとしている。この数日間、アキヒト達は長旅に備えて、非常に入念な準備を整えていたようであった。
今回の旅にも、以前、ラストホープへ向かった時に活躍した、大型電動クルーザーを使用する。それには、特殊なアタッチメントが取り付けられていて、クルーザーが大きなコンテナをけん引できるように改造されていた。コンテナには、この旅のために必要な食糧、バッテリー、その他備品などが大量に積み込まれている。これをトレーラーのように引きずって走行するのだろう。
電動クルーザーの運転席側に、これから出発するアキヒト達がすっきりとした顔で立っており、しばらく会えなくなる村のみんなと話しながら、一時の別れを心に受け入れていた。
「マリー……分かってるとは思うけど、無茶なことはしないんだよ」
メアリーが今回のメンバーの一人である、娘のマリーと別れの前の話をしている。肝っ玉母さんのメアリーではあるが、今回は、やはり、非常に心配そうな様子が表情、話している声から観てとれる。
「分かってるわよ母さん。無茶をいつもするのはアキヒトでしょ? 私は大丈夫よ」
マリーの方は、対照的に気丈に振る舞っている。笑顔さえ浮かべていた。旅への心づもりがしっかりできている。
「なんだよ、それじゃ俺の信用がないみたいじゃないか」
傍で聞いていたアキヒトは面白くない顔で、会話に入ってきた。メアリーはそこでようやく微笑を浮かべ、
「そんなことはないよ、アキヒト。マリーのことを頼んだよ。守ってあげてちょうだい」
と、短いが、重い頼みがつまった言葉で託した。
「うん、それも分かってる。約束するよ」
アキヒトも短いがしっかりした返事をして、メアリーを安心させる。
「よし! 最終チェック終了! 異常なしだ!」
クルーザーの下から、作業用ボードに背を付けて、サトルが仰向けに出てきた。サトルも、この旅の準備に余念がなく、この数日間はクルーザーとコンテナの整備にかかりきりだった。
「ありがとうサトルさん。何から何まで……」
サラが申し訳なさそうに、サトルに礼を言っている。裏方の仕事を黙々とやるサトルに感謝してもしきれないのが、サラの声色からにじみ出ていた。
「いいんだよ。何か危ないことがあったら、無理を利かさずに帰ってくるんだよ」
仕事をやり切った、いい男の笑顔で、こだわらない返事をサトルが返す。
「話シハ尽キマセンガ、ソロソロ出発シマショウ」
ザーフェルトがクルーザーの運転席に乗り込むと、あとの三人も、村のみんなに会釈をして、それぞれの席に乗り込んだ。
クルーザーはゆっくりと動き始め、北ゲートまで進み、アテナとの最終的なコンタクトをそこで始めた。