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永遠の架け橋  作者: チャラン
第一章 アキヒトの章
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第十三話 大変な計画

 アキヒトとザーフェルトの二人は、ラストホープを後にした。アテナビレッジへの帰還途中に、完全に日が落ち夜になったので、クルーザー内の座席を倒し、車中泊をして一夜を明かした。そして翌日、再び車を走らせ、アテナビレッジまで戻った。


 村の東ゲートから、二人はアテナにコンタクトを取ると、アテナは安堵の表情で「おかえりなさい」と言い、ゲートを開けた。村内に戻ると、サラを始めとした村の皆も、ホッとした顔で二人を出迎えた。


 その日は、アキヒトとザーフェルトをしっかり休養させ、翌日、ラストホープの詳しい話を、会議室で二人から皆は聞くことにした。


 二人が十分休養を取った翌日。


 コントロールタワーの会議室には、そこに入れるだけの村民が、会議に参加するために入っている。報告をするアキヒトとザーフェルトの二人は、大画面モニターの脇に、それぞれいる。アテナビレッジの村民の人数は、アンドロイドも含めて、五十人程度しかいないが、それでも、会議室に村民全員が入ることはできなかった。


「では、これからラストホープとイシュタルに関する報告をします」


 会議を始める時刻になったので、アキヒトがハッキリとよく通る声で、会議を開始させた。その声を聞いた村民達は、波を打ったように静かになり、アキヒトに注目した。


「俺とザーフェルトは先日、クルーザーを走らせて、アテナのメッセージを届けに、ラストホープへ行きました」


 アキヒトは報告を始め、ラストホープに着くまでの、道中の周囲の環境、ラストホープの重厚な外壁とセキュリティ、などについてまず話した。


「イシュタルについてですが、気になることがありました。冷酷さも感じられたんですが、アテナのような優しさも、俺に見せたように思います。そして、俺にこれをくれました」


 左手首に着けているブレスレットを外すと、アキヒトはそれを皆が見えるように高く上げ、村民によく見せた。どよめきのような声が、村民の中から聞こえてくる。


「それを着けて何か変わったことがあったかの? あれば正直に言ってみてくれ」


 質問をしたのはセトだった。セトもブレスレットを物珍しそうに見ている。


「いや、特には変わったことは感じられないよ。ただ、イシュタルは、これを身につけていれば、俺の役に立つこともあるだろう、ということは言ってた。補足で言うと、このブレスレットには、発信機や盗聴器のような類は、全く埋め込まれていないことが分かってる」


 なぜそう言えるかといえば、村に帰ったときに、アテナにブレスレットを電磁スキャンしてもらい、隅々まで分析したからだ。


「ふむ……。そうか」


 納得したセトは白い髭を撫でつつ、先ほどと変わらず、ブレスレットをよく眺めている。




 会議は続く。


 イシュタルに、無事、アテナからのメッセージを渡した旨を報告した後、アキヒトは表情をシリアスなものに変え、もう一つの本題の報告を始めた。


「皆、驚くと思うけど、これを見て。これは、母さんとサトルさんの協力があって撮ることができた、ラストホープの内部映像なんだ」


 大画面モニターの脇にいるザーフェルトが、モニターとつながっている端末に、マイクロメモリーを差し込み操作すると、ラストホープで撮った映像が映し出された。それを見た村民の間で再びどよめきが起こった。


「俺が何か言うより、この映像をよく見てもらえば、ラストホープにいる人間がどういう環境にいるか分かると思う」


 それはまさに、動物園の檻である。現代の動物園の檻にいる動物達なら、飼育員や色んな人間の愛情を受けて管理されるが、ここの人間達は、機械的に研究データを取られるためだけに生きているのだ。


「あれは……! タツキね!」


 映像は後半部分になり、その部分にはタツキが主に映っている。タツキの妻であるサラは、その様子を食い入るように見ていた。


「俺の父さん……、タツキの生存もハッキリと確認できた。今は元気そうに見えるけど、あそこの環境で生きていると、いつか精神的にもたなくなると思う……」


 アキヒトは悔しさと悲しみが入り混じった表情で歯噛みをしている。眼と鼻の先に、辛い状況にいる父親が見えているのに、その場で何もできなかった自分に腹が立っているのだろう。サラを始め、村民も、その心情がよく分かっている。


「映像ハ以上デス。報告ヲ終ワリマス」


 モニターの映像を消し、ザーフェルトは報告を閉めた。会議室の全体の空気は重い、しばらく誰も何も言わず、沈黙が走った。対照的に、窓の外からは、小鳥のさえずりや、虫の音がのどかに聞こえてくる。


「アキヒト」


 沈黙を不意に破りスピーカーから声が聞こえてきたので、名を呼ばれたアキヒトのみならず、全員が驚いた。黙って報告を聞いていたアテナが話し始めたようだ。


「それにサラにも訊きます。あなた達はタツキを助けて、ここに連れて来たくはないですか?」


 非常にストレートな言葉だっただけに、アキヒトもサラも返答にやや戸惑ったが、


「そりゃそう思ってるさ」

「アキヒトと同じよ」


 と、タツキの妻と子である二人の答えは決まっている。


「そうでしょうね。非常に周到な準備が必要ですが、タツキとラストホープにいる人達を助け出す方法はあります。長い計画になりますがやってみますか?」


 アキヒトとサラは顔を見合わせたが、


「方法があるならもちろんやるよ」

「どのくらい大変な計画か分からないけど、何でもやるわ」


 と、固い決意でアテナに誓った。

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